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エザルドンの戦い



——六日後。

ピラミディアの民はついに、国の命運をかけた決戦日を迎えた。


夜明け前の広場は、集められた兵士たちの熱気と静寂が入り混じり、張り詰めた空気に満ちていた。

その視線は、ただ一点、王子の立つ壇上に集中している。

「—— ついに、我々は決戦の日を迎えたッ!」

兵士たちの表情は、期待、不安、自信、そして恐怖と、実に様々だった。

「—— 中には、まだ気持ちの揺らぐ者もいることだろう。此度の作戦、参加は自由とする。決して強制はしない」

「…………!!!」

兵士たちは、予想外の言葉に驚き、フレッドを凝視した。

「決して恥ずかしがることも、国を裏切ったという気持ちも持たなくてよい。戦いに行かぬという選択をした自分を決して責めるな」

フレッドは、静かに、しかしはっきりと語りかける。

「王家である我々が、悪しき者たち(プレイグ)でなくても、彼らのような脅威がいずれ迫るという危機感、それに備えた体制を整えておけば、皆をこのような状況に追い詰めることはなかったのかもしれぬ。みなには辛い思いをさせてしまい、本当にすまない!」

フレッドが深々と頭を下げると、民衆はどよめき、言葉を失った。

同調圧力かは定かではないが、その後、去る者は誰もいなかった。

「—— ともに戦うことを決めた勇者たちよ、私は皆に心から感謝する。これほどまでに、心強いことはない。………これから我らピラミディア軍は北上し、悲願の王都奪還を目指す!」

