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  作者: zaku
17/26

白い服の母娘

 あれから美和とは会っていない。電話もない。こっちからかける用事も作れずに、携帯を眺めていた。

 今日も蒸し暑い。

 汗で体がベタつく。

 もう六月だ。

 梅雨入りも近いのだろうか。週末になると雨が降る。美和と会った日もそうだった。

 CDでも借りに行くか。

 カズは軽く昼食を済ませると、汗ばんだ体を洗い流した。

 傘をさしていつものレンタルショップへ向かう。午前中よりも雨足は強い。


 ジーンズもスニーカーもずぶ濡れだ。

 店内はエアコンが入っているのだろうか、足元が少しヒンヤリする。

 このレンタルショップは、新譜でなければCD五枚で一週間千円と、まとめて借りるのがお得だ。どうせ暇だし時間をかけてじっくりと選ぶ。

 懐かしいバンドの名前を発見した。高校の時に流行っていたバンドで、当然カズも聴いていた。たしか解散したと思っていたが、再結成したのだろうか。店内の試聴コーナーで聴いてみた。軽い興奮を覚える。

 決まりだ。

 あと四枚。

 最近の流行りの音楽にはあんまり興味はないが、カズ好みのマニアックなCDばかり五枚揃えるのもなかなか難しいものだ。

 Jポップのコーナーへ行ってみる。

 ここは人が多い。

 レンタルランキングの上位の方からゆっくりと眺めてみる。アーティスト名もアルバムタイトルもカタカナや横文字が多く、アーティスト名なのかタイトルなのか区別がつかないものも多かった。

 やっぱり最近の流行りの音楽はよくわからない。


 ぼんやりとCDを眺めていると、右手の方からなんとなく視線を感じた。そこには三歳くらいだろうか、白い服を着た小さな女の子が立っている。

 迷子だろうか。

 こっちに向かって何か喋っているように思えたが、よくわからない。

 周りにはたくさんの客がいる。

 少し気にはなったが、CDに目を戻す。

 再び視線を感じてその方向を見る。

 さっきの女の子の隣に若い女性が立っている。同じような白い服だ。

 よかった。母親がいたようだ。


 「キーン」

 突然頭を殴られたように空間が歪んだ。

 淀んだ空気が流れる。

 気が付くと周りには誰もいない。

 いるのはカズと白い服の母娘だけだ。

 体が動かない。

 母親がこっちに向かって何かつぶやいている。

 何だ。

 何を言っている!

 「あ…あああ…」

 やめろ!

 母娘の顔が歪む。

 「ああ…あああああ…」

 やめてくれ!


 突然、ポケットの携帯が鳴った。

 周りはいつものようにざわついている。

 美和だ。

 「もしもし…」

 「カズ?大丈夫?」

 「ああ。大丈夫」

 Tシャツが背中に張り付く。

 カズは額の汗をぬぐった。

 ふと時計に目をやる。


 午後二時十四分―



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