プロローグ1
炎天下での勉強。
少し喉が乾いた。
このままではイライラしてきそうだから、コンビニまで清涼飲料を買いに出かけよう。
で、コンビニに着いた訳だが、
涼しい。
都会の高校に行きたくて、上京して家探しをしていた所で家賃8000円という魅力的な数字に引っ張られた分際の、クーラーを買う金の無いこの俺の部屋とは大違いだ。
バイトでも余り儲からない。
現所持金は500円。
菓子パン2つとジュース1本くらいかな…
きちんと所持金を確認し、期間限定のクールドリンクに手を差し伸べた。
すると、同じ思考の人物が居たのか、偶然、手が重なった。
「あ、すいません」
「い、いえ…」
しかし、華奢な体つきだな。
年齢は…同じくらい?
顔は…
「………虹?」
「ま、雅人?」
・1・
ー二年前ー
ここ最近、誘拐事件が増えている。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
それより今は中学生最後の夏休みの旅行計画を練るのに必死なのだ。
旅行と言ってもさほど距離はない。
中学生集団の背伸びといったところか。
でも、初めてと言う訳じゃない。
今回は費用の面がアレなので、近場に変更になった。
「じゃあさ、海には行こうぜ」
「うん、バーベキューとかも」
折角の旅行なのだから、豪勢にはしたい。
安価で安く済む旅行……
「キャンプ…とかは?」
採用されるかは別として、選択肢は増やしておいた方がいい。
そうすれば考える事が簡単に…
「お!いいじゃんキャンプ!」
「そうだね。じゃ、決定で」
「イエー!やったねー」
…決まってしまった。
ま、いいんだけどね。
* *
さてさて一週間後。
無事にバスに乗り、目的地のキャンプ場に着いた。
まずはテント張りから。
無論、初めてな為にやり方なんて全然分からない。
で、和気藹々と取り組み始めた訳だが…。
予想通り、2時間以上かかった。
「暑ぅ…何か体中の体力を持ってかれたカンジ…」
「き、キャンプがこんなに過酷だったとは…」
「ボクの持ち前の体力を持ってしても疲れたよー」
「俺に水分を、くれ…」
各々思い思いの感想を述べているが、誰一人『はっ、チョロいチョロい』等と言える状態ではなかった。
キャンプを舐めていたぜ…
山中のため日差しは防げたが、このままでは熱中症は免れない。
近くに川があるから、涼みに行ってみるか。
「そうだ、あっちの川で釣りしない?」
* *
「よっしゃぁ!三匹目!」
釣りを始めてから10分後。
この川は結構釣れるらしく、10分間で鮎、姫鱒などが5匹釣れた。
ちなみに、女子陣の収穫はゼロである。
「どうして雅人達の竿には魚が掛かるのよぉ…」
「うーん…場所とか?」
「じゃあ交代して」
「いいけど」
よいしょ、と立ち上がって場所移動。
意外と白熱しているようで、もう涼むとかそんなことはどうでもいいようだ。
灯台下暗しってやつ?あ、違った。
しかし、そこらで火花が散っているのを尻目に日は暮れ始めていた。
テント張りに時間を費やしすぎた為か。
「おーい、そろそろ戻ろうぜ」
「わーった、少し待ってろー」
うーん、結構早かったな。
この調子じゃ明日もすぐ終わっちゃいそうだな。
「じゃあその釣った魚使ってバーベキューでもするかな」
「よーし。あっちから炭持ってくらぁ」
「あーつーいー…。海翔の体力をボクにも分けて欲しいよ」
「お前らが非力すぎんだよ」
「こー見えてもボクは女のコなんだよー?仕方ないじゃない」
「あーはいはい。分かったって。そっちの段ボール取ってくれね?」
「むー…」
「ははは…」
「微笑ましいわね」
道具班が海翔と友紀。
材料班は僕と虹だ。
あっちの班が盛り上がっている間に、僕等は魚の下処理を済ませ、野菜や肉を切り、バットに放り投げる。
多少こぼれたっていいじゃないか。
汚れないし不満ないよ。
「よし。粗方オーケーか?」
「うん。じゃあ始めようか!」
「イェー!」
合図がかかった瞬間、皆(海翔と友紀)が一斉に飛びかかる(主に肉に)。
はは、やっぱりいいなぁ。皆でこういう事するのは。ちょ、熱い、跳ねてる、肉汁とか。
「って熱いんだよ!」
「フハハハ、友紀よ!そんなもので俺に敵うと思うなよ!」
キンッ!キンッ!
「甘いね海翔!ボクはすでに5つの肉を確保してあるのだ!」
キンッ!キンッ!
