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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

蜘蛛の糸

作者: 漓雨

 そうして、今日も俺は女と遊ぶ。






 付き合っている奴がいる。

 久遠優希(くどうゆうき)、性別オトコ。

 優希は俺と同じクラスで、真面目でおとなしい、クラスに一人はいる優等生タイプ。イメージ通り委員長なんてやってたりする。

 そんなだからもちろん頭は良くて、運動は目立つほど得意ってわけでもなさそうだ。

 顔は派手ではないが整っていて、凛とした意思の強そうな瞳が印象的だと思う。


 俺ははっきり言って、奴にベタ惚れだ。


 そういう俺は、言っちゃ悪いが顔は良い。

 性格は何事にも軽くて軟派。頭はそんなに悪くないが、適当にやっている。

 似たようなノリの奴らとつるんで騒いでる、自分で言うのもなんだがチャラチャラしたグループの筆頭に名前を挙げられる感じの人間だ。

 で、女癖が悪いというのが専らの評判だ。


 付き合ってる奴がいるんだからそんなのガセだろって?

 いや、事実だ。


 優希と俺はまあ、世間的に見ればあんまりおおっぴらにはし辛い関係で、もちろん周囲の人間で俺たちの関係を知っている奴らはいない。・・・と思う。多分。


 で、自慢じゃないが、俺はモテるからしょっちゅう女達からモーションをかけられる。もちろんマジで言ってる奴らは殆どいない。何故なら俺が本気の女を相手にしないのを知っているからだ。

 だから寄って来る女は最初からソレ目的の奴らばっかりだ。

 まぁ、都合は良いんだけど。


 優希に悪いことをしてるっていう自覚はある。

 あるけど、俺はどうしても女遊びをやめられない。



 待っているからだ。

 優希が俺に感情を爆発させるのを。




 告ったのは俺からだった。

 ただ真面目で、あんまり他人に興味が無いと思っていたあいつが意外と人を見ていることに気付いた。


『足、捻ったんだろう? 保健室行って冷やしてきた方が良いんじゃないのか?』


 体育の授業中、誰も気付かなかったそれに気付いたのはあいつだけだった。

 それから自然と目があいつを追っていて、本当にあいつは周りの人間に気を配っていることを知った。

 何事もさり気なく人をサポートして、それを相手になかなか気付かせない。

 いつも人をあの凛とした視線で真っ直ぐ見て、誰に対してもいい加減な対応はしない。


 そんなこと、普通なかなかできる事じゃないだろ?


 それに気付いてから俺はますますあいつから目が離せなくなって、そうして気付いた。

 俺の優希に対する感情が恋であることに。


 同性を好きになったのはもちろん初めてだったし、自分がまさか男に恋愛感情を持つことができるなんてそれまで思ってことも無かった。

 でも、不思議とそれに対して葛藤とかそんなものは無かった。

 優希に恋をすることができたのは自分にとってはとても大切なことに思えたからな。


 それから色々考えて、結局普通に告白することにした。

 だって悩んでるだけならこの状況は何も変わらないだろ。

 俺とあいつはクラスメートで一応友達。ただそれだけの関係。

 俺はそれだけじゃどうしてもいやだったから、とにかくこの"それだけ"の関係を変えるために告白した。

 OKされるなんて思ってもいなかった。

 拒絶されたって諦めるつもりなんて無かったけど、まずは自分の気持ちを知ってもらって、少しずつ関係を深めていければいいと思っていた。それが恋人という関係にしろ、友達という関係にしろその時よりはずっとましだと思ったからさ。


 徹底的に嫌悪されるとは考えなかったのかって?

 考えたに決まってるだろ。

 でも、ただ見ているだけなんてもう我慢できなかったんだよ。とにかく気持ちを伝えたいってそればっかりが頭の中にあった。


 でも、告って返ってきた答えは"OK"だった。


『久遠、俺、お前のことが好きだ。男同士で考えたことも無かったかもしれないけど、もし良かったら付き合ってくれないか。』


 今思い返してもなんの面白みも無いオーソドックスな告白だ。・・・でもあの時は余裕なんて無くてこれが精一杯だったんだぜ。・・・・・・あー、恥ずかしい。

 まあ、このあと優希はどっか30秒位呆然とした顔で俺を見つめて固まって。その後いつも殆ど逸らすことの無い視線を俺から外して落ち着かなさ気にきょろきょろさせた後ちょっと顔を赤くして、


『・・・・・・いいよ。』


 と言ったわけだ。

 嬉しさで舞い上がりそうだったね。つーかしばらくは舞い上がってた。

 でも、しばらくするうちに気付いたわけですよ。


 俺、優希からちゃんと好きだと言ってもらったことが無いって。


 それから先は何考えても結局"優希は俺のことが本当は好きじゃないんじゃないか。"という結論に達してぐるぐる考え込む悪循環に陥った。

 分かってはいる。優希はいい加減な気持ちで相手に応えるような人間じゃない。

 だから、本当は分かってる。


 でも、言って欲しいわけよ。

 俺はどうしても言葉が欲しい。


 優希は冷静で普段はあまり感情を出さない。

 俺と会っているときは普段よりも表情が柔らかい・・・気がするけど、それでも微笑むとかその程度だ。

 怒ったことが無い。思い切り笑ってくれたことも無い。

 もとから大人しい性質だっていうことも分かってるけど、やっぱり感情をぶつけて欲しかった。



 だから、浮気をしてみた。



 浮気なんて最低なことだ。自分でもよく理解している。

 きっと優希を傷つけていることも分かっている。


 それでも、はっきり言葉で、態度で、優希が俺のことを好きだということを示して欲しかった。


 これが全てだ。



 納得がいかないか?

 そうだろうさ。

 俺だって全然楽しくねーよ。


 自分の欲を満たす為だけに女を利用して、・・・優希を傷つけてる。

 俺は優希が好きだよ。・・・・・・愛してる。

 でも、この欲には勝てない。

 最低だろ?



 もし、優希がこのまま俺のやってることに何も言って来ないんなら、きっとずっとこのままだと思う。

 でも、優希が俺に感情をぶつけてくれたらもう二度と女を抱くことは無いだろうな。


 その時優希が俺のことを憎んでたらどうするのかって?

 愚問だな。



 俺が優希を離すわけ、ないだろ。



 酷いって?

 そんなの分かってるさ。

 でも知ってるか?

 愛と憎しみは表裏一体なんだぜ。



 優希が俺のことを憎んでくれるっていうのなら、ある意味それはすごく嬉しいことだよ。





 蜘蛛の糸

(堕ちてくればいい。俺に向けてくれるなら愛だって憎しみだって構わない。)

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