極限報道#76 東京地検が贈収賄事件を摘発 警視庁が本格捜査!
舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。
報道機関はどこも忙しく大騒ぎだったが、朝夕デジタル新聞の夕刊一面記事を見て、また驚くことになった。
新たなスクープが一面トップを飾ったのだ。
<スクープ 朝夕デジタル新聞夕刊>
大手電機メーカーの「グランド・エレクトロニクス」が、防衛装備品を防衛省に納入していたが、作業時間や人件費を大幅に水増しし、代金を防衛省に過大に請求していたことがわかった。防衛省の担当部長はすべてを承知していて、防衛装備品導入をめぐり便宜をはかった見返りに現金を受け取っていた。水増し分だけで総額25億円。「防衛戦略研」を介する形をとっていた。東京地検特捜部は捜査に着手し、防衛省、関係企業を家宅捜査した。「防衛戦略研」には巨額の仲介手数料が支払われていたという。
防衛産業によるキックバック疑惑は、東京地検特捜部が春から内偵をしていた。岩城幸喜が集めた情報が弁護士を通して提供されたことが端緒だった。
防衛省の部長は収賄容疑で、「グランド・エレクトロニクス」の副社長と取締役は贈賄容疑でそれぞれ取り調べを受け、夜には、全員が逮捕された。潜伏中だった「防衛戦略研」の権藤常務も逮捕者に含まれていた。
調べの中で、水増し請求して浮かせた金は25億円にのぼり、うち10億円が「防衛戦略研」に渡っていたことが明らかになった。当初、着手は1か月後の予定だったが、朝夕デジタル新聞に「防衛戦略研」関連の記事がでたことで、証拠隠滅されないように急遽、着手を早めた。
さらに翌日の朝刊では、警視庁キャップ、興梠による特ダネ記事が続いた。
「防衛戦略研」が関与する複数の殺人事件で、警視庁が摘発に乗り出す方針を固めた
「シャドウ・エグゼクティブ」に逮捕状請求へ
警視庁捜査一課が摘発に踏み切ったのは、東京地検特捜部が贈収賄事件に着手した1週間後だった。
「シャドウ・エグゼクティブ」全員に殺人容疑での逮捕状が出た。全日本医師会会長が「シャドウ・エグゼクティブ」の一員であることが新たにわかった。「防衛戦略研」主催の仮面舞踏会で、伊藤亜紀夫人に扮した大神に挨拶に来た人物だった。
海外に逃走している三友不動産の後藤田は、梅田彩香を殺害した容疑で指名手配された。直接殺害に関わった「雲竜会」のメンバー5人はすでに全員逮捕され、「後藤田の指示だった」と供述した。沢木の証言が決め手になった。
三友不動産広報室長の桜木佳代をホテルの風呂場で殺害したのも「雲竜会」のメンバーで、逮捕された。「どんな手段を使ってでも殺せ、と海外の後藤田から指示された」と供述した。捜査が迫ってきていることに危機感を持った後藤田が、事実上の個人秘書として使っていた桜木の口封じに動いたのだった。現場になった桜木が宿泊していたホテルの所在地は、警視庁の最高幹部から聞き出していた。最高幹部も捜査一課の事情聴取を受けている。
警察の調べが進み、事件の真相が次々に明らかになった。
「トップ・スター社」の伊藤社長は、「シャドウ・エグゼクティブ」への勧誘を断ったために、4人の「シャドウ・エグゼクティブ」に刺されて殺され、遺体を高尾山中に捨てられた。
社会評論家の岩城に最後の一撃を加えて殺したのは、自衛隊幹部の畠山賢一だった。暴力組織「雲竜会」のメンバーが岩城を尾行し歌舞伎町でけんかに見せかけて襲った。
金子代議士は「タワー・トウキョウ」から突き落とされた殺人事件だったと断定された。見学中だった金子を呼び出して、油断させ後ろから突き落としたのは、後藤田だった。丹澤副総理も現場近くにいた。軍事評論家のジェーン・スミスの殺害は池内麻美が実行した。
「防衛戦略研」の不正な資金集めは丹澤が主導し、殺害計画は後藤田が中心になって進めていた。
続報に次ぐ続報。各新聞社の紙面、テレビのニュースは連日、「孤高の会」と「防衛戦略研」の記事で埋め尽くされた。
開会中の国会では、野党がこの時とばかりに声を上げた。
「朝夕デジタル新聞によるスクープで始まった一連の犯罪は、かつてない衝撃を国民にもたらしている。国際的にも信用の失墜は甚だしい。『孤高の会』は解体すべきだ。内閣は即刻総辞職するべきだ」
