白い家
帰りの車の中で村上が妙なことを言いだした。
「この先に心霊スポットがあるんだけど、行ってみないか?」
「えー?やめようよ。そんなことしたらよくないよ」
恵理は猛反対している。
「大丈夫だよ。前を通るだけだから」
カズも行きたくはなかったが、村上は行く気満々だ。
結局、村上に押し切られる格好で、そこに行くことになってしまった。
カズは嫌な予感がした。
それから三人は自然と無口になった。
少し緊張しているのだろうか。
行きの車の中や、さっきのレストランではあんなに上機嫌だった恵理も、黙って窓の外を眺めている。
突然、大粒の雨がフロントガラスを激しく叩いた。
「さっきまでいい天気やったのにな」
村上がつぶやいた。
恵理は無視したようにまだ黙っている。
「そうだな…」
カズはそう答えながら、美和のことを考えていた。
今日一日、三人であれだけ色んな話をしたのに、村上も恵理も美和の話題はこれっぽっちも出さなかった。
一体何があったのだろう。
カズは気になって仕方がなかった。
しばらく走ると、満腹感のせいか、カズは急に睡魔に襲われた。
ここで眠ってしまっては、運転している村上に申し訳ない。
必死に眠気をこらえていると、右前方に青白くぼんやりと光っているように見える白い家が見えてきた。
「キーン」
ラップ音とともに何かが腐ったような生臭さが鼻をついた。
村上も恵理も黙っている。
気付いていないのか。
村上が徐々に車を減速させる。
そして、その家の前で車を止めた。
生臭い。
「ここだよ」
家の門には「売家」の看板。
誰も住んでいないようだ。
「昔、ここに住んでいた女の人が事故で亡くなったらしいんだけど、その後、ここに住んだ人はすぐに引っ越しちゃうんだって。どうやら『出る』らしいぞ」
村上がわざと小さな声で言った。
カズはなんとなく家の二階に目をやった。
窓から女がこっちを見ている。
はっと息をのんで目を逸らした。
「うわぁ!」
突然村上が大声を出した。
カズは村上を見た。
「なんてな。冗談だよ」
「もう、やめてよぉ」
恵理は半泣きだ。
「お前いいかげんにしろよ」
カズは村上の方に向き直って言った。
そのとき、後部座席の恵理の隣にさっきの女がずぶ濡れで座っているのが見えた。
慌てて振り返ってみたが、そこには誰もいない。
何だ、今のは。
反射的に家の二階の窓を見る。
誰もいない。
村上は何も言わずに車を発進させた。
恵理はまだ村上に文句を言っている。
カズは、それを無視するように黙って運転している村上を見た。
村上はこわばった表情で、時々バックミラーに視線を送っている。
もしかしたら、村上にも見えていたのだろうか。
それとも、今も―




