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  作者: zaku
19/26

卒業式

 三月一日。

 たいがいの高校は今日が卒業式だ。

 いつもはジャージ姿の体育教師も今日ばかりはスーツを着ている。

 後輩たちは朝早くから登校したのだろう。椅子を並べたり来賓受付用のテーブルを運んだりして、卒業式の準備をしている。

 私たちも去年はそうだったんだ。

 美和は思った。

 とうとう今日でこの学校ともお別れだ。

 仲の良かったクラスメイト。

 恵理。

 そして、カズとも。

 美和は北海道の大学に、村上と恵理はそれぞれ県内の大学に進学が決まっていた。

 音楽を続けると聞いていたが、カズはどうするのだろう。

 美和はカズの方を見た。

 カズは村上たちと楽しそうに喋っている。

 そういえば、あのときも…

 美和は初めてカズと会ったときのことを思い出していた。

 相変わらず男子に人気があるんだから。

 

 「美和ぁ。あたし泣きそう」

 恵理が抱き着いてきた。

 「えー?まだ早いよ」

 美和は笑いながら恵理の頭を撫でた。

 「村上くんが心配するよ」

 美和が耳元で囁くと、恵理は驚いた表情で美和を見た。

 「何で?」

 真っ赤な顔で聞き返す恵理が、とても可愛く思えた。

 「知らなーい」

 美和はわざととぼけてみせた。

 恵理から直接聞いたことはないが、恵理と村上が付き合っていることくらい、美和はちゃんと気付いていた。

 「ちょっと。美和?」

 「恵理、おもしろーい」

 美和が笑うと、恵理も照れくさそうに笑った。


 美和と恵理とカズは、美和が小学生のときに北海道から引っ越してきてから、ずっと一緒だった。

 三人で当たり前のように同じ高校に進学した。そして、カズが村上とバンドを組んでからは、四人で遊ぶようになった。

 修学旅行もほとんど四人で行動した。

 四人で映画も観に行った。

 カズと村上のバンドが出るライブに、恵理と二人で行ったこともあった。

 楽しい思い出はたくさんある。

 しかし、既に北海道の大学に進学が決まっている美和は、これからは、みんなとは別々の道を歩いて行かなければならない。

 自分で決めた道とはいえ、もう、しばらくの間は簡単には会えないだろう。

 大学を決めた時点でわかっていたことなのに、今日で終わってしまうと思うと、美和は急に淋しくなった。

 できることなら、永遠に今日という日を迎えたくはなかった。


 担任教師の号令で、卒業式の会場である体育館に入場する体制に並んだ。

 少しだけ緊張が高まる。

 教室を出て静かに廊下を歩く。

 恵理はもう泣いている。


 本当に終わっちゃうんだ。

 美和は歩きながら、カズの後姿をずっと見ていた。



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