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「もしもし、蓮斗か?」

「ああ。どした?」


「悪い。お前の爺さんの顔面に頭突きしちった!」

「構わん。俺もあの人の偽善者っぷりには呆れてたからな。俺がやりたかったくらいだ。

で、何があった?」



智樹は自分の心情の変化とこれまでの経緯を説明した。




心情の変化に対しては、蓮斗も驚いたのか何度も聞き返した。



そして、一しきり喋り終えると、蓮斗は押し黙ってしまった。


智樹はその沈黙がまるで自分を責めているかのように思えたので、重々しくも口を開いた。



「・・・なあ、俺とてどんな馬鹿なことを言ってるか分かってるつもりだ」

「まあ、確かに馬鹿な考えだ。・・・だが、俺はその考え嫌いじゃない」




智樹は心底驚いた。

てっきり反対されるものだと思っていたからである。



もしかしたら、最初の電話の時とのギャップがあまりにも大きすぎるからなのかもしれない。




「出来る限り、家の寺の奴らの足止めしとく」


それだけ言うと智樹の返事も待たずに通信は途切れた。






それを見計らってか由乃が智樹に尋ねた。



「何であの人たちを傷つけたの?」

「え・・・あー、あいつらはお前を捕まえに来た医者だったからだ」


「なら、帰らないと」

「何で帰る必要がある?もっと外を見ていたくないのか?」

「それは・・・そうだけど」



由乃は弱々しくだったが、もっと外を見たいと言った。


それだけが智樹の動力源だった。











走りに走り続け、ようやく辿り着いたのは大きな木の下だった。



がむしゃらに走り続けたため、ここがどこなのか智樹ですら分かっておらず、偶然見かけたこの大きな木の下に入り込んだという次第である。



何となく自分たちを守ってくれるような気がして、智樹は木陰に座り込んだ。


由乃も彼の隣に座った。




しばらくの間、両者黙っていたが、ついに智樹が口を開いた。



「どうだった今日は?楽しかったか?」

「うん。ちょっとドキドキしたけど、とっても楽しかったよ」

「なら良かった。これからもこんな楽しい日々が続くんだぞ」



「ううん。それは出来ない」

「どうしてだ?」




「だって私はもう死んでるんでしょ?」





智樹の頭の中は一瞬、真っ白になった。



慌てて隣に座る由乃に目をやる。


こちらを向いてはいないが、とても楽しそうな顔をしている。

これが死者の顔なのだろうかと疑問に思うほどである。


或いは、ただのやせ我慢なのだろうか?



