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極限報道#25 仮面をかぶった男の正体は 秘密パーティに潜入

舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。

 「防衛戦略研」主催の舞踏会。30分前、受付には長い列ができていた。明治35年に建てられた、地下1階地上3階建ての洋館は、まるで白亜の殿堂のようだ。「城香寺」という財閥創業者が3,500坪の土地を購入し住宅兼迎賓館とした。


 1階は、煉瓦造り、2階と3階は木造。今は博物館になっている。別宅は庭園内に建てられ、壮大な和風建築となっている。公益財団法人が管理し、定期的に見学客が訪れている。全体が国の重要文化財に指定されているため、私的な催しは原則として開催できないが、年に数回、「城香寺」一族や知人による秘密のパーティが催されていた。


 玄関を入ったところにある受付には、男女のカップルが並んでいた。みな仮面を被っている。屋敷前に広がる大きな駐車場にはベンツ、BMW、フェラーリなど外車がずらりと並ぶ。河野が運転するマイカーは国産の小型車。駐車スペースの端っこに停めたのだが、周囲の高級車の中で、一層小さく感じられた。


 助手席の大神は、友人の結婚式のために買った一張羅の青いドレスを着ていた。舞踏会には地味すぎる装いで、指輪などのアクセサリーも一切つけていない。もし、亜紀夫人と思われたら、「喪に服している」と言うつもりだった。

 

 河野は昨日の打ち合わせ中に、大神から「舞踏会に出席するから一緒に来て」と突然言われ貸衣装店に駆け込んだ。着たこともない黒のタキシードのレンタル料は1日3万円。躊躇したが「エイヤッ」で借りることにした。

 

 「もう帰ろうよ。『防衛戦略研』の主催だろ。雰囲気が異様で怖すぎるよ。みんな仮面被っているし。殺人ゲームとかありそうだ。無事に帰れるとは思えないんだけど」。車内で河野は怯えたような様子で言った。

 「確かに。この光景は、ビビるね」と同調しかけた大神だったが、「でもここまで来たからには、もう後戻りできない。行くしかないでしょ」と前を向いた。「いつもこれだ。由希と付き合っていたら命がいくつあっても足りないよ」。河野はあきれたように頭を抱えた。

 

 開宴時間が近づいてきた。2人は車を降りて、受付の前にできた列の最後尾に並んだ。落ち着かなかった。亜紀夫人のカードで入ろうとしているからではない。夫人から借りた仮面が、ほかの出席者のものより飛び切り派手だったのだ。「見る限り、由希の仮面がダントツに目立つね」。河野の何気ない素直な感想にいらついた。仮面をつければ誰かはわからないはずなので、入ってしまえば後は会の様子を観察するだけだと楽観的に思っていたが、当てが外れた。


 受付を終えて、入ったところが広いパーティ会場になっていた。もともとは「舞踏の間」だった。社交ダンスができるほどの広いフロアに丸テーブルが並べられていた。2人は指定された中央付近の席に隣り合って座った。すぐに横の女性が声をかけてきた。


 「ご主人はお気の毒でした。大変でしょう。お気を落とさずに」。大神は「はい」と言って、頭を下げた。やはり亜紀夫人の仮面だとみなにわかってしまっていた。これからは、傷心の未亡人を演じなければならなくなった。


 声をかけてきた女性は河野の方をまじまじと見ていた。亜紀夫人が新しい彼氏をつくったと見ているのかもしれない。


 司会役の男がマイクの前に立った。仮面はつけていない。「日頃から多額の寄付をしていただき、また、活動にも協力していただき誠にありがとうございます。本日は、料理と音楽、ゲームをお楽しみください。そして恒例のオークションへの積極的な参加をお願いします」


 「あの方、どなたでしたっけ」。大神が声をかけてきた女性に聞いた。「権藤さんじゃない、常務よ」。「そうでしたね」。権藤常務を知らない参加者はいないようだ。


 「シャドウ・エグゼクティブ」は主催者として全員が出席しているはずだ。招かれた客たちは、「防衛戦略研」を資金面から支える「協力者」と呼ばれる大富豪たちだと思われた。


 来賓挨拶で「孤高の会」の広報担当、下河原代議士が登壇した。仮面は被っていなかった。

 「日本の防衛についての調査、研究で実績を挙げていただき、国政を預かる1人として参考にさせていただいています。『防衛戦略研』による世論調査が最も信頼されていると評判ですが、最新のデータによると、日本の防衛の現状に危機を感じるという国民は85%にも上っています。日本を取り巻く『敵国』の動きは、今にも戦争を仕掛けてくるのではないかといった緊迫した情勢です。今の日本の防衛はまるでなっていない。敵が攻めてきたらひとたまりもない。とにかく、防衛力の強化を最優先で進めていかなければならないし、いつでも攻撃に転じることができるようにする必要がある。強力な武器を持たなければなりません。みなさまのご協力が不可欠なんです」。拍手が沸き起こった。


 競泳のオリンピック候補選手、遠藤駿が紹介された。「来年のオリンピックでは100メートル自由形で必ず金メダルをとります。なぜって、俺、全知全能の神、ゼウスだから」。会場は笑いに包まれた。日ごろから大法螺を吹きまくる大学生だが、実力が伴っている。長髪の甘いマスクで女性から人気があった。


 「ただ、ゼウスでもできないこともあるんだ。ミサイルやドローンの迎撃。東京に飛んできて爆発しちゃったら俺でもアウト、けがして銅メダルになっちゃうよ。ミサイルだけは皆さんの力でなんとかしてくださいよー」


