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極限報道#55 シャドウ全員が姿を現す  今年3回目の最高幹部会はステージ上で 「防衛戦略研」

舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。

 大神は深く沈み込むような椅子に座らされ、目隠しを外された。広々とした空間の真ん中に小さな丘のようにステージが浮かび上がっている。天井はどこまでも高く、濃い茶色の重厚な壁がぐぐっと迫ってくる。


 本格的な劇場のようだ。しかもすべてが真新しかった。大神は客席の中央にひとりで座らされていた。時計を見ると午後8時を回っていた。ステージ上には、10脚の椅子が大神に向かって並べられていた。


 荘厳なクラシック音楽が流れてきた。舞台上の椅子にスポット照明があたった。しばらくすると、ステージの奥から、仮面をつけた人物が1人ずつ登場して椅子に座っていった。7人がそろったところで、全員が仮面をとった。


 大神にはわかった。「防衛戦略研」の「シャドウ・エグゼクティブ」たちだ。テレビでよく見る人物もいた。これまで闇に隠れた者たちが遂に目の前に正体を現したのだ。8人目が登場し、中央の椅子に座り、ゆっくりと仮面をとった。

 三友不動産社長、後藤田武士だった。ドーランを塗っているのだろうか。顔が不気味に青白く浮かび上がっていた。


 「ようこそ、大神さま」

 朗々とした声がホール全体に響いた。何かに憑かれたように大げさなしゃべり方をする後藤田に大神は唖然とした。社長室での後藤田は話している内容は異常なことばかりでも、話し方は淡々としてごく普通だった。それが今、全く別人のようになっていた。


 目をかっと大きく見開き、恍惚とした表情を浮かべている。舞台俳優にでもなったつもりなのか。異様な存在感を醸し出していた。


 「それでは私の隣に座る人物にも登場願おう」

 背の高いひょろっとした男が現れ椅子に座った。ゆっくりと仮面を取り外した。朝夕デジタル新聞編集局長の辛島だった。にやりと笑った顔がなんとも薄気味悪い。大神は吐き気がした。


 「おや、驚きがないようだね」と後藤田が客席の大神を見下ろしながら言った。「びっくり仰天する姿を見たかったのにな」

 「想定していたことなので。組織の取材をしていた私に探りを入れ始めた時からおかしいと思っていた。編集局長が一線の記者を呼び込んで取材の内容や取材源を聞き出そうとするなんてありえない。今日のハイヤーの中での言動もおかしいことだらけだった」


 大神は、意外なほど落ち着いて話せている自分が、不思議だった。


 「おやおや、辛島編集局長も形無しだね。かつては日米首脳会議の裏で交わされた密約をスクープして政権を退陣に追いやった敏腕政治記者も、すっかり見透かされていたんだ。交代の時が来た、という私の判断は正しかったようだな」。皮肉のこもった言い方に、辛島は苦笑いを浮かべた。


 「それから端っこに空席がある。郡山教授の席だ。自殺だ。気の弱い男だった」。後藤田は両手を広げる大げさな仕草をとり、困った表情を浮かべた。大神には滑稽なポーズにしか見えなかったが、後藤田は真剣そのものだった。

 ステージ上の全員が1分間、黙とうを捧げた。


 「これより『日本防衛戦略研究所』、本年3回目の最高幹部会を開会する」。後藤田が宣言した。

 

 「『シャドウ・エグゼクティブ』の新しいメンバーを選ぶという重要な議題だ。改めて紹介しよう、大神由希。朝夕デジタル新聞社会部調査報道班の記者だ。推薦者は私と辛島だ」。全員が椅子から立ち上がって一斉に拍手をした。


 これが、『防衛戦略研』の最高幹部会なのか。後藤田がすべてを取り仕切っている。独壇場ではないか。


 「大神君の経歴については7月1日の会合で配られたカードに記載されていたのでみな、知っている通りだ。あの時は殺人対象者のリストに名前があがったが、あえて私が強権を発動して暗殺を一時的に止めた。異例のケースだが推薦するに足る人材だということで了解してほしい。5年の任期を終えて9月で退任する辛島の後任だ。なお、これからは新任の任期は無期限にしようと考えている。若い人材を発掘して長く務めてもらいたいのだ」。また、拍手が起きた。


 「ちょっと待って!」

 大神が立ち上がり、ステージに向かって叫んだ。


(次回は、■狂気のカルト集団)







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