野党の追及に対して、国家公安委員長は「捜査に全力を尽くし、疑惑の解明に務めます」と答弁。磯川総理は「すべては『孤高の会』の問題だ。丹澤副総理に話を聞こうにも面会謝絶が続いております。私もあまりの事態に驚いております。党内は混乱しており、現在事実関係を把握するために調査しているところであります」と相変わらず煮え切らない答弁に終始した。早期の解散については「100%ありません。事態の解明に全力を挙げます」と答弁した。
「孤高の党」の結成は、直前になって見送られた。副代表だった下河原が丹澤に代わって代表に就任するというメモが報道機関に回ったが取材には一切応じなくなった。組織を脱退する議員が相次いだ。「孤高の会」の有力メンバーだった防衛大臣は大臣の職を辞職した。
辞任を発表した防衛大臣は「私は丹澤副総理に頼まれて『防衛戦略研』のパーティに出席していただけだ。『孤高の会』と『防衛戦略研』がどのような活動をし、連携していたのか本当に知らない」と言った。防衛省の装備品をめぐる贈収賄事件の摘発については「地検の捜査に全面的に協力する。省内でも徹底的に調べるように指示を出した。私自身は全く関与していない」と、終始、逃げの姿勢だった。
記事執筆に追われていた大神は、一息ついたタイミングで永野洋子に電話した。
「貴重な資料の提供、ありがとうございました。ようやく記事になりました。田島さんにもお礼を言ってください」
「朝夕デジタル新聞社は安泰ね。大神由希がいるものね」
「おだてないでください」
「だって、そうじゃない。巨額な金を使って革命を起こそうとしていた殺人集団の野望を打ち砕いたのはあなたなんだから。あなた1人の力よ。体を張って立ち向かったからこそ、記事にできたのよ」
「タレコミがあったからです。最後は永野さんからの詳細な金の流れが書かれた公文書の情報提供があった。あれで取材班が息を吹き返しました。最初に書き上げた記事がボツになったとき、私はこれまでかと思いました。ここまでやってもダメなのかと報道の限界を感じていました」
「ずいぶん酔っぱらってたもんね。私が情報提供したのも、あなただから託したの。タレコミがあったとしても、それに意味を見出し、取材をきっちりして、確実に記事にしていく。それが大事なことよ。あなたも謙遜するのは大概にしなさいよ。たまには素直になってこれからも頑張るって言いなさいよ」
「わかりました。頑張ります。でも、永野さんにはお世話になりっぱなしで。情報提供料は5万円ですね。お渡ししなければ」
「プラス高級焼肉ね。でも急がないから。もうそんなに会うことはないと思うわ。私は弁護士業務が忙しくなりそうだから」
「まさか、山手組がからむ事件を担当するのですか?」
「鋭いわね」
「今回の一連の事件で、『防衛戦略研』は経営が立ち行かなくなっています。強く握っていた利権の一部を羽谷組が力で奪い取ったという情報を聞きました。『雲竜会』も壊滅した。羽谷組のしのぎによる稼ぎが一気に増えたのではないですか。それで永野さんも忙しくなったのではないですか。ぜひ、取材させてください」
「おっと、危ない、危ない。スクープ記者に目をつけられたらたまらない。なにを書かれるかわからないし、その件についてはノーコメントね」
「しっかり取材しますから。組長に会いにいくかもしれませんよ」
「お手柔らかにね。尻尾をつかまれないようにしなければ。と言いつつ、私は組の活動とは一線を画すわ。高度な駆け引きはあっても最後には暴力が支配する世界にとっぷりと浸かっていくことはできそうもない。まあ、裁判になった時や、なりそうな時に相談にのるだけよ」
「葉山さんの容体はどうですか」
「意識を取り戻した。自由の利かない体で生きていくことになりそうね」
「心配ですね」
「葉山がこれからどういう人生を歩んでいくのか、見守っていくことにはなるわ」
「田島さんは?」
「田島はロンドンに単身旅立ったわ。外資系の銀行に入社が決まったから。しばらくは別居になる」。そう言うと、永野は電話を切った。
永野はいつも不思議なことを言って去っていく。常人では理解できないところにいる。これからも世間を揺るがすような事件があればいろいろな形でからんできそうだ。
「決して付き合ってはいけない」。鏑木警部補の助言が耳に響いたが、「情報源」としても一級だし、なにより、あっけらかんとしている。そして、やることをやる実行力が魅力的で、これからも大好きな気持ちは変わりそうになかった。
(次回は、■副総理 口から緑の液体噴出)
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