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【DV編】残業

 最近、仕事でミスが増えた。

原因は言うまでも無く副業のせいだ、いや、ボランティアというべきか。どっちにしてもこのままではクビになってしまうと思った俺は残業を増やし、作業が遅れない様にした。

結果、睡眠時間が減ってしまい、そのせいでさらにミスが増えるといった悪循環に苛まれていた。

そんな時の事だ。





 今日もいつもの如く残業で遅くなりそうだ。

俺は一人窓を眺めながら溜め息をついている。


(はーあ)


周りには誰もいない。

最近、溜め息増えたな。はよー帰りてえ。


(はーあ)


 窓には上から橙→朱色→紫と三色で彩られたグラデーションが一面に広がっており、その上から黄色で小さな円をアクセントに描かれていた。それはまさに神様が作った芸術作品で、その瞬間俺は、手を休め、目の前にある超大作を独り占めしていた。日常を忘れリラックス出来る唯一の時間だ。

今までこの景色を何度も見たがこんなにな感傷的になるのは最近になってだった。

何故だろう。

三択好きの俺は考えてみた。


1、追われる日々を過ごす様になって疲れているから。

2、年を重ねて、夕日の持つ哀愁を感じる事ができる様になったから。

3、仕事への拒否反応が作り出した意味の無い抵抗心。


 答えが出た。

…1だな。

だがこんな事を考えている原因は3だろう。

……

さてと、仕事するか。


 休めていた手をキーボードに近付けた。


「カタカタカタカタ」


灰色一色の世界を俺の手が自在に飛び回り、十×2、計二十本の指が無数にあるビル(キー)を綺麗に押し潰して次のビルへ。それをひたすら繰り返す。

全滅させるまで。

生きる為に。

それが任務であり、これが本当の俺。ヒーローとは真逆の仕事(?)だ。

だが何千、何万と潰し続けても終わりはこない。

奴等は潰した傍からすぐに立て直してくるのだ。

敵は磐石。だから倒した功績を裏付ける証拠が必要になる。

そう、戦国時代の武士が、殺した敵の首を切り落として持ち帰った様に。

俺はビルを潰す度に、ディスプレイと言う名の画面に記していく。

そしてある程度記すと、それを紙に写して、証拠として上司に渡す。

じゃないと首を切られる。

時代は変わっても根本的には変わらない。実力主義で弱肉強食の世の中だ。

弱い者は全滅させられるまで。

強い者が生きる為に。

それが現実。

そんな世にあって弱いものを救う?

笑わせる、時代に逆行するなんて馬鹿のする事だ。

しかし、俺はあえて馬鹿になろう。

そう、イエス・キリストが十字架に磔にされた様に。


「いや、お主は生まれた時から、もうすでに馬鹿じゃ」


いきなり俺の心は綺麗に押し潰された。


「俺、喋ってねえのに」

「馬鹿の考える事などお見通しじゃわい」


定位置となった胸ポケットから相変わらずむかつく声がする。コイツと喋るといつも口喧嘩になってしまう。


「馬鹿って言う方が馬鹿じゃねんか」

「分かった分かった、そうゆう事でええわい。じゃから早く仕事をせんか。馬鹿者」


こいつ性格最悪。


「うっせえなー、馬鹿玉ンに言われんでも分かっとるわ」

「馬鹿雄が」

「馬鹿玉ンが」

「馬鹿雄!」

「キャアンディ♪」


遥口調で言ってみた。


(……ボゴッ)


「おい、馬鹿じゃけん言い返せんのか」

(ボゴッ)

「ふざけんじゃ」

(ボゴッ)

「いい」

(ボゴッ)

「……………」

(カタッカタカタカタ、カタカタカタカタ、カタカタカタカタカタカタカタカタ)

「サボると承知せんぞ」


飴玉ンは鬼教官になっていた。


「あと二時間で終わるわ」


俺は何事も無かった様に仕事に取り掛かっている。

額以外は。

誰か助けてくれー。




 一時間半後。

「ふあーーー眠っ」


大口で欠伸をしながら伸びをした。


「終わったのか」

「あとちょい」


俺は目を休めようとまた外を見た。もうすっかり日は暮れていた。がっかりした俺は何気なく隣の机を眺めた。目に付くのは乱雑に積み上げてある書類の山と100円均一で売ってそうな籠、籠の中には飴やガムで山盛りになっている。俺はしばらくその籠をじーっと見続けていた。


