寄せ書き
式典は予定の時間より若干早く終わった。
父兄や在校生たちの拍手に見送られ、みんなで教室に戻り、最後のホームルームが始まった。
みんなの机の上には卒業アルバムが置かれていた。思い思いにアルバムを見る。
担任教師の話なんかほとんど誰も聞いていない。
「お前ら、最後くらい話を聞け」
みんな笑った。
担任教師も笑顔だ。
今日はこれでいいのだろう。
そして、卒業生一人ひとりに担任教師から卒業証書が手渡された。
こうして、高校生として名前を呼ばれるのはこれが最後だ。
卒業証書を受け取った後は、それぞれに思いを語った。部活を頑張ったことや、朝の補習が眠くて辛かったこと。それにこれからの進路のこと。
カズは何て言うんだろう。
美和はなんだかドキドキした。
カズの名前が呼ばれた。
カズは少し照れくさそうに、バンドの話をした。そして、プロになったらCDを買ってくださいと締めくくった。
「買わねぇよ」
他の男子がからかってみんな笑った。
やっぱり音楽を続けるんだ。
美和はなんとなく嬉しかった。
クラス全員の挨拶が終わった。男子はウケ狙いのコメントをする人もいたが、ほとんどの女子は泣いていた。
美和も泣いた。
最後に担任教師から卒業を祝う言葉を贈られ、最後のホームルームは終わった。
だが、名残惜しいのか、みんな教室から出ようとしない。
いくつものグループの輪ができては崩れ、また新しい輪ができる。泣いたり笑ったり、クラスのみんなが「本当の最後」を引き延ばしているかのようだった。
誰が言い出したのかわからないが、卒業アルバムの裏表紙にみんなで寄せ書きをすることになった。
美和は、恵理や他の友達のアルバムには、感謝やお別れや激励の言葉を素直に書くことができた。
しかし、カズのアルバムにはどう書いていいかわからなかった。本当のお別れになってしまうのが嫌だった。
そして、いよいよカズのアルバムが美和のところに回ってきた。
どうしよう。何を書こう―
「美和、早く書きなよ」
隣にいた恵理が、ペンを握りしめたまま動こうとしない、美和の手元を覗き込むように言った。
「うん…」
美和は、これまでのカズとのことを思い出しながら、今の精いっぱいを書いた。




