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極限報道#63 ペンの力で立ち向かう 自宅が取材拠点になる

舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。

 田森は、圧倒的な力を持つ闇の権力に対抗する手段として、ナイフという凶器を使った。すべてを捨てる覚悟で、警護が厳重な副総理を襲撃したのだ。しかし、田森が言いたかったことは一部を除いて黙殺され、凶悪犯というレッテルが貼られただけだった。

 

 丹澤副総理が大けがを負ったことで、「孤高の党」の結成はどうなるのか。政財界、そして世論の関心が集中した。

 下河原が丹澤の代理となって10月1日の結成に向けて準備を進めることになった。

 

 「今度は、私が立ち向かう番だ」

 大神は、強固な壁に何度でもぶつかっていくしかないと思っていた。非合法な手段に訴えるつもりはない。


 ペンの力で、一大権力の闇を暴き出していくのだ。

 

 まずは退院しなければ話にならない。精神面では充実してきたものの、体調面は依然としてすぐれなかった。痛みは激しく、薬を飲んでも注射をしてもらっても耐え難いほどだった。

 それでも、大神は闘った。医者の診察に対して、どんなに痛くても、「平気です。痛みはありません。もう治りました」と答えた。

 

 大神は、事件のあった劇場で「防衛戦略研」の「シャドウ・エグゼクティブ」9人の顔をしっかりと見ている。人相を記憶する能力には自信があった。自分では、当然のことだと思っていたが、「人の顔を覚える能力、凄すぎる」と友人から何度か言われてきた。


 後藤田が父の仏壇に線香をあげに来た時、「この顔は一生忘れてはいけない」と念じながら睨み、何度も思い返していた。その経験が記憶力に影響を及ぼしたのかもしれない。


 使用が認められたパソコンのネット情報を駆使して調べ上げ、判明した人物の名前を書き出していった。10人中8人までが割り出せた。


① 三友不動産社長          後藤田 武士

② 朝夕デジタル新聞社編集局長    辛島  勇樹

③ 競泳のオリンピック強化指定選手  遠藤 駿 (逮捕)

④ IT界の風雲児          沢木 龍之介

⑤ 自衛隊幹部            畠山 賢一

⑥ 宗教家              藤原 顕孝

⑦ ファッションデザイナー      池内 麻美

⑧ 大学教授             郡山 寿史 (自殺)


 9月9日、退院が許された。「自宅療養」ということで医師の許可が出た。

 

 編集局のオリンピック取材班は1日に立ち上がっていた。初会合は入院中だったため欠席した。取材班は、スポーツ部の担当デスクと部員3人、社会部など他部からの応援3人の計7人で構成されていた。

 

 最初から専従と言われているのは、スポーツ部員1人と大神だけだった。初回の打ち合わせでは、五輪の注目選手についてデスクから説明があったという。2回目の会合の日程は未定で、大神には何の連絡もなかったので放っておいた。

 

 のんびりしているわけにはいかなかった。大神の自宅マンションがそのまま取材拠点となった。

 夏にベランダに飾った風鈴はそのまま涼しい音を奏でていた。

 

 警視庁の鏑木警部補の手配で、大神のマンションは「重要警戒拠点」に指定され、警察官が定期的に巡回した。

 記者たちが自主的にマンションに集まってきた。河野、警視庁キャップの興梠、調査報道班の橋詰、暴力団担当編集委員の村岸、全日本テレビの吉嵜デスクと吉野理子記者もやって来た。経済部の都市開発・不動産担当の柳田も遅れて参加した。


 大神は、改めて自分の体験を踏まえ、「防衛戦略研」の概要を説明し、判明した「シャドウ・エグゼクティブ」という最高幹部への直接取材を提案した。劇場での事件の確認をしながら、疑惑の数々について問い質していくべきだと言った。

 

 全員が同調した。大神が「シャドウ・エグゼクティブ」になるように誘われた理由のひとつに、社内で孤立している点があったらしいと言うと、興梠が笑いながら言った。

 「ここに集まっているのは、みな社内で孤立している異端児ばかりだ。その点だけは、有資格者と言えるな」

 

 風鈴がチロリンと涼やかに鳴った。緊迫した空気の中にも、笑いが漏れた。

 

 「記者たるもの、孤立するぐらいがちょうどいいんだ。協調性ばかりを重視して上品にしていたら、一級のネタなんかとってくることはできない」。村岸が引き取った。


 編集局長の辛島が「シャドウ・エグゼクティブ」の1人だったことについては誰もが衝撃を受けた。

 興梠が補足する。

 「大神の話から捜査一課が辛島を取り調べたようだが、逮捕されたという情報は今のところない」

 

 沢木龍之介、畠山賢一、藤原顕孝、池内麻美の4人を手分けしてあたることになった。沢木は、河野と「スピード・アップ社」の岸岡が担当する。沢木と岸岡は、年齢は沢木の方が相当上だが、同じIT業界の天才同士で話が合う可能性があった。


 自衛隊幹部の畠山と宗教家の藤原は、編集委員の村岸と橋詰が担当。ファッションデザイナーの池内は、吉嵜と吉野があたる。興梠は警視庁の担当記者と共に捜査一課の取材に専念し、柳田は財界筋から後藤田についての情報入手に努めることになった。


 一方、河野は、田森容疑者の証言映像を「スピード・アップ社」のニュースサイトで流したことで、各方面から厳重抗議が続いていて対応に追われていた。

 三友不動産からは「田森課長の証言に信ぴょう性はないにもかかわらず、檄文をそのまま流したことで、抗議が会社にも殺到している。会社を混乱させ、多大のダメージを与えた責任を取ってほしい。ニュースの訂正、削除と全国紙へのおわび文の掲載を要求する」という抗議がきていた。


 河野は、近く広報室長の桜木佳代に会う予定になっていた。


(次回は、■宗教家に洗脳される)



お読みいただきありがとうございました。

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