 料理は最高級のものばかりだった。バイキング形式だったので、河野はすぐに席を離れて神戸牛ステーキ、新鮮な大トロのにぎり、天ぷら、キャビアを大きな皿に山盛りにして戻ってきた。


 「最初からそんなに取ってきてどうするの? 目立ち過ぎだし。少しずつにしたら」

 「こんなすごい料理、食べたことないよ。タキシード分の元をとらなければ。由希も取りに行ったら」。テーブルの何人かが2人を見た。

 「しー。ここでは名前を呼ばないで。伊藤亜紀さんと思っている人が多いから」と囁いた。


 実力派の女性演歌歌手が馴染みのヒット曲を歌い上げた。ダンスの時間には20組ほどがフロア前方に出て華麗な舞を披露した。別の部屋では高級スイーツ、占い、似顔絵のコーナーもあり、アルコールも入ってみながくつろいだ雰囲気になった。


 1時間ほど経ったころ、フロアの壇上で権藤がとんでもないことを言い出した。

 「本日、顧問でいらした伊藤社長のご夫人の亜紀様が来られています。伊藤社長は不幸にもお亡くなりになりました。社長がいかにこの会の発展に尽力してくださったか、みなさんご承知の通りです。故人のご冥福を祈って黙とうを捧げたいと思います」。1分間の黙とうの後、「亜紀様は毎度おなじみの荘厳な仮面を被っておられるので、皆さまお気づきでしょう。引き続きのごひいきをお願いします。それでは急なお願いですが、一言ご挨拶をお願いしたいのですが」


 大神は心臓が止まりそうになった。挨拶などとんでもない。背格好は同じぐらいで髪型も似せてきた。しかし、声が全く違う。一言でも話せば、たちまち亜紀夫人でないことがばれてしまう。そうなったらどうなるのか。この場で仮面をはがされてしまうのか。河野が心配した通り、2人とも殺されてしまうのか。


 「ヤバイ、ヤバすぎる」「どうすればいいのか?」。河野を見たが、ローストビーフを食べていて、あまり関心を示していなかった。大神は仕方なく立ち上がり、ゆっくりと壇上に上がった。もうすでに別人だとばれているのではないか。スポット照明があたった。会場は雑談をするものがいなくなりシーンと静まり返った。


 突然、大神はマイクの前で崩れ落ちた。膝をつき、大きな声でわんわんと泣き出した。皆がびっくりした。すると河野が駆け上がってきた。「ごめんなさい」と言いながら、マイクを手に取った。「弟です。姉がいつもお世話になっています。今日は社長のことを思い出し、すっかり取り乱してしまって。大変申し訳ありません。お話しできる状況ではなくて、次回は必ずご挨拶させていただきますので」。河野が機転を利かせた。


 みなが気の毒そうに見守った。司会役の権藤が「悲しみに暮れている時に突然ご挨拶をお願いしてしまい申し訳ありませんでした」と謝った。2人は奥の控室に案内され、ふかふかのソファーに腰をかけた。会場ではまた軽快な音楽が流れ、参加者はそれぞれが楽しみに興じた。


 「窮地を救ってくれてありがとう。挨拶しろと言われた時は心臓が飛び出るかと思った」

 「今日はもう帰ろう。こっそりと抜け出そう」

 「いや、おかげで最大のピンチは脱することができた。もう大丈夫。後は、今日の出席者をじっくりと目に焼き付けておこう」

 「といったって仮面を被っていてどこの誰だかわからないじゃないか」

 「くつろいできて、仮面をとって素顔を見せている人も出てきている」


 2人は会場に戻った。主催者からの出品のほか、招待客がそれぞれ持ち寄った絵画や壺、掛け軸、パーティ券、海外旅行券などのオークションが行われていて盛り上がっていた。数十万から数百万円もする高額な品ばかりだった。会場の人々は、大神が扮した亜紀夫人のことなど忘れ、楽しんでいた。


 1人の男が大神のところに近づいてきた。「伊藤社長にはお世話になりっぱなしだったんです。寄付もいただいた。今後ともよろしくお願いします」。日本建設土木大協会の副会長が話しかけてきた。寄付の継続を期待しているのが明らかだった。オール日本医師会会長、関東弁護士会副会長、防衛産業の社長らの姿もあった。ロックの大御所歌手もいた。大神は仮面をとった参加者の顔を脳裏に焼き付けていった。


 「孤高の会」に名を連ねる政治家も多数参加していた。大半は仮面を被っていなかった。防衛大臣も遅れて会場入りした。すぐに招待客に囲まれて談笑していた。大神は、下河原代議士と奥の方で話し込んでいる男の動向を注視した。仮面を被っていたが、背格好から「副総理 丹澤仁一朗」だと確信した。丹澤の父は戦後、政商として暗躍し、実業家との親交もあった。「城香寺」一族とも関係が出来たのだろう。


 さらにすぐ後ろにいて2人の会話を聞きながらうなずいている男がいた。能面をつけていた。下河原の陰に隠れてあまりよく見えなかったが、下河原が移動したことで能面の男の全身を真正面から見ることになった。恰幅がよかった。


 次の瞬間、大神の全身に戦慄が走った。子どもの時に、間近で見た男を鮮明に思い出したのだった。


(次回は、【インタールード】 ■7月1日 新劇場にて)



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