フレッドの猛々しい演説は、兵士たちの心を揺さぶり、彼らは息をのんだ。

「おおおおおぉぉぉぉおおッ!」

夜明けを知らせるかのように、兵士たちの咆哮が空へと広がり、戦いの火蓋が切って落とされたことを実感させた。

「別動隊50名、前に出てくれ!」

呼応するようにして現れたのは、クレイン率いる30名の精鋭弓兵隊、20名の斧歩兵隊の合同隊だった。

「アスタンバード王子!我ら一同、国と御身に命を捧げ、必ずやチパン村を奪還します!」

クレイン隊長の誓いの言葉が響き渡り、兵士たちの士気もますます高まっていく。

「頼んだぞ!!ピラミディアの勇士たちよ!!武運長久を!!」

「おおぉぉおおッ!!!!」

別動隊が先にアゼルニ村の門をくぐり抜け、チパン村へと歩み始めた。

「では、皆の者!!我らも行こうかッ!!」

「………………!!!??」

フレッドの発言に全員が驚く。

「お、王子はアゼルニ村で吉報をお待ちくだ……!」

「そうですよ!我々が必ずや敵を討ち取り、良いご報告を……」

「ならんッ!………このような絶望的状況で、自分が行かずして何が国の王子かッ!!!」

「…………!!!」

「我も行くッ!!共に戦おうぞッ!!!ピラミディアの勇士たちよッ!!!」

フレッドの覚悟を宿した目に心打たれたロイドが大きく息を吸い込んだ。

「……我々は王子とともにある!!敗北などないッ!!!行くぞォォッ!!!」

フレッドとロイド総隊長の号令に、残っている全兵士が熱狂した。

「おおおおおぉぉぉぉおおッ!!!」

広場の熱気は最高潮に達していた。

50名のアゼルニ村駐留隊を残し、ほかの兵士たちは出陣した。


「—— やはり、いたか。」

先に森を進んでいた別動隊を率いるクレインは、見えてきたチパン村の様子を眺めている。

チパン村にはフレッドたちを襲ったとされる悪しき者たち(プレイグ)が支配していた。

「我ら別動隊の目下の課題はただ一つ……チパン村を占拠する奴らの完全なる殲滅だ。」

クレインの話を、兵士たちはただ静かに聞いている。

「私は奴らの長の首を取る。お前たちはこれまで特訓してきた陣形と戦術を決して崩すことなく、ただ持ち場に現れる敵だけに集中してくれ」

兵士たちは覚悟を決め、クレインに頷いた。

「…散開!」

クレインが片手を上げて合図すると、すでに戦術を浸透させた別動隊が森の中で散開していく。


一方、ロイド率いる主力隊は旧ピラミディア王国近くの最初の目的地である、『エザルドン』にすでに到着していた。

「アスタンバード王子、もう少し先まで進軍しますか?」

「…いや。この地点で我々は待ち伏せの陣形を敷くことに決めている。」

「しかし……ヤツらは本当にこんな丘陵地をわざわざ通ってここに来るのでしょうか…?そもそも、主力ごとチパン村に直接向かわせるのでは……!」

「……おい、お前ッ!…信じろ。王子の戦略は我々よりも遥かに先を見越しておられるものだ」

ロイドが制した。

「……で、ですが我々も命がかかって……」

「ああ。わかっている。…彼らは必ず来る。信じてくれ。」

兵士長が顔を曇らせた、その時だった。

「……伝令ッ!!悪しき者たち(プレイグ)らしき軍勢が動き出しました!」

「………なんだと!!?」

先ほどまで戦略に難色を示していた兵長は、突如現れた偵察兵の報告に驚いた。

「………フンッ、早くも動き出しやがったかァ…」

「………」

バニルダスとジャグたちも、一気に真剣な顔つきに変えた。

「つまり、彼らの指揮官の耳に、早くもチパン村の話が伝わったということだ。」

フレッドも表情を引き締めた。

「王子、私たちもすぐに持ち場に向かうわ」

「ああ、頼む。…君たちが頼りだ。」

「フフッ。任せて。」

カリナと海賊30名の海賊部隊は、あらかじめ指定されていたエザルドンとピラミディア、そしてチパン村の三点を繋ぐ森の奥深くへと向かった。

「…俺も出る」

「…ジャグ。武運を祈る。」

ジャグは静かに頷き、隘路(あいろ)に向かったカリナたちの隠密部隊の用心棒として追っていった。

「そいじゃァ、俺らも行くかァ…」

「ああ…!」

バニルダスとロイドはテントを出るや否や、号令をかける。

「主力隊!!陣形を敷けッ!!!」

主力隊の兵士たちは地形に沿った陣形を作り始める。


チパン村のクレインは、隊員たちが事前に指定された持ち場へと動く間に、敵の長を探していた。

「—— アイツ…だな」

その長らしき者は二つの鋭い角を生やしたようなヘルムを被り、村の中心部で魔物らしき奴隷を椅子にして堂々と陣取っている。

周囲には護衛の魔物たちがその者を取り囲むようにして立っていた。

クレインはその者に弓を構え、狙いを定める。

そこへ、慌てた様子で長のもとに現れた魔物が何やら報告をしているのが見えた。

長が驚くようにして立ち上がって振り返ると、クレインの照準上で二人の目が合った。

「…………!!!」

ヒュンッ!!

敵の長がクレインの存在に気づいたその刹那 ——

ザシュッ!!!

長の頭に、クレインの放った矢が貫通した。

ドサッ…!

「…………!!!!」

突如倒れた長に周囲の護衛が動揺し、すぐさま敵襲であることを悟った。

「………放てェッ!!」

クレインの号令とともに、四方八方から矢が放たれ、そこへ襲い掛かる魔物たちを斧兵が屠っていく。

「うおおおおおッ!!!!」

ザシュッ!!!

「ギャァァアッ!!」

魔物たちの叫び声が飛び交う中、数体の魔物が急いで逃げていくのが見えた。

「行くぞッ!!」

クレインは横に並んでいた5名の精鋭弓兵を引き連れ、旧ピラミディア王国へと逃れようとする魔物たちを追う。

ヒュンッ!!!

矢が高速で放たれ、次々と魔物たちの頭は射貫かれていく。

挟み撃ちにする前に、逃れようとした魔物は全員林の中で沈んでいった。

「…クレイン隊長!!ご報告します!!……やりました!!チパン村………奪還成功ですッ!!!!」

「………!!!」

「うおおおおおッッ!!!」

別動隊の兵士たちは奇襲作戦で被害を最小限に抑え、見事にチパン村を奪還した。

「みんな、よくやってくれた!!………我らはこれより、主力隊に合流するッ!」

「おおぉッ!!」

クレインら別動隊は見事に奇襲とチパン村の奪還作戦に成功し、すぐさま主力隊へと向かう。


丘の上から敵の軍勢を待ち構えていたフレッドのもとへ、一人の兵士が現れる。

「—— 報告します!アスタンバード王子、陣形展開の準備が整いました!」

「…わかった。指示を出すまで全員その場で待機するよう伝えてくれ」

「承知しました!」


「ご、ご報告しますッ!!……旧ピラミディア王国に向かう森の中に派遣した海賊部隊と悪しき者たち(プレイグ)の後方部隊が、早くも交戦を始めましたッ!!それにより、中央部との切り離しに成功し、前方と中央部が混乱しながらこちらへと急進している模様ッ!」

