ホラー映画
カズの心配は杞憂に終わった。
十五年ぶりに再会した同級生は、若干茶色に染められた髪の毛以外はさほど変わっていないように思えた。そして何より美和がカズのことをはっきりと覚えていた。
「カズ変わらないね」
カズの左側を歩きながら美和が言った。
「そうか?」
「私は?」
こんなとき、少し気の利いたセリフでも出てくればいいのだが、カズはそういうことが苦手だ。肝心なときに言葉が出てこない。
「少しくらい褒めてくれてもいいのに」
美和はちょっぴり拗ねてみせた。
「カズらしくていいけどね」
そういえば、美和が転校してきたときもそうだった。何を言っていいかわからず、声をかけてやれなかった。おそらく無愛想なヤツだと思われていただろう。第一印象は最悪だったに違いない。
「ねぇ、行きたいとこがあるんだけど」
美和はカズの顔を覗き込むように言った。
「いいよ。どこでも」
ありがたい。カズはノープランだった。
しばらく歩いて着いた先は、昔からある古い映画館だった。
「これ観たかったんだよねぇ」
美和が観たいと言っているのは最近流行っているとか、話題の映画ではなかった。ホラー映画だ。しかも数年前に上映された、いわゆるリバイバルというやつだ。上映当時、見逃していたのか。だとしても、今ならDVDもレンタルされているはずだし、わざわざここで観なきゃならない理由が、カズには理解できなかった。
「ねぇ、いいでしょ?」
「いいけど…」
返事の途中でチケット売り場に向かう。
高校のとき一度だけ美和と映画を観に行ったことがあった。とはいっても、二人ではなく、村上と恵理も一緒だったが。
そういえば、そのときもホラー映画だったことを思い出した。
「高校のときも一緒にホラー観たよね」
美和も同じことを考えていたのか。
チケットを買い、フードコーナーへ向かった。
「カズ、コーヒーでいい?奢るよ」
「あぁ。悪いな」
「じゃあ買ってくるから待ってて」
映画館に来たのは何年ぶりだろう。
そもそも映画自体、それほど興味があるわけでもない。レンタルDVDやテレビ放送で十分だし、話題作を年に二、三本観るか観ないかだ。
今日のように誰かに誘われなければ、ここに来ることはないだろう。
そんなことを考えながら、売り場に並ぶ美和の後姿をぼんやりと眺めていた。
しばらくすると、紙のトレイにホットコーヒーを二つ乗せて美和が戻ってきた。
「カズ、行こ。あんまり時間ないよ」




