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  作者: zaku
20/26

寄せ書き

 式典は予定の時間より若干早く終わった。

 父兄や在校生たちの拍手に見送られ、みんなで教室に戻り、最後のホームルームが始まった。

 みんなの机の上には卒業アルバムが置かれていた。思い思いにアルバムを見る。

 担任教師の話なんかほとんど誰も聞いていない。

 「お前ら、最後くらい話を聞け」

 みんな笑った。

 担任教師も笑顔だ。

 今日はこれでいいのだろう。

 そして、卒業生一人ひとりに担任教師から卒業証書が手渡された。

 こうして、高校生として名前を呼ばれるのはこれが最後だ。

 卒業証書を受け取った後は、それぞれに思いを語った。部活を頑張ったことや、朝の補習が眠くて辛かったこと。それにこれからの進路のこと。

 カズは何て言うんだろう。

 美和はなんだかドキドキした。

 カズの名前が呼ばれた。

 カズは少し照れくさそうに、バンドの話をした。そして、プロになったらCDを買ってくださいと締めくくった。

 「買わねぇよ」

 他の男子がからかってみんな笑った。

 やっぱり音楽を続けるんだ。

 美和はなんとなく嬉しかった。

 クラス全員の挨拶が終わった。男子はウケ狙いのコメントをする人もいたが、ほとんどの女子は泣いていた。

 美和も泣いた。

 

 最後に担任教師から卒業を祝う言葉を贈られ、最後のホームルームは終わった。

 だが、名残惜しいのか、みんな教室から出ようとしない。

 いくつものグループの輪ができては崩れ、また新しい輪ができる。泣いたり笑ったり、クラスのみんなが「本当の最後」を引き延ばしているかのようだった。


 誰が言い出したのかわからないが、卒業アルバムの裏表紙にみんなで寄せ書きをすることになった。

 美和は、恵理や他の友達のアルバムには、感謝やお別れや激励の言葉を素直に書くことができた。 

 しかし、カズのアルバムにはどう書いていいかわからなかった。本当のお別れになってしまうのが嫌だった。

 そして、いよいよカズのアルバムが美和のところに回ってきた。

 どうしよう。何を書こう―

 「美和、早く書きなよ」

 隣にいた恵理が、ペンを握りしめたまま動こうとしない、美和の手元を覗き込むように言った。

 「うん…」

 美和は、これまでのカズとのことを思い出しながら、今の精いっぱいを書いた。



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