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  作者: zaku
13/26

居酒屋

 映画は二時間弱で終わった。普段あまり映画を観ないカズにとっては若干長くも感じられたが、話の展開が早く、飽きるということはなかった。

 それにこの手の映画は、ストーリーよりも視覚や音に脅かされてばかりで、退屈する暇がない。

 「怖かったぁ」

 美和は満足したようだ。

 「今日は付き合ってくれてありがとね」

 え?もう帰るのか?

 一瞬そう思った。

 まだ何にも聞いてないのに…

 雨が二人の傘をたたく。

 お互い黙ったまま少し歩いた。

 カズは思い切って切り出した。

 「美和さぁ…」

 「カズ、お腹空かない?」

 「え?」

 「ねぇ何か食べに行こ。ね。お店はカズに任せるから」

 話の腰を折られた。

 カズは少しムッとしたが、悟られないように正面を向いたまま言った。

 「居酒屋でいいか?」

 「そこってカズの行きつけとか?」

 「ああ」

 「じゃあそこで決まりね」

 なぜか嬉しそうにはしゃぐ美和を見て、カズもなんとなく嬉しくなった。


 カズの行きつけの居酒屋は、とても女性を連れて行くような洒落た店ではなかった。ただ、魚は美味い。それだけが売りの、いかにもオヤジ受けするような店だ。

 「こんなとこで悪いな」

 「何で?」

 「洒落た店とか知らないから」

 「いいよ。だってカズの行きつけなんでしょ?」

 美和はあまりアルコールが得意じゃないのか、アルコール度数の低い甘そうなカクテルを選んでいる。

 こんな店にもカクテルがあったのか。

 ビールと焼酎しか飲まないカズには、なんとなく新鮮に感じられた。


 少し酔いが回ったところでカズは思い切って聞いてみた。

 「美和って高校卒業してから今まで何してたんだ?」

 美和は少しだけ目を伏せて言った。

 「聞きたい?」

 カズはドキッとした。

 「まぁ、言いたくないならいいけど…」

 失敗した。

 「なら教えなーい」

 やっぱり。

 なんとなくそう言われると思った。

 ただ、遠くを見つめている視線が少し気になった。


 結局何も聞けないまま店を出た。

 まぁいい。またいつか会えるだろうし、無理に聞いて美和の機嫌を損ねるのも嫌だ。

 そんなことを考えながら駅まで歩く。

 そういえば、美和はどこに住んでいるんだろう。

 「これからどうやって帰る?」

 「帰らないよ」

 「あぁ?」

 「カズんちに泊まっちゃおうかなぁ」

 何言ってるんだ?

 「ウソだよ。バーカ」

 美和は「またね」と手を振って、カズの前からいなくなった。

 カズは美和がどっちへ行ったのか、なぜかわからなかった。


 雨はいつの間にか止んでいた。



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