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極限報道#42 「情報源は俺だ」内部通報を後悔  AI装着の防犯カメラ1000万台設置を

舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。

 通信社による速報が流れた。

 

 大阪・梅田の繁華街で爆発がありました。路上駐車していた無人のトラックの荷台が突然、爆発し燃え上がりました。近くにいた通行人ら9人が死亡、30人が大けがをしました。ビルの窓ガラスが割れるなどの被害も多数出た模様です。警察はテロの可能性があるとみて調べています。

 

 さらに別の新聞社系のネットニュースが続いた。

 

 電機メーカー大手のエスコジャパンは、サイバー攻撃を受け、情報システムが被害を受けたと発表した。同社によると、国内110か所と東南アジアにある30か所の工場が操業停止に追い込まれた。海外に拠点を持つ犯罪組織から身代金を要求されたことを明らかにした。

 警視庁は、身代金要求型のウイルスによるサイバー攻撃とみている。こうした海外からのサイバー攻撃は今年に入って500件以上に及んでいる。

 国家が背後で資金援助をしているケースもあるという。国家の関与について可能性が高いケースについては、外務省が抗議を繰り返している。


 下河原代議士は「孤高の会」の広報担当としてコメントを発表した。

 

 「今すぐに非常事態宣言を発令するべきだ。これ以上、国民の命を危険にさらすことは許されない。「孤高の会」はテロを断じて許さない。テロ活動の摘発に国家をあげて取り組むべきだ。

 不審人物を即座に検知し通報できるAI搭載の防犯カメラ1000万台を早急に設置すべきだ。また、サイバー空間では国家間の戦争が勃発しているといっていい。日本からサイバー攻撃を仕掛けていくべきではないか。

 人工的に変異させたウイルスを殺人兵器として開発しようとしている国さえもある。すでに死刑囚を対象に人体実験が行われているとの情報が入った。

 いつ日本が滅ぼされるか。そうなる前に戦時体制を整えなければならない」

                  

 大神は三友不動産課長の田森に連絡を取った。京都に旅行していた時に受けたメールの中味に衝撃を受け、東京に戻った時に会う約束をしていた。



 「明日、お会いできませんか。危険な場所に行くなと言われていますので、公共の場でしか会えませんがいいですか」

 「わかった。横浜のホテルのロビーで。1人で来てくれ、頼む」

 「わかりました」。1人で来るように言われたが、橋詰に遠巻きで見守ってくれるように頼み込んだ。「勘弁してくださいよ」と言われるかと思ったが、橋詰は真剣な表情で「了解」とだけ言った。


 橋詰は、「防衛戦略研」の疑惑に関連した防衛産業を取材しているが芳しい成果を挙げておらず、調査報道の難しさを痛感しているようだった。さらに、編集局幹部に防衛産業の取材に対して消極的な姿勢が見られることが漏れ伝わってきて相当頭に来ていることが言葉の端々から伝わってくる。


 午後1時、ホテルのロビーの喫茶コーナーで田森と待ち合わせた。

 先に着いて窓際の4人席に座っていた大神を見つけて近づいてきた男は間違いなく田森だった。右の頬にピンポン玉ぐらいの大きな痣ができていた。

 最初に金子代議士が転落した現場で会った時の溌剌とした姿は影を潜め、相当やつれていた。席に着いてもどこか落ち着かず、周囲をきょろきょろと見渡した後に小さな声で話し始めた。


 「今、こうしている間も狙われているのではないかと思っている。君だって同じだ。こうして組織のターゲットになっている2人が多くの人が行き交う場で会っているのは危険すぎる。周りの人間はみな殺人者に見えてくる。例えば、ほら、上の階の太い柱の陰からこちらを窺っている男がいるだろう。怪しすぎる」


 田森の視線を目で追った。バルコニーのような場所から覗き込んでこちらの様子を窺っている男は、橋詰だった。大神は田森に気付かれないように、テーブルの下で右手首を左右に動かして移動するように促した。橋詰は合図に気が付いたようであわてたようにその場から離れた。


 「あの人は違うみたいですね。誰かと待ち合わせだったのでは。これだけざわざわした場所であれば逆に怪しまれないし、もし尾行が付いていたとしても行動は起こしにくい。話し声も周りには聞こえないので安心してください」

 「とにかく組織が捜し回っていることは確かなんだ。見つかったら一体どうなるか。考えるだけで恐ろしい」 


 「右の頬は、どうされたんですか?」

 「襲われたんだ。黒ずくめの男たち3人に。しかも白昼、繁華街の真ん中で」

 「雲竜会ですか。一体なぜ」


 「実は、赤坂周辺の再開発で用地買収がもめた件について社の窓口に内部通報したのは俺なんだ。開発の現場責任者になった直後、用地買収が未だに完了していないことを知り、独自に調べたんだ。そして暴力団が介在してとんでもない事態になっていることを知った。しかもグループ企業が損害を受けている。だから三友不動産の窓口に内部通報した。でも会社の動きはあまりにも鈍い。それどころか、もみ消そうとする動きまで出てきた。それで、朝夕デジタル新聞社に情報提供した。『タレコミ』を大事にする会社だと宣伝しているよね。純粋に許せない仕業だったからだ。朝夕デジタル新聞社の記者がその件で取材に来たと聞いた後、広報室長をリーダーとする調査チームが内部告発者探しを本格的に始めたんだ。情報を知りうる立場の人間をマークしていった。俺はその1人だった。社に対する不平不満を知人に打ち明けていたメールの内容について問いただされた。そして消去法で新聞社にタレこんだのは俺だと断定されたんだ。処分は受けなかったが、調査チームが解散した直後、帰宅途中の路上で男たちに囲まれて殴る蹴るの暴行を受けた。頬の傷はその時のものだ」

 

 「内部通報したことで暴行を受けたということですか。男たちはそう言ったのですか」

 「はっきりとは言わなかったが、それしか考えられない。内部通報なんてするんじゃなかったと後悔している」

 「内部通報とうちへの情報提供がきっかけになって、『防衛戦略研』の悪事と、『孤高の会』の実態が暴かれようとしています。田森さんの通報行為は意味のある重要な行動だったんですよ」

 

 「それは君が取材に駆け回って、記事にしたからだ。中途半端に終わっていたら、相手のガードがより固くなってすべてが闇の中に葬り去られただろう。俺の命も同じだ」

 「まだ本質的な案件については取材途中で記事になっていません。本当の勝負はこれからですが、正直言って難航しています。私が拉致されたケースでは、事件になって警察が捜査を進めていますが、逮捕されたのは末端のものばかりで、全貌を知る手がかりにはなっていないようです」

 

 田森はカバンの中から茶封筒を取り出し、机の上に置き、すっと大神の方に滑らせた。大神が封筒を開ける。資料の束が入っていた。

 「時間がないんだ。第二弾の情報提供だ。『防衛戦略研』の幹部の名前も判明した範囲で記してある。総動員して取材に当たれば突破口になるはずだ」

 「幹部というのは、『シャドウ・エグゼクティブ』ですか?」

 「そうだ」

 

 「それは助かります」。期待できそうな重要情報だった。

 「田森さんのネタ元は誰なんですか」。ダメ元で聞いてみた。

 「それは……」。田森は言い淀んだ。それを見て「無理に聞きません。私たちも取材源は秘匿しますから。情報が新鮮で間違いなければ問題はありません」と言ったが、田森は意を決したようだった。


 「ネタ元は、俺そのものなんだ」


(次回は、■「俺はシャドウ・リーダー」)



お読みいただきありがとうございました。

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