「…………!!」

「—— よし…………迎撃態勢用意ッ!!!!」

「はッ!!迎撃態勢用意ーー!」

「迎撃態勢用意!!!」

ロイドの号令が、次々に伝播していき、丘の下に構えていた剣、斧、槍それぞれの歩兵たちが盾を構える。

「敵、来ます!」

走りながらロイドたちピラミディア兵の前に現れたのは魔物たちだった。

森を抜けたことで奇襲から逃げ延びたと思い込んでいたが、目の前の光景に顔を青ざめる。

「………かかれェッ!!!!」

「うおおおおおッ!!!」

ロイドの号令で、最前列の盾を構えた歩兵たちが突撃する。

「グァァァアア!!!」

後方部隊を殲滅し、敵の指揮官との連携を断つことに成功したカリナとジャグの海賊部隊の姿が見えた。

「カリナ!ジャグ!よくやったぞお前ェらァッ!!!やはり指揮官がいねえコイツらは大したことねェッ!」

バニルダスが最前列の兵士たちの先頭に立ち、雷槍で魔物たちを蹴散らしていく。

丘陵地の下に構えていた兵士たちの守備陣形を抜け、中腹まで上ろうとする魔物たちがちらほら現れ始めた。

「……今だッ!!!」

フレッドが横に手を上げると中腹の両端に構えていた槍騎兵と剣騎兵が颯爽(さっそう)と現れ、やっとのことで中腹まで上ってきた魔物たちを容赦なく蹴散らしていく。

すると、チパン村を奪還した別動隊も合流し、クレインと弓兵隊はすぐにロイドのいる位置へと上り、下で交戦する魔物たちを射抜いていく。


瞬く間に魔物たちの軍勢は崩壊し、エザルドンの戦いはフレッドたちが見事圧勝した。

恐れをなした数体の魔物がかろうじて逃亡し、追いかけようとする剣兵たちにロイドが声を上げる。

「追撃は不要!無駄な損耗は回避せよ!………これより我々主力隊は、王都ピラミディアへと進軍するッ!!!」

「おおおおおぉぉぉぉおおッッ!!!!」

主力隊、別動隊、海賊隊のすべてが再び集結し、ピラミディアへと進軍する。


一方、旧ピラミディア王国————

「……んんッ?」

門番の男が目を細めると、視線の先にふたりの魔物が走ってくるのが見えた。

「………てめえら…。何しに戻ってきた?」

門番の問いかけに恐れる魔物。

すると、門の上から、頭の両端に鋭い角をつけた王冠を被る若い男が現れた。

「………グズラン様!!」

「…構わん。入れてやれ。」

「しかし…!我らの掟を……!」

「私が構わんと言っている」

「…!!…………はッ!!!」

門が開き、魔物が慌てて旧ピラミディア王国へと足を踏み入れる。

「………敗れたか」

「グズラン様、ヤツらが攻めてくるようです」

「…そのようだな。すぐに迎撃の準備せよ」

「はッ!……………迎撃準備ーーー!!」

カンッカンッカンッカンッ!!!

非常事態を知らせる鐘が旧ピラミディア王国に響きわたる。

「迎撃だと!?一体、どこの国がここを攻撃するなんてマネを……!」

「わからない…!でも私たちも危険よ…!すぐに非難しないと!」

市民も予想だにしていない事態に一瞬でパニックに陥った。


「—— 派遣した魔物部隊がやられた」

「………まさかッ!!!」

「そのまさか…だ。向こうからの伝令が途絶えたあたりから不審に思っていたが、先ほどの魔物が言うには、後方部隊が奇襲を受けて退路が断たれていたとのことだ…」

「…ぐッ…そんな…!」

「敵がどこの者なのかすらまだ分からんが、あれほどの数の魔物がやられたんだ。かなりの切れ者を要している可能性が高い…。心してかかれ」

「はッ!」

旧ピラミディア王国はすぐさま防衛陣を展開し、迎撃態勢を整えた。

旧ピラミディアを支配する悪しき者たち(プレイグ)が息をのむ中、目の前の砂塵からぼんやりと人の影が次第に現れ始め、やがて大軍へと姿を変えた。

「我らは旧ピラミディア王国の者だ!王都を奪還しに来た!おとなしく投降すれば殺さないことを約束……」

「大バカ野郎めがぁッ!!!そんなザコどもで俺らに勝てる気でいるのか?勘違いも甚だしいッ!!」

待ち構える悪しき者たち(プレイグ)が大声で笑い飛ばす。

「………やむを得ん、か」

ロイド総隊長を見たフレッドが大きく息を吸った。

「貴殿らの考えはよく分かった!!我らはこれより、旧ピラミディア王国の地を奪還し、新たなピラミディア王国を建国するッ!!!!」

「新たなピラミディア王国だァ?!…てめえら一人残らず木っ端微塵に叩き潰してやるッ!!!やれェてめえらッ!!!」

「グオォォォォオッ!!!」

悪しき者たち(プレイグ)の残りの軍勢がこちらへの進軍を始めた。


「王子はこちらでお待ちください」

「…わかった。武運を祈るぞ、英雄たちよ。」

ロイドは王子に頭を下げ、振り返り、少し離れた敵を見据えた。

「—— 王子と栄光は我らのもとにあるッ!!!祖国ピラミディア王国奪還も目前に迫ったッ!!祖国にッ!!王子にッ!!己の命を懸けて戦い抜けッ!!!……全軍、突撃ィィィッ!!!!」

