帰省
七月も半ばをむかえ、カズは少し早目の夏休みを取って実家へ帰ることにした。
そろそろ梅雨が明けてもいいころだが、昨夜からの雨は今日も降り続いている。
梅雨の最後のあがきとでもいったところだろうか。
そういえば、実家に帰ってくるのはいつ以来だろう。
以前は、夏と正月くらいは毎年帰省していたのだが、いつからか仕事を言い訳に自宅で一人でのんびりすることを好むようになっていた。
「おかえり」
父と母が笑顔で迎えてくれた。
この時期、カズが生まれ育ったこの町では小さな祭が行われる。
古くから行われるこの祭では、大きな竜が現れ、幼い子供が食べられる。そして食べられた子供は元気に育つ。どこにでもあるような神話が起源となっている祭だ。
しかしこれが意外と盛り上がる。親たちはこぞってわが子を竜の口に運び、わが子が元気に育つよう竜に願いをかける。
記憶にはないが、カズも幼いころ、竜に食べられたに違いない。
数年ぶりに足を踏み入れたカズの部屋はきちんと整理されており、カズが実家にいたころとさほど変わっていなかった。母が掃除もしてくれているのだろう。
煙草に火をつけ、ごろんと横になる。
なんとなく本棚に目をやった。
端から順に目を移し、真ん中あたりで目が止まった。
高校の卒業アルバムだ。
起き上がって煙草の火を消し、本棚に手を伸ばした。
厚紙のケースからアルバムを取り出し、ページをめくる。
懐かしい。
体育祭、文化祭、クラスマッチ…
カズはこういうランダムに撮られた写真にはなぜか縁がない。たしか小学校も中学校もそうだった。
ページを進める。
クラス写真だ。
村上、恵理、そして美和。
美和は長い黒髪を両側で束ねて、笑顔で写真に納まっていた。
みんな若い。当たり前か。
裏表紙はクラスメイトからの寄せ書きで埋められていた。
美和が書いたものもあった。
「北海道にも遊びにきてね!」
ただ、それだけだった。
美和はどんな思いでこの言葉を書いたのだろう。
カズはこないだの居酒屋で、美和が言ったひとことを思い出していた。