その癖、彼女のその表情には悲しみも同居しているように見えるので不思議だ。




「そんな訳ないだろ。お前は生きた人間だ」

「もういいの。実を言うとプロレスの時、智樹のポケットからカルテが落ちたのを見たの」


慌てて智樹はポケットからカルテを出す。



確かに12枚あったはずのカルテは7枚になっている。


その7枚の中に由乃のカルテは無かった。





「違う・・・違うんだ」

「違くない。私はもう死んでる」


「違う!!」



智樹は頭を抱えてうずくまった。





もう憑り殺されることに恐怖など感じていない。

ただ彼女が目の前から消え失せることが怖かった。



智樹は今日までの日々を浮かんでは消える泡のようなものだと考えて生きてきた。


未来に希望は無く、いつ死んでも構わないとすら思っていた。





だが、由乃がそんな日々を変えてくれた。



全く何も知らない0の状態の彼女に触れることによって智樹はこの少女にも未来への可能性があることを感じ、自らもそうであると気が付いた。



智樹はもう既に自分の未来に期待していた。




目の前で大事なことを気付かせてくれた恩人が消える。


考えたくもない事実だった。




そして、過ごした時間は短かったが、もし由乃が自分が死んだことに気付いた時、するであろう行動も予測できた。



「もう私、あなたの前から消える」



「どうして・・・?」

「だって私のせいで智樹やお友達まで不幸になってるんでしょ?私さえいなかったら何事も起きなかった」


「お前のせいじゃない」

「多分だけど、さっきの人たちってお坊さんか何かじゃないの?私を成仏させるための。

・・・そうでしょ?」




もうそれからは何を言っても無駄だった。




智樹はありとあらゆる言葉で由乃を引き留めようと努めた。


だが、どれだけ言葉を重ねても由乃の首が縦に動くことは無かった。




「それなら・・・それなら」



「もういいの。その気持ちだけで十分。智樹は優しいね」

「待て・・・行くな。まだ教えてないことが沢山・・・沢山あるんだぞ!」




由乃はゆっくりと智樹から目を背けた。


それは智樹の涙を見たくなかったからか、それとも自分の涙を見せたくなかったからか、或いは両方か。




沢山の足音が近づいてくる。



迎えが来たのだ。




智樹に背を向け、弱冠声を震わせながら由乃は彼に告げた。


「もう・・・行くね。今日はありがとう智樹」



去ってゆく由乃の背中に智樹は子供のように泣きじゃくった嗚咽交じりの声で彼女に言葉を返した。



「俺、今から必死に勉強する!で、教師になる!それで・・・それで、お前の知らないこと沢山教えてやる!

だから!・・・絶対に生まれ変わったら俺のところに来い!

・・・絶対だかんな!!」



由乃は俯き、その場で肩を震わせながら答えた。



「分かった・・・絶対会いに行く!

だから・・・その時までに立派な教師になっててね」




言い終えると、由乃はそのまま智樹に背を向け、歩き出した。


智樹はずっと彼女の背中を見つめていた。



あれだけ暗闇でもはっきりと見えていた由乃の姿が複数のお経に消されていくかのように不思議と少しずつ薄くなっていった。




ゆっくりゆっくり薄くなっていった。


だんだんだんだん薄くなっていった。




やがて彼女の姿が完全に消えたと同時に、智樹はただ訳も分からず咽び泣いた。



空に浮かぶ満月が彼のシルエットをくっきりと映し出していた。
















「で、それから先生は真面目に学校にも行くようになって見事教師になった」



話し終えて智樹は生徒達を見渡す。


一瞬、目を白黒させていた生徒達は一斉に笑い出した。




「先生、面白ーい!!」

「嘘つくならもっとまともなのにしなよ!!」

「絶対だかんな!!・・・って、アハハハ!!」




智樹は少し恥ずかしくなって俯いた。


すると、ちょうど良いタイミングでチャイムが鳴った。



次の授業は体育だ。


日直が適当に号令を済ませると皆一斉に廊下へと飛び出していった。



「ったく、現金な奴らだな」


そんな小言を呟きながら、智樹自身もジャージに着替えるため、教室を出る。




ふと後ろを振り返ってみる。



そこには少女がいた。


智樹の記憶には無かったので、別のクラスだろう。




否、記憶に無かったというのは少し違う。


少女の姿は今も記憶に残っていた。



白のワンピースを着て、髪を肩まで伸ばしており、肌は透き通るように白い。



ギョッとしてつい智樹は少女に声をかけてしまった。



「由乃・・・なのか?」


少女は突然話しかけられて驚いたのか目を見開いた。



ようやく、智樹は思考が追いつき、赤面した。




「あっと、ごめん。他のクラスの子と間違えたみたいだ。ハハハ」



智樹は気恥ずかしさから少女に背を向け、そそくさと歩き出した。





智樹のあの時のままの懐かしい口調で言葉が浴びせられた。



「立派な教師になったね。・・・すごーい!」




少女は後ろから智樹をその小さな白い腕で抱きしめた。



はい、というわけでこれにて完結です。


いかがでしたか?

よければ、感想など書いてくれると幸いです。




この作品で学んだのはやはり文学的要素でしょうか。


と言っても、その要素はかなり薄いですが・・・。



そして、ラストはキャラに感情移入してしまい、少し涙を流しながら書いておりました。


自分の文章能力がもっと高ければ、伝えられるのでしょうが(笑)



最後にここまで読んでくれた方々、

ありがとうございました

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