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【序章】出会い

  「ただいま」と言いながら、玄関の扉を開けた。

返事がない。

静まり返った我が家で俺を迎えてくれたのは、窓から差す夕日の光だけだった。

「なんだ、今日は二人ともおらんのか」

机の上にあるチラシを見ながら呟いた。そこにはこう書いてあった。

《美華と一緒に実家へ行ってくるから、晩ごはんは買うなり作るなり好きにしてね。明日の朝には帰ります。   千恵子》

もっと前もって言ってくれりゃあええのに。

不満に思いながら少し嬉しくもあった。


いつも愚痴ばかりこぼす妻の千恵子、器の小さな私ではとても受けきれない。そのうち涙として溢れてしまいそうだ。あと娘の美華!昔はまるで牡丹のように可愛かったのが、年頃になって薔薇と化した美華のトゲは容赦ない、まるで俺を汚物扱いだ。

そんな二人がいない。よく考えたら最高なんじゃないか?よし!今日はビールでも買って好きなもん喰うか。

俺は急いでスーパー(マーケット)へと車を走らせた。



 「ふぅー」

スーパーから帰ってきて一息着いている。カーテンを閉めて、戸締りもした。後は飯食って、寝るだけ。風呂は今日、せっかく一人なのでやめておく事にした。

さて喰うか。

さっそくレジ袋を広げ中を覗くと、中には買った覚えのない物が一つ混じっていた。

「飴?」

だいだい色の袋に包まれた、十円で売っていそうな飴玉が一つ当然の様に居座っていた。


何故に?


俺はスーパーでの事を思い起こしてみる。

「え――っと。まず、あたりめを買って、次は、ビールを買おうと思ったんじゃけど、後で千恵子に怒られるかもしれんけん発泡酒にして、あとは……あれ?」

ほんの二、三十分前の事なのにもう忘れてしまっていた。


ショーーーック!


仕方がないのでカンニングをした。

(ガサッガササ)

「ああ、そうか。好きなもん買おうとしたけど、惣菜コーナーすかすかで、売れ残りをしぶしぶ買ったのが、この幕の内弁当じゃったわ」

…………………………………………………………

ていうか、そもそも晩飯買いに行ったのにそれを忘れて、ついでに買ったもんしか分からんかったとは。


ダブルショーーーーック!!


あの二人が居ないから少し舞い上がってしまったんだろう。そうに決まってる!俺は、好きな人からの悩み相談を受けた時のように、必死でフォローした。それも自分自身を。

「他は何も買ったりあああああああああっ!!」

買い物を終えて、スーパーから出るとき、小さい男の子とぶつかった事を思い出した。

「あの時か」

「あの時とはどの時じゃ?」

「それは、スーパーから…って誰?」

俺はサバンナにいるシマウマの如く機敏に、声のした方を向いた。視線の先にはレジ袋があった。恐る恐るレジ袋に手を伸ばしてみる。

すると、レジ袋から俺のひたいめがけて何かが飛び出してきた。

そして、見事に直撃した。


「ぐぎょえぃ!」


鉄砲で撃たれたら、こんな感じなのだろうか?未知なる衝撃に、未知なる悲鳴で返した俺は、自分自身に未知なる可能性を感じた。

目の前には裸の飴玉が転がっている、どうやらこの飴が飛んできたらしい。

いつの間にか脱皮していた飴は半透明で、てっきりオレンジ味と思っていた俺は驚いた。衝撃でおかしくなったのか、驚く所を少し間違えていると思う。

「おいっ! そこの挙動不振のお主。いつまでも独り言をブツブツと、そんなんじゃから一人になってしまうんじゃ」

と言ったのはさっき飛んできた飴だった。それを聞いた俺は、いろんな意味でショックを受けた。

と、いうわけで。


トリプルショーーー―ーック!!!


「これは夢か?」

「違うわ。馬鹿もんが!」

俺は自分の頬をつねってみた。

「いって、んな馬、馬、馬鹿な」

今まで四十五年間生きてきて、これほど驚かされた事はない。いや、おそらくこれからも無いだろう。

「なんじゃ? 急に黙ってからに」

もう並大抵の事では驚かないだろう。俺は今日人生最大最高最悪最強最薄…

突然、俺の思考をさえぎる雑音が、玄関の方から聞こえてくる。

(ガチャ、ガチャ)

「やっぱり、開かない。お母さ―ん。鍵貸して」


え〜と、トリプルの次は………………


ショーーック! ショーーック! ショーーック! ショーーック!

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