白い服の母娘
あれから美和とは会っていない。電話もない。こっちからかける用事も作れずに、携帯を眺めていた。
今日も蒸し暑い。
汗で体がベタつく。
もう六月だ。
梅雨入りも近いのだろうか。週末になると雨が降る。美和と会った日もそうだった。
CDでも借りに行くか。
カズは軽く昼食を済ませると、汗ばんだ体を洗い流した。
傘をさしていつものレンタルショップへ向かう。午前中よりも雨足は強い。
ジーンズもスニーカーもずぶ濡れだ。
店内はエアコンが入っているのだろうか、足元が少しヒンヤリする。
このレンタルショップは、新譜でなければCD五枚で一週間千円と、まとめて借りるのがお得だ。どうせ暇だし時間をかけてじっくりと選ぶ。
懐かしいバンドの名前を発見した。高校の時に流行っていたバンドで、当然カズも聴いていた。たしか解散したと思っていたが、再結成したのだろうか。店内の試聴コーナーで聴いてみた。軽い興奮を覚える。
決まりだ。
あと四枚。
最近の流行りの音楽にはあんまり興味はないが、カズ好みのマニアックなCDばかり五枚揃えるのもなかなか難しいものだ。
Jポップのコーナーへ行ってみる。
ここは人が多い。
レンタルランキングの上位の方からゆっくりと眺めてみる。アーティスト名もアルバムタイトルもカタカナや横文字が多く、アーティスト名なのかタイトルなのか区別がつかないものも多かった。
やっぱり最近の流行りの音楽はよくわからない。
ぼんやりとCDを眺めていると、右手の方からなんとなく視線を感じた。そこには三歳くらいだろうか、白い服を着た小さな女の子が立っている。
迷子だろうか。
こっちに向かって何か喋っているように思えたが、よくわからない。
周りにはたくさんの客がいる。
少し気にはなったが、CDに目を戻す。
再び視線を感じてその方向を見る。
さっきの女の子の隣に若い女性が立っている。同じような白い服だ。
よかった。母親がいたようだ。
「キーン」
突然頭を殴られたように空間が歪んだ。
淀んだ空気が流れる。
気が付くと周りには誰もいない。
いるのはカズと白い服の母娘だけだ。
体が動かない。
母親がこっちに向かって何かつぶやいている。
何だ。
何を言っている!
「あ…あああ…」
やめろ!
母娘の顔が歪む。
「ああ…あああああ…」
やめてくれ!
突然、ポケットの携帯が鳴った。
周りはいつものようにざわついている。
美和だ。
「もしもし…」
「カズ?大丈夫?」
「ああ。大丈夫」
Tシャツが背中に張り付く。
カズは額の汗をぬぐった。
ふと時計に目をやる。
午後二時十四分―