「早く終わらせて帰るぞ」

「うん…」

「どうかしたのか? えらく素直じゃの」


俺は籠の飴から飴玉ンへと視線を移す。


「聞きてえ事があるんじゃけど、ええ?」

「? よかろう」


飴玉ンはきょとんとしている。


「今更じゃけど、アンタ一体何?」

「見ての通り飴じゃ」

「そうじゃのうて、なんで飴なのに動けて喋れるん?」

「ああ、な、なんでじゃろうなー忘れつしもうた」


声のトーンが上がり、噛んだ。飴玉ンの嘘は分かりやす過ぎる。


「そっちが俺巻き込んだんじゃけん、説明してもらう権利ぐらいはあるで」


俺は逆に低いトーンで喋ってみる。


「……分かった」


俺の顔を見た飴玉ンは諦めた様に話し始めた。


「ワシも昔はれっきとした人間じゃった。今で言う戦国時代に貧しい農民として暮らしておっての。そして死後。生まれ変わる為に神から試練を与えられたのじゃ、それで飴に魂を入れてもらって試練をしに下界に来たのじゃ」


信じがたいが、トーンが上がってないし、噛んでもいない。嘘は言ってない様だ。


「じゃあその試練が悪者退治なん」

「そうじゃ」

「でも、なんで飴に」

「それはワシにも分からぬ」

「ふーん、え、じゃあ神様に会った事あるんじゃ、どんな顔だった?」

「ああ、おばあさんじゃった」

「ホンマにー!? 以外、男じゃねんじゃ」


俺は自分の感情が弾んで抑えられないでいた。

こいつは死後の世界から来た神の使い。天使なのか。

そう思うと余計に弾みスーパーボール級になった。


「あとはー戦国時だ、あっ!」

(ピコンッ)


飴玉ンが一瞬光りすぐ消えた。すると抑えられなかったスーパーボールが一瞬にしてトラップされた。


「おおっ! この会社に悪がおる様じゃわい」


飴玉ンは明らかに嬉しそうだ。

俺は今日三度目の溜め息をついた。


(はーーあ)





 静まり返った会社を見回っている。しかし悪どころか人自体が見当たらない。皆帰ってしまったのだろうか。


「今日も残業ですか?」


背後から声が飛んできた。

振り向くとそこにはいつの間にか若い上司の宏がいた。


「まあそうなんよ」


俺はタメ口で返した。彼とは一回り以上歳が離れているからか、腰が低く、部下の私に敬語を使ってくれる。

そのため、社内で彼の悪口を聞いたことが無い。良い評判ばかりだ。そんな宏が犯人な訳無い。

当然、飴玉ンはピカリともしない。やっぱり彼は白だ。


「もう、会社に残っとるの俺等だけなん?」

「いや、あと鈴木さんと花田さんがいましたけど」

「なんで鈴木さんまで」

「さあ?なんか忘れ物を取りに行くとか」


ちなみに、鈴木さんとは会社の受付嬢であり、宏の恋人だ。宏はその事を内緒にしているつもりだろうが、実は社内中の噂で、社員は皆知っていた。彼は鈴木さんを待っているのだろう。


「では、お疲れ様です」

「ああお疲れ」


宏と別れ俺達は二階から一階に降りた。


「鈴木と花田のどっちかなのじゃな」

「たぶん、他に人がおらんかったけんな。まずは花田の所行くで。多分アイツが盗撮とかしとんじゃろ」

「何故そう思うんじゃ?」

「会ったら分かる、変人じゃけん」

「そうか、でどこにおるんじゃ?」

「ここ」

 

警備室の前に着いた俺は拳を中国拳法でありそうな形に変え、振り下ろした。


(コンコン)

「花田さーーん、ちょっとお話したい事があるんですけど」

………………


返事が無い。試しにドアノブを回してみると、回った。無用心な。泥棒が来たらどうするんな。そう思いながらこっそりと部屋に入っていく。


「花田さん!…あれ、おらん」

「どういうことじゃ?」

「分からん、なんかあったんかな」

「かもしれんのう」


奥には九個の小さなテレビが、ルービックキューブの断面の様に積み上げられていた。左右はうじゃうじゃとコードが地べたを這っており、少年の心を掴む要塞風だ。童心を忘れてない俺も最初見せてもらった時は軽く感動した。何回も見たからもう流石にと思っていたが、今回もなぜか俺の鼓動が早くなっていった。