「何ッ!しかし残りの肉は既に俺の手中にあるが同じ!貴様は野菜でもモサってろ!」
「聞いてねぇし…」
この二人は何て子供なんだろう…。
それに比べてこの人は…。
「な、何よ。私はベジタリアンなの。ヘルシー思考なのよ。だから別に体重に気を使ってる訳では…」
「そうだね。野菜は美味しいよね。じゃぁ僕は魚を食べようかな」
このままじゃ永遠に魚が無くなりそうにない。
「……何か腑に落ちないわね…」
「ま、それは置いといて。大分陽が傾いてきたから、不用物を固めておいた方がいいんじゃないかな」
「それも…そうね。片付けちゃいましょうか」
* *
ガチャガチャ…
後ろでは未だに箸と箸がぶつかり合う音が響いている。
早く食っちまえよ。
「ある程度終了ですか。しかしキャンプってのも意外と大変だね」
「まぁ、中学3年4人ですることじゃないから。先生に見つかったら大変でしょうね」
その後、先生がこんな所にいるはずないんだけどね、と付け加えた。
「はぁ…もう夜か。早いな」
「そうね…残りの中学生活もそんな風に流れちゃうのかもね」
うーん。
改めて考えればそうなのかもしれない。
中学校を卒業すればみんな離れ離れなんだよな…。
「お前らラブラブオーラ出してんじゃねぇよ。あ、もしかして邪魔した?」
「いいねぇいいねぇ。ボク達のことは放っておいて続きをど・う・ぞ♪」
…………………………。
「な、何の用!?」
虹が問うと海翔達はニヒヒと不気味な笑みを浮かべた。
「「花火しようぜ!」」
* *
入浴を終え、テントに戻ってきた僕達は、花火を始めた。
「手持ち花火か。久しぶりだな」
何年ぶりだろう。
花火なんて小学4年の夏にやった以後の記憶がない。
「にしても…」
まだ始めて3分なのに戦闘が開始されている。
それも誘った側が。
いや、分かってたけどね。
「喰らえー!シャイニングフィンガー!」
バシュー。
「なんの!スパークリングファイア!」
ボボー。
「てぇい!水を喰らえ!あ、手が滑った」
バシャー。
「きゃっ」
水の舞った先に居たのは、虹。
……………ゴクリ。
何か……
「エロ、いな…」
「これは凶器だねぇ。嫉妬しちゃうよ」
「…………」
あれ?プルプル震えてるぞ?
寒いのかな?なんちゃって。
「よし。じゃあ同性の友紀、あとは頼んだ」
「あ!ズルい!こんな時だけ女扱いしてー!」
「ま、取り敢えず…」
「「「ごめんなさいっ!!」」」
「…許すかあぁぁぁぁぁ!」
・2・
一頻り逃げ回ったあと、全員が疲れ果てて立ち上がれなくなった為、一時休戦。
辺りからセミの鳴き声が聞こえてくる。
大分気温が落ちてきて、涼しくなってきた。
「へくちっ」
……………………。
ほうら、言わないことじゃない。
水被って寒い中走り回ったら誰だってそうなるよ。
何で危惧しないのかね。
「寒いなら着替えてきたら?」
「い、言われなくてもそうするわよ!」
じゃ、行ってこいよ。
「まさかとは思うけど……怖いの?」
「バカ!そ、そんなワケないじゃない!」
「それじゃ、行ってらっしゃい」
「軽くあしらってない?」
…あしらっているんじゃない。遊んでいるんだ。
「別に。もし怖いなら友紀について行ってもらえば?」
キョロ、キョロ。
暫く考えているのであろう、下を向いている。
不意に顔をあげたと思えば、口を開いた。
「アレは変態だから、ムリ」
変態だから、ムリ。
ああ。そういうことか。
変態なら仕方ない。
でも、変態に悪い奴はいないんだよ。
でなけりゃ、こんな風に喋れてないから。
毒牙ってるから。
「じゃぁどうするのさ」
「一人で行くから」
「さいですか」
じゃあ、この数分は何だったんだい?
迷走しなくても答えは一つだったじゃない。
虹が立ってまだ20秒くらいか。
ん〜、急に広く感じるな…。
ていうか、海翔と友紀は?
「…この辺に虹の乳当ては無いか?」
「…なさそうだねぇ…。ボクも虹みたいな胸が欲しいよ…」
「大丈夫だ。お前のおっぱいも十分魅力的だぜ?」
「海翔…」
……バカ共が居た。
しかも『乳当て』って…。
僕もそろそろテントに戻るかな。
バカ共が漁りを敢行(慣行)しているテントとは別のもう一つのテントにな!
僕は聖人君子のピュアボーイだっ!
* *
夜。
正確には深夜、か。
正直、眠れない。
別に明日に対してワクワクしている訳ではないんだけど…。
只単に、海翔の寝相が悪すぎて眠れないだけなんだよ。
あー、明日は目元に隈が出来てるんだろうな…。
・3・
「大変!虹が!虹が!」
「すまん。順を追って話してくれないか」
友紀の話を纏めると、こういう事だ。
昨夜、物色を終えた二人は各々のテントに戻り、就寝した。
友紀が寝た時、虹はまだ帰ってなかったそうだ。
つまりは行方不明、らしい。
「とにかく、もう1度探してみよう」
* *
「トイレは無い…でも、ここ以外は開けてるから見える、筈…」
「川、とか?」
川か。
流暢に探してる暇も無いし虱潰しに探していくつもりだったから、案が出たらどの道採用するつもりだった。
川。
距離は700mくらい。
「走れっ!」
「言われなくても!」
「分かってるって!」
こういう時だけは底知れぬ団結力を発揮するのが親友というものだ。
まぁ、こういう時が滅多に無い、というか無いのだが。
双子が生まれる可能性より低い。
そんな事件に遭遇してしまったのは悲劇と言うべきか。
最悪の事態が頭をよぎる。
いやいや、そんなことがあって堪るか…………!!
・4・
そんな淡い期待も虚しく、僕達は結局、警察に捜索願を出した。
それから2年。
ずっと見つからなかったその子が目の前にいる。
僕は思い切って聞いてみた━━━━。