表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

病院から出るなり、智樹は知り合いへと電話を掛けた。


数回のコール音の後、その人物は電話に出た。



「何の用だよ?」


気だるそうな声で応答する人物の名は武田蓮斗。

智樹の数少ない友人の一人である。



彼は幽霊やら超常現象やらのオカルトチックなことに精通しており、家も寺の家系というわけで智樹はこの件には彼が適任だと思い、電話を掛けた。



蓮斗は成績こそ悪くはないが、放浪癖があり、よく学校を休んでいた。

その為、不良である智樹とも何か通じるものがあり、馬が合ったのだろう。




「今どこだ?」

「えーと・・・新潟?」

「どこまで行ってんだよ・・・あのな、今から俺の言うことを良く聞いてくれよ」



智樹は事のあらましを説明した。


最初は適当に聞いていた蓮斗も徐々に事の重大さが分かってきたようで、真剣な態度で時折、相槌を打っていた。



「で、その霊は?」

「今はその辺飛んでる鳥だの蝶々だの景色だのに夢中になってるよ」

「そうか。なら安心した。多分そいつは自分が死んだことに気づいていない。絶対に気付かせるな。気付いた瞬間、お前のこともそっちに引きずり込もうとするからな。一応、親父にも連絡しとく」

「親父さんは何分で着く?」

「親父が来るかは分からんがな・・・2時間以内には。それまで持ち堪えてくれよ」




そう言い終えると、蓮斗は電話を切った。



落胆している智樹の前に突如由乃は現れた。


「うおっ!・・・驚かすなよ」

「あっ、ごめん。そろそろ行きたかったから」

「ああ、探検な。じゃあ行くか」

「うん」



智樹はぎこちなく歩き出した。













大見栄切って一緒に行こうと言ったものの、智樹は女性との付き合いが全くなかったと言っても過言ではない。



小学生までは普通の交友関係を保っていたのだが、中学に上がった途端、友人の数は激減した。

理由は言わずもがなである。



小学生の頃からの友人は3人いるかいないかである。




話は逸れたが、そんな訳で智樹は女性が行くと喜ぶ場所など全く分からなかった。



冷静な思考が残っていたなら、彼にも助けが入るまで適当に街中を歩くという選択肢もあっただろう。





時折、由乃からの

「あれは何?」

といった類の質問に答えながらも智樹は必死に打開策を考えていた。






「・・・おし、あそこ行くぞ」


そう言って、智樹が指差した場所はゲームセンター。


15分もずっと考えて出した答えにしては随分とお粗末である。



もっとも、一番重要なのは由乃からの返答だったが。




「うん!面白そう」

「じゃあ、決まりだ」



2人はゲームセンターへと足を踏み入れた。









昼間のゲームセンターというのは案外静かなものである。



勿論、ひっきりなしにゲームの音は耳に入ってくるのだが、人はまばらだ。




先頭を歩いていた由乃が1台のUFOキャッチャーの前で足を止めた。



智樹が声をかけようとした時、由乃の中を1人の男性店員がすり抜けた。


この光景を見て、智樹は改めて彼女が実体を持たないことを認識した。




「となると、今喋っている言葉も独り言になるのか」



智樹は考えた末、携帯電話を耳に当てて、彼女と会話することにした。




「由乃、どうした?」

「可愛いな、これ。・・・あれ?智樹の耳に当てているそれは?」

「こ、これか?えーっと・・・周りの音を確実に聞くための道具だ」

「補聴器みたい!かっこ悪ーい」




そう言って笑う由乃に智樹は思わず見とれてしまった。



「うるせー。そんなこと言うならその人形取ってやんねーぞ」


顔を赤くしながらそう言っても説得力は皆無かに思われた。



「え・・・取ってくれるの?」


由乃はちょっと照れたような顔を一瞬して、期待の眼差しで智樹を見つめた。



智樹が機会に100円玉を入れるとゆるい顔をした猫の人形の海へとアームが落ちていく。



アームは一匹の猫を掴むと、そのまま宙に浮いた。


「おお!」と由乃が歓声を上げる。



受け取り口に落ちてきた人形を手に持ち、智樹は誇らしげにそれを由乃に見せる。



「すごーい!!」

「こういうのは昔から得意だからな」



智樹は由乃へと人形を手渡した。


が、人形は彼女の手をすり抜けてタイル張りの床へと落ちて行った。




「あれ?」



智樹の体中の血が一気に冷えた。


少し前にも彼女の実体が無いということは認識済みだったのに、このようなミスをしてしまったことを智樹は大いに悔み、嘆いた。




蓮斗の言葉が今頃になってまざまざと蘇ってくる。




「多分そいつは自分が死んだことに気付いてない。絶対に気付かせるな。気付いた瞬間、お前のことをそっちに引きずり込もうとするからな」





「うおおおおっ!!次行くぞ!!」



半ば強引に智樹は人形を拾い上げると、走って店内を飛び出した。



「えっ!?もう!?」


由乃もその後をすぐに追う。



店員が冷やかな視線で自分・・を見送っていたのが分かったが、智樹にそんなのを気にする余裕があるはずは無かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