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  作者: zaku
18/26

 外は激しく雨が降っている。

 カズは行きつけの居酒屋にいた。

 生ビールを半分ほど飲んだところに美和が遅れてやってきた。

 「ごめーん。遅くなっちゃった」

 「遅い」

 カズは少し怒ったフリをした。

 「だって…」

 美和はもっともらしい言い訳を始めた。

 「わかったから、何か頼めよ」

 美和は言い訳を続けながら、甘いカクテルを注文した。

 「で、話って何だ?」

 カズはこの雨の中、さっきの電話で美和に呼び出されたのだった。

 正直、カズは嬉しかった。

 「うーん…」

 美和はうつむいて何か考え込んでいる。

 何かあったのか。

 「どうした?」

 美和は顔をあげて、無理やり作ったような笑顔で言った。

 「やっぱりいいや」

 そこへ美和のカクテルが運ばれてきた。

 「ね。飲も」

 今度は本当の笑顔に見えた。

 「はい。カンパーイ」

 半分しか入ってないビールジョッキを無理やり持たされた。

 いつもの美和のペースだ。

 いったい何なんだ。

 美和の言動に振り回されているような気がして、何だか腑に落ちない気分だったが、カズはこの際あれこれ詮索しないことにした。

 美和も言いたくなれば言うだろうし、今はこうして二人の時間を素直に楽しめばいい。

 カズは残りの生ビールを一気に飲み干し、二杯目を注文した。


 「ねぇ、なんとなく誰かに見られてるような気がすることってない?」

 ホラー好きの美和が唐突に言った。

 「振り返っても誰もいない、みたいな」

 そんなことはしょっちゅうある。カズは思った。

 「そういうときは、上を見ちゃダメだよ」

 美和は急に真顔になった。

 「上にいるんだって」

 そして低い小さな声で続けた。

 「目が合ったら、そのまま連れて行かれちゃうんだよ」

 カズは美和の真剣な表情を見て、思わず笑ってしまった。

 「何で笑うん。真面目に言ってるのに」

 美和はわざと頬を膨らませた。

 「ごめんごめん」

 「もう。サイテー」

 美和も笑った。


 「美和は何で北海道の大学に行ったんだっけ?」

 カズは酔った勢いもあって、とぼけて聞いてみた。

 ここから話が展開できれば、美和の十五年がわかるかもしれない。

 「カズが北海道に行ってみたいって言ってたからだよ」

 どういう意味だ?

 「そういえば、恵理と村上くんって結婚したんでしょ?」

 また話をかわされた。

 「今頃何言ってんだよ。もう五年も前のことだぞ」

 カズは少し苛立った。

 「そうだけど…」

 美和は口ごもった。

 カズははっとした。そういえば、美和は村上の結婚式に来ていない。

 その時も美和がいなかったことに誰も触れなかったし、出席できない何か特別な理由があるのだろうと、カズもあえて触れなかったのだ。

 カズは「しまった」と思った。

 美和を傷つけてしまったかもしれない。

 「ごめん…」

 「うん…」


 また一段と雨音が激しくなった。

 雨はまだ止みそうにない。



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