「うおおおおぉぉぉおおッ!!!」


ロイド総隊長率いる主力隊と悪しき者たち(プレイグ)の軍勢が激突する。

ドォオオォンンッ!!!

「グワアァァアッ!!!」

「ぎゃあぁぁッ!!」

ザシュッ!!

ピラミディア王都前の砂漠地帯は地獄絵図と化した。

「ゲッゲッゲッ!!おいおい大したことねェな!!!こんなもんかてめェらッ!!」

「さっきまでの威勢はどうした!!ギャハハハッ!!」

悪しき者たち(プレイグ)の乱雑だが圧倒的な個々の力を前に、次々と兵士たちが吹き飛ばされていく。

「………くッ!!想像以上の凶暴さ………これが悪しき者たち(プレイグ)かッ…!」

「総隊長!!かなり押されています……!一度撤退しましょうッ!」

「いや…いま撤退しても追撃されて壊滅するだけだ…!」

「ではッ!どうすればッ!!」

——その時だった。

「—— "砂嵐(サンド・ストーム)"…」


ギュオォォォォオッッ……!!!!!


「………!!!」

「なんだ……こりゃぁぁッ…!」

「グワァァアッ!!」

突如ロイドの横に現れた女が声を発した途端、大きな竜巻とともに砂嵐が吹き荒れ、悪しき者たち(プレイグ)が次々と砂塵の中に包まれる。


「—— え~っと…これで良いですかぁっ? えいっ!!」

ガシュゥンッッ!!!

謎の少女はそう言うと、まだ誰もがこの世で見たことのないであろう装置を動かした。


………………ドガァァァアンッ!!


しばしの静けさの後、突如ピラミディア王国の大きな門が一瞬にして粉砕した。

「…………!!!?」

その場にいる誰もが状況をのみこめていない中、少女の声が響き渡る。

「やったぁぁ!!成功しました!!!エマ!!」

「ええ。良くやったわね、ニナ…!」

「えへへ!褒められちゃいました!!」

唖然とした空気の中、ロイドが口を開いた。

「………!!君たちは……いったい……!」

「…あれぇ?なんかしゃべってますよ、エマ。」

「ふふっ。私たちはあなた方の敵じゃなくってよ?」

「……そう…なのか?…」

「…ええ。私たちは偶然ここを通りがかっただけの冒険者……いや、旅人というのかしら。」

「ぐ、偶然って………」

「まあ、私たちに任せなさい。悪くはしないわよ。」

「そうですよ。私たちに任せなさいです。」

二人は再び悪しき者たち(プレイグ)へと目をやった。

「"砂の迷宮(サンド・ラビリンス)"」

悪しき者たち(プレイグ)たちを取り囲むように迷宮が出来上がる。

「…………!!!」

目の前で起こる不可思議な現象の数々にみなが驚く。

「ニナ!お願い!」

「はいっ!いっきますよぉ~っ!それっ!!」

少女が新しい装置を取り出し、次々に岩が発射された。

ドコドコドコドゴォォォンッ!!!

「グワァァアッ!!!」

悪しき者たち(プレイグ)が迷宮の中で潰されていく。

「何だァ?ありゃァ……?」

バニルダスらも後方での異変に気付く。

「引けッ!!引けェッ!!」

「ふふっ。させないわよ…………"砂防壁(サンド・ウォール)"」


ゴゴゴゴゴゴゴッ!!


ピラミディア王都へと繋がる門前に巨大な砂の障壁が姿を見せる。

ガンッ!ガンッ!

「クソッ!!!なんだこれッ!!めちゃくちゃ(かて)ぇぞッ!!!」

「ふふっ。そろそろ仕上げね。……"大砂波(オオスナミ)"…!」


ザザザザザザッ…!!!!


