第5話 人形姫の涙
――1年後。
私は9歳になった。
今日は王家の主催のお茶会日だ。
「リリス、頑張ってね!」
正式に招待された、初めてのお茶会。
だけど、今日も両親は仕事らしい。
2人がいないことを少し寂しく思いながら、クレに見送られて会場に向かう馬車に乗った。
この1年でクレは10歳になった。
勉強という苦難を乗り越えて、少し大人びた感じがする。
「これなら、もう大丈夫でしょう。合格です。」
こうアルフォンスが言った時、2人で飛び跳ねて喜んだ。
そう、私も少しずつ「感情」というものを思い出してきたのだ。
・・・表情を動かすことはまだできないけど。
それがなんだか、申し訳ない。
クレは、「え?リリスってけっこ―分かりやすいよ?」と言っていたけれど。
会場に着くと、たくさんの子供がいた。
ほとんどの子には両親が付き添い、楽しそうに話している。
お茶会が始まり、子供同士、大人同士で話す。
ひそひそと、声が聞こえた。
『見て、あの子・・・ご両親は一緒じゃないみたいよ。』
『デュポワ家のご令嬢ね。ほら、あの有名な「人形姫」よ。』
「かわいそうに。ご両親はお茶会に付き添いもできないなんて。』
違う。
かわいそうなんかじゃない。
仕事が大変だから・・・。
その瞬間、涙がこぼれていた。
私の表情が、心が――
4年以上経って強く動いた瞬間だった。
私の両親は他の子の両親と違う仕事をしている。
おかあさまは空中戦を得意とする「疾風の翼」部隊司令官の1人。
おとうさまは魔法植物の研究者。
2人とも忙しいくて、大変な仕事をしている。
だから会えなくても気にならなかった。
誇らしいとさえ、思っていた。
だけど、今は2人がいないことが無性に気になる。
他の子は両親と一緒にお茶会に参加して、一緒に楽しんでいる。
笑っている。
私は?
前にあったのはいつ?
「「リリス!?」」
顔を上げると、いつの間にか、周囲にはたくさんの植物が芽吹き、大きな木がそびえたっていた。
その植物は守るように、私を囲んでいる。
振り返ると、そこには――
両親が立っていた。
仕事に行っているはずの、2人が。
2人は私の顔を見て、目を見開いた。
おとうさまが私を抱き上げ、おかあさまは周囲を見回した。
「お暇させていただきます。」
「何があったの?」
馬車の中でお母様がそう尋ねる。
おばさんみたいに怒るかな?
お茶会で、人の前で泣いてしまったから。
「泣いていては、分からないわ。」
さっきよりもずっと柔らかい、優しい声。
「あの、ね・・・私、かわいそうって。1人だけできてたから。」
「そうなの・・・。ごめんなさい。急いだのだけど、少し遅れてしまったわ。」
おとうさまが私の背中をさすり、おかあさまが涙を拭う。
「いつも・・・寂しい思いをさせているわね。」
おかあさまが私を抱き寄せる。
「ようやく、仕事がひと段落したの。しばらく、一緒にゆっくりしましょう。」
そう言って私を強く抱きしめた。
「私もいるのだが・・・。」
おとうさまの声は私たちには届かなかった。
家についてから、泣きはらした目を見て、使用人のみんなが心配し、怒ってくれた。
特に、クレの怒り様はすごかった。
「・・・はあ?」
今まで聞いたことのない低い声で、思わず体を少し小さくしてしまった。
その日は両親の部屋で一緒に眠った。
ちなみに、泣いた後、私の表情が動くことはなかった。




