電話
美和は北海道の大学を卒業してすぐに実家に戻ってきていた。
しばらくは家事手伝いをしていたが、いつまでも親のすねをかじっているわけにもいかないので、近所のCDショップでアルバイトを始めた。
カズがプロのミュージシャンになったら、いち早くその情報を得ることができるかもしれない。そう思ったからだ。
毎週火曜日と金曜日に新譜が入荷する。新譜が入れば試聴をして、そのCDのPOPを書いて店頭に並べる。いわゆる、アーティストや楽曲の紹介、感想などが書いてある、あれだ。
もし、カズのCDが入ってきたらどうしよう。絶対にひいきしちゃう。
そんなことを考えるだけでも毎日が楽しかった。
あるとき、いつものように試聴をしていると、美和はあるロックバンドの曲にはっとした。
これって…
ドキドキしながらインターネットでバンドのメンバーを調べる。
どうやら違ったようだ。
なぁんだ。
カズの曲かと思った。
でもカズが昔演っていた音楽に、それくらい雰囲気が似ていた。
きっとカズも好きに違いない。
美和は、この名もなきロックバンドを当然のようにプッシュした。
カズにも届きますように―
美和は、普段の真面目な働きぶりに、そのPOPのセンスや評判も手伝って、のちに正社員として採用された。
美和は正社員に採用された日、思い切ってカズに電話をかけてみた。
声を聞くのは十年ぶりだ。
カズは覚えていてくれるだろうか。
なんだかドキドキする。
しかし、呼び出しはするが出ない。
番号は恵理を通じて村上に教えてもらったから間違いないはずだ。
もう一度番号を確認してかけてみる。
やはり出ない。
忙しくて出られないのだろうか。
美和はがっかりした。
どうしてもカズに知らせたかったのに―