「………!!!?」

巨大な砂の高波が壁へと押し寄せ、次々と悪しき者たち(プレイグ)が飲み込まれていく。

「グワァァアッ!!!!!」

「……これは…もはや…人間のなせる(わざ)の域を超えている……!!」


「グズランッ!!!敵陣に強力なスキル使いがいるようじゃッ!!何も見えんくなってしもうたッ!」

「ああ…。見ればわかるさ。」

「グズラン様…。私にお任せください。」

男たちの前に、二足歩行の黒豹の魔物が現れた。

「レオパルド…。良いのか?」

「ええ。この命、もはや惜しくありません故…」

「レオパルド…。お前は優秀だ。無駄死にするつもりなら、それはやめろ。」

「ですが…私は別の王に忠誠を誓った身。」

「貴様ぁッ!!それ以上を王を侮辱するならば、吾輩が斬るッ!!」

「……ならば、やってみればよかろう」

「……ぐぅッ!!貴様ァァァッ!!」

「—— やめろ。こんな時に揉めている場合ではない」

「しかし、グズランッ!こやつを放っておいてはいつか…!」

「やめろと言っている。………レオパルド、分かった。お前の意向を尊重しよう。」

「……すまない」

「いや、気にするな。無理強いをした私が悪い。すまなかった」

「グズラン、任せてくれ」

「………頼む」

黒豹の魔物は大きく息を吸い込み、軽く吐き出した。

「"瞬脚(ソニック・シャドウ)"……!」

ボゴォンッ…!!

黒豹の足元にヒビが入り、一瞬で姿が見えなくなった。

「……!!」

横で見ていた悪しき者(プレイグ)は愕然とする。

「……レオパルド…」


巨大な壁と砂の高波に多くの魔物たちが飲み込まれ、あたりは静まり返っていた。

「……やった……のか?」

バニルダスが口を開き、ほかの海賊たちも次々と叫び出す。

「俺らの勝ちだあぁぁあぁッ!!!」

「うおおおおおッ!!!!」


前方での歓声は波のように後方へと広がり、ロイドたちへの勝利の報せを届けた。


——だが、その時だった。

グゥゥゥゥンッ……!!!


まるで時空がねじ曲がったかのような異常が起こり、その直後、頑丈な砂壁と高波の一部に風穴があいた。


ドゴォォォンッ!!!


「……なにぃッ?!!」

バニルダスがその場所を見たときには、すでに影は消え失せていた。


「……………ついに…我々が……!」

ロイドの横に立つ兵士長は力が抜け、その場にへたり込む。

「ふふっ。私たちに感謝しても良くってよ?」

「そうですよ、であります。」

二人の謎の女がロイドに向かって言い放つ。

「…ああ!…君たちが何者かはわからんが、とにかく助かった!!本当にあり…」


ヒュンッ!!

「………!!!」


ロイドの前に立つ二人の女が一瞬で吹き飛ばされた。


ドゴォォォンッ!!!


「……ッ!!! 何だッ!!貴様ッ!!!」

兵士長が剣を抜く間際、魔物は背後に回り込み、短剣の柄頭で兵士長を気絶させる。


「……………お前は、いったい……!」

「………貴様がこの軍の大将か。」

「……そうだとしたらど ——」


ガギィィィンンッ!!!

「ぐッ!!」


ズサァァァッ…!


黒豹の魔物の圧倒的なスピードに反射的に剣を合わせたロイドは、受け止めた反動で後ずさった。

「…ほう。さすがは大将といったところか。」


「チィッ、ロイドたちが遠すぎるッ!!これじゃァ間に合わねェぞォッ!!!」

バニルダスも急いで後方へと向かう。


ガギャギャギャインンッッ!!!!

高速で凄まじい剣戟が繰り広げられる。


「くッ!」

「……なかなかやるな、貴様。」

「……フッ。お前も、やるじゃないか。」


「—— "深淵世界(ナイト・フォール)"」

魔物が言葉を発した途端、ロイドは暗闇の世界に閉じ込められた。


「…くッ!!!」

「この世界では何も見えない……。」

ザシュッ!

「ぐぁッ!!」


「この世界では何も聞こえない……。」

ザシュッ!

「ぐぅッ!!」


「この世界にあるのは、絶望のみ…。さらばだ。」

「—— "聖なる守盾ホーリー・ガーディアン"ッ…!」


ギィィィンンッ!!

ロイドを囲うように光の盾が現れる。


「…くッ!諦めの悪い奴だ…!」

「…フッ。あいにくそれが………俺の取り柄だからな!!」


ガギィィィンンッ!!

ロイドの放った渾身の一撃はすぐさま受け止められた。

「くッ…!」

「終わりだ…!」


シュッ!!!


—— その時、ロイドたちのいる暗闇の世界に、幻聴のようなものが鳴り響いた。



「………"縛鎖領域(バインド・ドメイン)"」







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