転入生
「今日、このクラスに転校してきた吉村美和さんです。みんな仲良くしてね」
担任の先生が紹介した。
教室が少しざわつく。
「吉村美和です」
先生の隣で、美和は少し緊張した面持ちで挨拶した。
四年二組。
今日からこのクラスだ。
もともと美和の母はこの町の出身だが、結婚後、父の仕事の関係で北海道に移り住んでいた。
ところが、美和が幼稚園のときに父が事故で亡くなってしまい、それからはずっと母と二人で暮らしてきた。
北海道は夏が短く、冬は長く厳しい。
美和は、生まれたときからそういう環境で育ってきたため、それが当たり前だったのだが、母は九州の育ちなので、冬になると「寒い、寒い」が口癖だった。
とはいっても窓は二重サッシになっているうえ、部屋の中はしっかり暖房が利いているため、子供にとっては暑いくらいである。
美和は、冬に食べるアイスクリームが大好きだった。
美和が小学四年生になったとき、母が美和に言った。
「今年の夏休みに、九州のおばあちゃん家の近くに引っ越そうと思うんだけど…」
この町に一人で住んでいる祖母もいろいろ心配な年齢になってきたこともあり、母が生まれ育ったこの町に引っ越すと言うのだ。
しかし、美和は転校するのが嫌だった。
幼稚園のころからの友達や、仲の良い同級生とも離ればなれになってしまう。
美和は、父が亡くなって以来、子供ながらに母を困らせまいと頑張ってきたが、初めて駄々をこねて母を困らせた。
まだ九歳の女の子には、到底受け入れられるものではなかった。
しかし、美和の抵抗も空しく、一学期の終業式が美和のお別れ会となってしまった。
美和は、涙で同級生とサヨナラをした。
楽しいはずの夏休みは、美和にとっては違う意味で忘れられないものとなった。
新しい学校で友達ができなかったらどうしよう。
美和は不安で一杯だった。
「じゃあ吉村さんの席は、そこの空いてるとこね」
美和は赤いランドセルを机の上に置いた。
隣は…
美和は右隣の誰もいない席を見た。
今日は欠席なのかな。
「吉村さん。私、西山恵理。よろしくね」
後ろの席の恵理が、人懐っこい笑顔で声をかけてくれた。
「うん」
美和は少し安心した。
よかった。恵理とは仲良くなれるかも。
でも、隣は誰だろう…
美和はなぜか右隣の席が気になって仕方なかった。
「はい。それじゃあ、授業を始めます。国語の教科書の…」
とうとう授業が始まっちゃった。
美和は今すぐこの場所から逃げ出したくなった。
九州の田舎町からすれば北海道は未知の世界だ。
一時間目の授業が終わると、そんな未知の世界からやってきた転入生の周りには、すぐに大きな輪ができた。
おかげで美和がこのクラスに馴染むのに、そう時間はかからなかった。