卒業式
三月一日。
たいがいの高校は今日が卒業式だ。
いつもはジャージ姿の体育教師も今日ばかりはスーツを着ている。
後輩たちは朝早くから登校したのだろう。椅子を並べたり来賓受付用のテーブルを運んだりして、卒業式の準備をしている。
私たちも去年はそうだったんだ。
美和は思った。
とうとう今日でこの学校ともお別れだ。
仲の良かったクラスメイト。
恵理。
そして、カズとも。
美和は北海道の大学に、村上と恵理はそれぞれ県内の大学に進学が決まっていた。
音楽を続けると聞いていたが、カズはどうするのだろう。
美和はカズの方を見た。
カズは村上たちと楽しそうに喋っている。
そういえば、あのときも…
美和は初めてカズと会ったときのことを思い出していた。
相変わらず男子に人気があるんだから。
「美和ぁ。あたし泣きそう」
恵理が抱き着いてきた。
「えー?まだ早いよ」
美和は笑いながら恵理の頭を撫でた。
「村上くんが心配するよ」
美和が耳元で囁くと、恵理は驚いた表情で美和を見た。
「何で?」
真っ赤な顔で聞き返す恵理が、とても可愛く思えた。
「知らなーい」
美和はわざととぼけてみせた。
恵理から直接聞いたことはないが、恵理と村上が付き合っていることくらい、美和はちゃんと気付いていた。
「ちょっと。美和?」
「恵理、おもしろーい」
美和が笑うと、恵理も照れくさそうに笑った。
美和と恵理とカズは、美和が小学生のときに北海道から引っ越してきてから、ずっと一緒だった。
三人で当たり前のように同じ高校に進学した。そして、カズが村上とバンドを組んでからは、四人で遊ぶようになった。
修学旅行もほとんど四人で行動した。
四人で映画も観に行った。
カズと村上のバンドが出るライブに、恵理と二人で行ったこともあった。
楽しい思い出はたくさんある。
しかし、既に北海道の大学に進学が決まっている美和は、これからは、みんなとは別々の道を歩いて行かなければならない。
自分で決めた道とはいえ、もう、しばらくの間は簡単には会えないだろう。
大学を決めた時点でわかっていたことなのに、今日で終わってしまうと思うと、美和は急に淋しくなった。
できることなら、永遠に今日という日を迎えたくはなかった。
担任教師の号令で、卒業式の会場である体育館に入場する体制に並んだ。
少しだけ緊張が高まる。
教室を出て静かに廊下を歩く。
恵理はもう泣いている。
本当に終わっちゃうんだ。
美和は歩きながら、カズの後姿をずっと見ていた。




