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タイトル未定2026/03/14 01:06



「……地図、か?」




始まりは、一点の絵画だった。

修復士が誤ってかけてしまった薬品が、とある絵画に隠されていた下書きを浮かび上がらせた。



その日から、浮かび上がった地図が示す場所を巡る推論が繰り広げられることとなる。




ある者は、一夜にして海に沈んだ幻の国ではないかと言った。

またある者は、火山の噴火によって滅んだ国であると力説した。

中には、創作物の挿絵ではないかと一蹴する者もいた。



そんな風に。

実に百年もの間、学者達は己の仮説を信じ、探索に挑んでは挫折するのを繰り返してきた。





「これ、他にもあるんじゃないかな」



件の画家が、他の作品にも似たような地図なり暗号なりを潜ませているのではないかーー。



そう考えた者は、もちろんいた。


しかし、そもそもが歴史的価値のある絵画であったため、ただ『同じ画家の作品だから』という理由で闇雲に薬品をかけることは躊躇われた。


何故なら、その国は、何よりも歴史を大切にしている国だからである。

過去があるからこそ現在があり、こうして生きている今この瞬間が未来へ繋がるのだと、誰もがそう信じてきたのだ。



直径の王子が生まれず、傍系の女子が婿を取ることもあったし、隣国から攻め込まれ、属国のような扱いを受けていた時代もあったが、それでも自国の民と文明の移り変わりがわかるものは死守してきた。




これらの絵は、そんな時代を生きた王侯貴族の肖像画なのだ。

誰が好き好んで破損させられるというのか。


喩え今は亡き、途絶えた王朝だとしても。

だからこそ“不敬である”。


そんな不文律が、そこにはあった。




ーーそこから更に数百年を経て。



戦争やなんやで、ほんの少しだけ価値の下がったそれらの絵画を買った者がいた。



「いいよ。全部買う。で、まずは画材や作風から順番に並べて」




歴史は変わった。


というより、良くも悪くも、人の価値観や考え方が変わった。




戦争によって巨万の富を得た一人の女性は、件の地図を描いた画家の絵を、漏らすことなく買い揃えた。


文字通り、全てを。





そうして、仮に薬品をかけることになろうとも、それが必要最低限の損失になるように手を回した。

決して、手当たり次第に破損させるなと。


必ずしも己の代で叶えられなくとも良い。

未来で誕生するかもしれない技術によって、歴史的価値のあるこれらの絵を傷つけることなく、下に描かれたものが何なのか解る日が来る時まで、保管するために全て買い揃えたのだと。



逸る気持ちは、嫌というほどに解る。

誰だって、自分がその立役者になりたいものだから。



けれど、決して、手当たり次第に試そうとしないで。


ーーこれらの絵を護れるのは、私達だけなのだから。




その財産を受け継ぐであろう、一族の子々孫々に、そう言い遺した。









そして今。



「ーーここだ」





現代技術を駆使し、遺された絵画を一点たりとも損傷させることなく。


代々受け継いできた資産を運用することで富を維持してきた、一族の血を引く少年は、かの地へと辿り着いた。




絵画に隠されていた謎は単純で、描かれていた人物が即位

と同時に改名した頭文字順に並べると、当時の王家が管理させていた山奥の遺跡へのヒントとなるものだった。


そこにあったのは建国の祖が隠した財宝で、それらを発掘した彼に全ての権利が与えられた。




少年は発掘に関わった人々と親族を交えて話し合い、きっかけとなった絵画を含む全てを、博物館を建てて展示することにした。



いつか受け継ぐであろう子孫のために遺された、『大切な歴史』を解くための、貴族らしく回りくどいそれらの謎の絵画達と、繰り広げられた推論と挫折の跡を。





ーー博物館が完成した際、謎の始まりとなった件の絵が、持ち主となっていた元王族から寄贈され、今も尚、一番の目玉として展示されている。





元は無題であったその絵は。


【新たな始まり】


と名付けられた。




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