「すこし鉄の臭いがせん?」

「嗚呼、言われてみればするのう…血か!!?」


その時、俺と飴玉ンは同じ物を見ていた。左のコードの横に置いてある巨大なダンボール箱。その大きさは人が入れそうな程、でかい。


「開けてみるのじゃ」

「俺?」


過去、警官やストーカー(同一人物)と対峙した時とは違う恐怖を感じていた。例えるならば、警官やストーカーに襲われた時が体が押しつぶされそうと思うのに対して、今回は自分の穴という穴から緑色のヘドロが噴き出す感じ。ただ箱を開けるだけなのに、足が固まった様に動かない。


「は、早くせんか」

「分かっとるわ」


意を決してダンボールに貼ってあるガムテープへと手を伸ばす。


ゆっくり


ゆっ

「ちょっと待て!」


「うわああー」


俺はその場で尻餅をついた。


「なぁにぃーー」

「指紋が付いたら後で面倒じゃ、軍手を使え」

「死体って決め付けんな!」

「指紋付いてもいいのじゃな」

「………」


いかにも変人の花田らしい趣味の悪い紫の軍手をはめた。

これでよし! 気を取り直してもう一度、箱に手を伸ばす。


(ビリッビリ、ビビビーー!)


ガムテープを剥がすと閉じていた蓋が少し開き、鉄の臭いが濃くなった。鳥肌から汗が伝う。俺は蓋を広げた。

中には本物の鉄が入っていた。という気の抜ける裏切りを期待していたが違い、裏切ってくれなかった。

中には人が入っていた。しかも血が頭にべっとり付いている。それを見た俺は反射的に目を背けてしまった。


「「うっ」」


言葉を失ってしまう。


「花田は女なのか?」


パニックになっていた俺は、突然の質問に飴玉ンの意図が理解できぬまま答えた。


「違う、じいさん……」


数秒後、意図を理解した俺が見たのは、忘れ物を取りに行っているはずの鈴木さんだった。


「鈴木さんが、なん、で?」


いつも小綺麗で隙の無い装いしか見た事がなかった鈴木さんの変わり果てた姿がそこにあった。


「こ奴が鈴木、じゃあ花田は?」

「……宏が危ねえ!」

「急ぐんじゃ!」


急いで二階に向かって走っている。大人になると走る事がめっきり減り、全力で走っていると自分の体なのに違和感を覚えていた。だが今は老いを嘆いている場合じゃない。


「救急車呼べ!!」


飴玉ンの怒声にも似た指示に従おうと、走りながら携帯電話を取り出してボタンを押そうと手を近付けたが、寸前で止まった。すると飴玉ンはさらに語気を強めた。


「119番じゃろうが、はよせんか!」

「いや、ハア、無理」

「ええからかけんか!」

「無理じゃ、ハア、圏外にハア、なっとる、ハア」

「なんじゃと」


飴玉ンはそのまま黙ってしまった。俺は携帯電話をしまい、走りに専念した。


「宏ーー、おったら返事しろー」


二階中を回ったが宏の姿は無い。もう一度一階に戻ると奥の方に人がいた。あれは宏、やっと見つかった。


「おーーい、宏ー」

「はーーい」


俺を見つけ、ただ事でないと思ったのだろう。宏は走ってこっちにくる。


「警備員の花田に会った?」

「下村さんに会う前、会って話しましたけど」

「じゃあ俺と会った後は、誰とも会ってねんじゃな」

「はい、で何があったんですか?」

「警備室で鈴木さんが頭から血流して倒れとった」

「え、麗奈、いや鈴木さんが」

「そうじゃけん、逃げろ、っておい待て」


俺が喋り終わる前に宏は警備室へと走っていた。俺も慌てて後を追った。


(ガチャ)

「麗奈、いや鈴木さん……誰がこんな」

「花田しかおらんで」

「……いや………違うと思います」

「心あたりがあるんか?」

「はい」


俺は瞬きを忘れるくらい宏を直視していた。


「それは誰でえ」


自分の唾を飲み込む。


「ふ…えっ!…下村さん、後ろ」

「はあっ? 何で俺な」

(ドゴッ)


後頭部を背後から鈍器で殴られたようで、真犯人を知らぬまま俺の意識は飛んでいった。

コメディーなのか何なのか、行き当たりばったり過ぎてよく分からない感じになってしまいました。

そもそも、小説の基礎も知らず駄文でスミマセン。

それなのにここまで読んでくれて感謝の極みです。できればこれからもお願いします。

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