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極限報道#47 来客はヒットマンか? 地検特捜部が動き出す

舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。

 警視庁捜査一課警部補の鏑木と会った翌日、新聞社に大神を訪ねて思わぬ来客があった。殺された社会評論家、岩城幸喜の知人と名乗る弁護士だった。


 「弁護士を名乗っているが、大神の命を狙うヒットマンではないのか」。井上遊軍キャップの一声で、社内はピリピリした雰囲気に包まれた。社会部は厳戒態勢を敷いた。大神と遊軍記者、警備職員の3人が玄関で迎え、応接室での対応は大神のほか井上と、柔道の国体選手だった眼光鋭い遊軍記者の3人であたった。応接室の外では、警備員が立って警戒した。


 弁護士は言った。「死んだ岩城さんの件でお伝えしたかったことがありました。私は大神さん1人に会うつもりで来たのですが……」。物々しさに驚いた様子だった。

 「取材には複数であたることが原則になっていますので」と井上が説明。遊軍記者は弁護士を鋭い目で睨んだ。


 「一体、何でしょうか。気にせずにお話しください」と大神が聞いた。 「大神さんがそう言うならば」と弁護士は言って、一枚の紙を見せた。 タイトルは、「防衛産業の水増し請求疑惑とシンクタンクへの資金流出について」となっていた。


 「これは! 岩城さんのところに来た内部告発ですよね」 大手電機メーカー「グランド・エレクトロニクス」が、防衛装備品を防衛省に納入していたが、作業時間や人件費を大幅に水増しして代金を過大に請求していたという。水増し分だけで25億円。このうち10億円がシンクタンクに流れ、10億円は会社の売上として計上され、残る5億円が政官界の重要人物に渡ったという疑惑だ。


 「そうです。岩城さんがこの件を調べていたところに、大神さんが事務所にやって来た。岩城さんが告発内容を話したら、大神さんから『こんな重大事件は検察庁か警視庁に告発するべきだ』と忠告されたと言っていました。本当ですか?」

 「ええ、あまりにもスケールの大きい話なのでそういう趣旨のことは言ったと思います」


 「岩城さんはこの内部告発の資料のコピーを私のところに持ってきたのです。そして、『もし、自分になにかがあれば、捜査当局に持っていくように』と言われました。『何かとはどんな時か』と聞いたのですが笑っているだけでした。それで私は厳重に保管していたところ、岩城さんがああいう形で亡くなってしまって。死を予感していたとしか思えません」


 「本当にびっくりしました。あれはケンカではなく、計画的な殺人だと思っています」

 「岩城さんの死後、私は検察庁に水増し請求の実態が書かれた内部告発資料を持ち込んだんです。岩城さんの『遺言』ですからね」

 「なるほど。賢明な判断だと思います」

 「しばらくして検察庁の知り合いの検事に尋ねたところ、東京地検特捜部が本格的な内偵捜査を始めているということでした。それだけのことなんですが、お伝えしておいた方がいいかと思って来ました」


 「ありがとうございます。事件として立件されそうですか」

 「捜査内容について聞いたのですが検事の口は堅い。それこそが、真剣に捜査にあたっている証拠であり、立件を視野に入れている証なんだと思っています」

 「それはなによりです。わざわざご連絡ありがとうございました」と大神は言い、弁護士を見送った。一緒に見送った眼光鋭い遊軍記者は穏やかな表情に変わっていた。


 「朗報だな」と井上キャップは言った。

 「ええ。『グランド・エレクトロニクス』の疑惑をまとめた資料は、岩城さんの事務所の金庫に保管されていましたが、ニセ刑事に持ち去られました。コピーを弁護士に預けていたんですね。よかった。水増し分のうち10億円が流れたシンクタンクが『防衛戦略研』なんです。まだ時間がかかるかもしれませんが事件として立件してくれたら金の流れが明らかになります。金子代議士は『孤高の会』の不正な金の流れを糾弾した直後に亡くなった。贈収賄事件が摘発されれば、『孤高の会』に大きな打撃を与えることになります」


 「検察庁の担当キャップに、特捜部の動きをマークするように言っておく」と井上は言った。


(次回は、永野洋子との決別)




お読みいただきありがとうございました。

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