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極限報道#30 「防衛戦略研」本社へ突撃取材 「記者に何の権限があるんだ」

舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。

 大神は、シンクタンク「防衛戦略研」の本社に向かっていた。

いよいよ、「本丸」への突撃取材を敢行する。社会評論家の岩城から「謎の組織だ」と聞かされて以後の3か月に及ぶ取材は、この日のための準備だったといってもいい。


 十分な取材を積んだ上で、闇の組織の懐に入り込んでいく。実態を自分の手で暴く時が来たのだ。組織の責任者はてんこ盛りの疑惑についてどう説明するのだろうか。緊張と興奮が入り混じり、言い知れぬ高揚感に包まれていた。

 

 新聞、テレビ、ネットのグループ各社による協業会議で、「防衛戦略研」に直接取材する際は、新聞とテレビの記者で一緒にあたり、テレビ局のカメラマンが一部始終を撮影することを申し合わせていた。


 全日本テレビからは、調査報道の経験豊富なデスクの吉嵜とカメラマンが参加した。準備する時間を与えないために、あえて事前に予約をとらず、直接訪れることにした。下河原らに取材して手の内を明かしていることから、いつかは取材に来るだろうということは承知しているはずだ。責任者がいなければ名刺を置いて出直せばいい。国からの補助金が出ている組織なのだから逃げ回ったり、消えてなくなったりすることはないはずだ。


 住所をたどると、「防衛戦略研」の本社は、JR四谷駅近くの大通り沿いに面した5階建てのビルにあるはずだった。外壁の塗料が所々剥がれ落ちている古いビルだった。

 

 1階のエレベーター横に設置してあるテナント案内板に「防衛戦略研」を想起させる団体名はなく、2階フロア部分だけが空白になっていた。グループ全体の売上が100億円を超える会社の本社としては寂しく地味な場所だった。

 3人は階段で2階にあがった。事務所になっていて人の気配はあるが、やはり看板とか表札はかかっていなかった。


 「ここしかない」と吉嵜が言ってドアを開けて入ってみる。そう広くない事務室で2人の女性と1人の男性が机に向かってパソコンを操作していた。ドアに一番近い女性が大神ら3人に気付いた。


 「朝夕デジタル新聞と全日本テレビの記者ですが、取材に伺いました」と大神が言って吉嵜と共に名刺を出した。「取材ですか?」と女性は怪訝そうな顔をして、「アポイントはとっていますか」と聞いた。「いえ、とっていません」と言うと、女性は2人の名刺を持って奥の部屋に入っていった。


 しばらくしてその部屋から出てきたのは、グレーの背広姿の年配の男性だった。大神にはすぐにわかった。「城香寺邸」の仮面舞踏会で司会役をしていた常務の権藤だった。

 「突然なんですか?」

 「この組織のこと、グループ全体の研究活動などを伺いたくて来ました」と大神が言った。

 「いきなり来られても困りますねえ。一体どういうつもりですか」。露骨に嫌そうな表情を浮かべながら、「とりあえず奥へ」と言って会議室のような部屋に通された。


 同行したテレビ局のカメラマンが事務所内の様子を撮影し始めると、権藤が「カメラはだめです。勝手に撮影をするのはやめてください」とあわててカメラの前に立ちはだかった。「どうしてだめなのですか」と吉嵜が聞いた。「いきなり撮影を始めるなんてマナーも礼儀もない。絶対にだめです」。押し問答の末、カメラマンだけは本社の外で待機することになった。


 「やりにくい人物だな」というのが大神の権藤についての第一印象だった。機嫌が悪そうに顔をしかめていて、明らかに大神らを敵視していた。名刺も出さない。

 「なんの取材でしょうか」

 「『日本防衛戦略研究所』という組織についてお伺いしたくて来ました。どんな活動をしているのか、日々の活動内容について教えてください」と大神が改めて聞くと、「ノーコメント」と権藤はいきなり大きな声で言った。「ノーコメントって」と大神は絶句した。


 「いきなり来たことは申し訳ないと思います。ただ、込み入った話なら別ですが、シンクタンクとして具体的にどのような態勢で、どんな研究をしているのか。基本的な事項について教えていただきたかったのです」。吉嵜がより丁寧に尋ねた。


 「一体、取材の趣旨はなんですか。まずはそこから説明するべきでしょう」。警戒感をにじませていた。

 「今、日本は海外からのミサイル攻撃の危険にさらされ、外交の失敗もあってアジアの中で孤立しつつあります。日本の防衛がどうあるべきか、喫緊の課題について専門の方に話を聞いてまとめたいと考えています。新聞、テレビの共同作業です。『防衛戦略研』はシンクタンクとして歴史があるのでインタビューさせていただきたいと思ってきました」。大神が説明した。


 「インタビューって、いきなり無理でしょ」

 「それでは今日は組織の概略、業務内容を説明していただき、正式なインタビューは日を改めてということでどうでしょうか」

 「防衛問題の専門家はいくらでもいますよね。おたくのテレビでも、訳知り顔の評論家がよく登場しているじゃないですか。うちは防衛省の委託で極秘事項も扱っているので業務内容については説明できません」

 

 「国から補助金が出ていますね。税金を使っているのであれば、どのような調査をしているのか概略だけでも説明しても差し支えないのではないですか」

 「調査、研究内容はホームページに掲載しています。より詳しい内容については国に提出し、説明しています。ただ、記者に説明する必要があるのでしょうか。しかもいきなり来るような記者に。あなた方にはなんの権限があって『話せ』と迫るのですか」

 「突然の訪問にこだわっておられますね。それでは、出直してくれば説明していただけるのですか」と吉嵜が聞いたが、「何度来ても説明できません」。取り付く島もなかった。

 

 大神は、いったん引き上げた方がいいかもしれないと思った。だが一方で、権藤の「木で鼻をくくった」対応を見ていると出直しても同じような結果になるのは目に見えていた。そんなことを考えていると段々、冷静に状況を分析するのがばからしくなってきた。

 「暴力組織の要の立場にいるくせに、しゃあしゃあとしている。『ノーコメント』だと。ふざけるんじゃないわよ」。本当はこれぐらいのことを言ってやりたかった。

 

 「持っているネタをぶつけるだけぶつけよう。すべてがノーコメントであれば仕方がない」。開き直って具体的な質問を続けることにした。

 

 すると、想定を超える展開が待っていた。


(次回は、■動揺する常務)



お読みいただきありがとうございました。

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