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極限報道#79  【エピローグ】 大神宛のタレコミが急増 「さあ、行こう!」

舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。

 大神は伊藤亜紀の家を訪れた。亜紀の親友・幸田晴美と一緒だった。

 伊藤社長を殺害したのが「防衛戦略研」の最高幹部だったことを、大神は亜紀夫人に詳しく説明した。


 「やっぱりね。私は最初からそう思っていたのよ。だから、『防衛戦略研』の資料を大神さんに託したでしょう?」

 「そうでした。あの資料の山とUSBメモリーの中に、真相にたどり着く端緒がありました」と大神はうなずいた。


 「聞いてよ、晴美さん。大神さんったら、『防衛戦略研』の仮面舞踏会に出席したのよ。しかも私の仮面を被って成りすましたの。でも、ばれそうになって相当慌てたそうよ、もう、おかしくって」

 「笑いごとではありません。権藤常務に指名されて、何か話すように言われたときは、生きた心地がしませんでした」と大神が言うと、3人で声を上げて笑った。


 亜紀夫人は事件のショックで体調を崩していたが、事件が解決したことで徐々に元気を取り戻しつつあった。

 今では「トップ・スター社」の取締役として活発に発言し、社内で存在感を見せ始めている。社交性があるだけでなく、数字にも強かった。


 「元気そうでなによりです」と幸田夫人が声をかけると、亜紀夫人は笑って言った。

 「くよくよしても仕方がないし。いずれ私が社長になるわ。夫が始めたⅠT企業を世界的な企業に育てて、娘に引き継ぐの」


 「あれっ、楓ちゃんは報道記者になるんじゃなかったですか?」と大神が驚くと、

「ダメ、絶対にダメ。私が反対するから。記者なんて危ない仕事を一人娘の楓にやらせるわけにはいかないわ。大神さんを見ていたらわかるでしょう。経営者として厳しくしつけますから」と言った。


 ちょうどその時、楓が帰ってきた。

 「あっ、大神さん、来てたんだ。そうそう、私、マスコミ講座でトップの成績で表彰されたんだよ。これが表彰状」。そう言って、表彰状をみんなに見せた。


 「えー、すごいね。トップなんてなれるもんじゃないよ」と大神も素直に感心した。

 「私ね、メディアの勉強のために留学をしたいの。いいでしょ、ママ」

 亜紀夫人はそれまでの流れから強硬に反対するだろうと大神は思った。


 「いいわよ。なんでも経験だからね。でも経営の勉強もしなくちゃね」

 「経営の勉強なんかしない。つまんないもん」

 「そんな……」

 亜紀夫人は黙り込んでしまった。娘には強く出られないようだった。


 後日。大神は、楓がネットメディアに関心があるというので「スピード・アップ社」の河野を紹介し、3人でランチをとった。


 河野は「スピード・アップ社」の成長に心血を注いでおり、徐々にだが大手企業がスポンサーとして出資を申し出るようになってきた。広告掲載料も入り始めていた。経営の見通しが立ち始めたところで、河野は正式に大神にプロポーズした。

 大神もそれを受けて、2人は婚約した。


 「結婚、おめでとうございます」。楓が快活に祝福した。

 「まだ結婚じゃないから、婚約だから。これから、なにがあるかわからないし」と大神が言うと、河野は「何も起こらないことを願うよ」と笑った。


 「『防衛戦略研』の捜査は順調に進んでいるようだな。おぞましい狂気の世界が徐々に明らかになってきている。もし捜査の着手が少しでも遅れていたら、被害者はもっと増えていただろう。そう考えると、由希が書いた記事の意味は大きかった。長丁場だったけど、ようやく一安心だな」

 河野が大神をねぎらった。


 「えっ、そうなんですか?」と楓が驚いたように言った。

 「どうしたの?」と大神が尋ねると、楓は、はっきりとした口調で言った。


 「本当の闘いはこれからなんじゃないですか? だって、『孤高の会』はまだ生き残っている。『防衛戦略研』と表裏一体の関係だって言われていたけど、新しく代表になった下河原さんは『別の組織で連携は全くなかった』と主張している。ネットでは、『孤高の会を陥れるために、一方的に悪者にされた』という陰謀論が渦巻いています。今回は見送られたけど、近いうちに政党になりますよ、きっと。根強い支持者がいるし、油断はできないのではないでしょうか」


 「さすがトップ。鋭い! 表彰されたのも納得ね。楓ちゃんの言う通り、ほっとしている場合ではないわね」と大神は感心した。


 楓が帰った後、河野は「すごく熱心で、やる気があって能力も高い。報道記者として十分やっていける。卒業後はうちに来て欲しいな」と楓のことをべた褒めした。


 大神は新聞社に戻り、社会部調査班の自席でタレコミのチェックを始めた。

 数通のメールと手紙が届いていたが、どれもピンとこない。長文の告発文書もあったが、10行ほど読めば、「こりゃ記事にならない」とわかってしまい、読む気がなくなる。

 だが、気力が萎えても思い直して最後まで読むことにした。最後の1行に、「珠玉の特ダネ」が眠っているかもしれないからだ。


 段ボール箱に入ったタレコミの束も、最後になった。

 茶封筒を開けると、1枚の紙が落ちた。拾い上げて見ると、タレコミの概略を記したメモで、冒頭に「社会部の大神記者へ」と書かれていた。


 中身は、AIベンチャー企業についての内部告発だった。「防衛戦略研」を告発した記事を署名で書いて以後、「大神記者へ」と書かれたタレコミが多く来るようになっていた。

 じっくり内容を読んでみると、「これは記事になる」と直感した。


 隣で眠そうな目をしている橋詰にもその資料を見せた。橋詰も読み進めるうちに目を輝かせるようになった。


 「さあ、行こう。これは長丁場になりそうね」。大神は言うなり鞄を持って立ち上がった。

 「勘弁してくださいよ。ゆっくりやりましょうよ。大神先輩のボディガード役は命懸けなんですからね」


 そう言いながら、橋詰も机の上をさっと整理して立ち上がった。

                            

                              (了)


■   ■    ■


近未来を舞台にした連載小説「極限報道」の連載は、完結しました。敏腕女性記者が最凶権力と戦う報道活劇。2025年2月10日から毎日更新で、全10章79話(プロローグとエピローグを含む)でした。

長期間にわたり読んでくださっている方々、本当にありがとうございます。


この「極限報道」の数年後の世界を舞台にした物語が、「暗黒報道」になります。


満身創痍になりながらも社会の不正と闘い続ける調査報道担当記者・大神由希の物語は、これからも続きます。


今後ともよろしくお願いいたします。


                2025年5月9日(金) 緒方 謙









お読みいただきありがとうございました。

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