表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/80

極限報道#21 編集局長から呼び出し

舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。

 暴力団竹内組のフロント企業、竹内興行の社長らが起こした傷害事件から2日後。

 朝夕デジタル新聞社の朝刊で、三友不動産の土地買収に絡む疑惑が社会面トップで取り上げられた。記事の末尾には別稿として、「暴力団竹内組関係者が取材中の本社記者に傷害行為 編集委員ら大けが」という記事も掲載された。


 記者が栃野らに襲われ大けがをした件は、社内で記事にするかどうか判断が分かれたが、通信社の記者が聞きつけたことがわかり、別稿で短く報じることになった。


(社会面トップ)

三友不動産関連会社社長が暴力団関係者に買収交渉を依頼

暴行、傷害で土地所有企業の幹部2人が大けが

赤坂周辺再開発未買収地区で

      

 港区赤坂周辺再開発地区の用地買収をめぐり、三友不動産系の関連会社が、暴力団竹内組と関係の深いフロント企業「竹内興業」に土地所有企業との買収交渉を任せていたことが朝夕デジタル新聞社の調べで明らかになった。竹内興業社長ら幹部は暴力団竹内組の組員で、土地所有企業幹部に対し、暴行を加え、2人に大けがを負わせていた。三友不動産社長は取材に対して、事実関係を認めている。

 

 赤坂再開発地区は、広大な土地に最新鋭の技術を取り入れたタワービルを建築するなど世界から注目を集めている。問題の土地は再開発地区の東部に位置し、関西の運送企業グループが保有していた。再開発にあたって、主幹事の三友不動産の子会社三友不動産開発が1年半前から用地買収交渉にあたっていた。

 関係者によると、用地買収が金額面などで折り合わず膠着状態が続いていた。それを打開するために、三友不動産開発の社長が、竹内興業社長に用地買収交渉を依頼し契約を結んだ。竹内興業側は最初は丁寧な姿勢で交渉に臨んでいたが、話し合いでは交渉がまとまらないとみるや、運送企業グループの幹部ら交渉担当者に暴言を吐いた上に、殴る蹴るの暴行を働いた。運送グループの幹部2人は病院に運ばれて全治2か月の重傷を負った。


 さらに現場では別の暴力グループも加わり竹内興業との間で乱闘騒ぎになり、けが人がでるなど混乱した。竹内興業は用地買収交渉から手を引く形となったが、その後、三友不動産開発社長から、用地買収交渉の委託契約金以外に1億円を脅し取った。

 

 三友不動産はこうした事態を重く見て、三友不動産開発社長を更迭処分にした。弁護士を委員長とする第三者委員会を設置して事実関係を調査すると共に、竹内興業に対して1億円の返還訴訟を提起した。運送企業グループとの間では、まだ、用地買収交渉は終わっておらず、話し合いは最近になって再開したという。

 三友不動産グループは、反社会的勢力排除について経済界でも先頭をきって運動を展開していた。交渉現場での傷害事件を把握しながら、取材されるまで警察に通報しなかった件については、三友不動産側は「混乱した事態をこれ以上大きくしたくなかったという気持ちが働いてしまった」としている。三友不動産の後藤田社長は「あってはならないことが起きてしまった。二度とこのようなことが起きないように再発防止に努める」と話している。

 一方、運送企業グループ側は「最初は話し合いが続いていたが、竹内興業が入ってきてから、いきなり暴力を振るわれた。信頼関係が崩れてしまった。再開発自体に反対しているわけではなく、今後は冷静な話し合いを望んでいる」と話している。


取材中の本紙記者3人に暴力 竹内興業社長ら

本紙編集委員ら大けが


 港区赤坂周辺再開発地区の用地買収を巡る問題を取材中の本紙記者3人に対して、暴力団竹内組のフロント企業、竹内興業の栃野社長が灰皿を投げつけるなど暴行した。編集委員は全治1か月のけがを負った。警察は栃野容疑者を傷害の疑いで逮捕した。

 現場は、竹内興業の工事現場事務所(江東区)。3人は用地買収の取材で竹内興業に事前に予約を入れて事務所に行き、取材をしていた。

西川譲治社会部長の話:疑惑の核心部分について、当事者に取材中だった。事前に取材予約をした上で質問していった。いきなりの暴力に強く抗議する。

                       


 ニュースが流れてから、報道各社の取材が三友不動産と朝夕デジタル新聞社に殺到した。三友不動産は、都市開発本部長、広報室長が記者会見を開いて対応し、朝夕デジタル新聞社はコメントを出した。

 

 ネットは記事が出た直後から炎上した。三友不動産の関連会社が暴力団を利用したことについて、「企業の裏の顔が露呈した」「未だに暴力団を利用? 腐っている」「これだから暴力団は肥え太る」などという辛辣なコメントが並んだ。

 

 編集委員の村岸らが大けがを負った件について報道機関はおおむね、「報道に対する不当な暴力」という視点で発表に基づいた記事を書いたが、ネットでは、「暴力団に対してあまりにも無防備すぎる」「自業自得だ」「むしろ竹内組が気の毒」と言った視点の投稿も見られた。


 大神は社会部長の西川から呼ばれて厳重注意を受けた。上司の遊軍キャップにも事前に報告していた取材中のアクシデントではあるが、編集委員が止めたにもかかわらず強引に取材を進めようとしたことについて、西川は「仕事熱心なのはわかるが、明らかな反社会的勢力に対する取材では、細心の注意が必要だ。特に今回は、警戒しなければならない相手だけに取材場所はこちらで指定すべきだった。相手がそれを断ったら、取材も断念するぐらいでないといけない。取材を許可した井上キャップも厳重注意だ」と言った。

 大神は何も言えなかった。「取材できる」というだけで取材場所までは気が回らなかった。


 西川は最後になって、「辛島編集局長が局長室で待っているから行くように」と言った。「辞表を持っていった方がいいのでしょうか」と大神が聞くと、「その必要はないだろう。俺が局長に報告した時には、そんな話ではなかった。局長が何を言おうとしているのか俺にもわからん。とにかくすぐに行ってくれ」と言った。


 編集局長室の応接室に招き入れられた。辛島編集局長は穏やかな表情を浮かべていた。政治部記者時代、丹澤副総理の派閥を担当。特ダネ記者として名を馳せていた。政治部長を経験してから編集局長になった。

 「君も髪を引っ張られたそうだね。大丈夫か?」

 「私は大丈夫です。村岸さんと橋詰さんに迷惑をかけてしまいました。ご心配をおかけし申し訳ありません」

 「まったく、竹内組もとんでもないな。まあ、君も取材ではくれぐれも気をつけるように。暴力団など反社会的勢力の取材にあたっては、社会部長やデスクにも事前に報告するようにしてくれ」と言った後、「三友不動産の土地買収の記事だけど、君が中心になって書いたらしいね」と言った。

 

 「そうです」と大神が答えると、「タレコミらしいが、しっかりと事実関係を押さえたいい記事に仕上がっていた」と褒めた。

 「ありがとうございます」と言うと、「一線の記者である君に直接話すのはどうかと思ったんだが、相当深く取材しているようなので来てもらった。実は、三友不動産社長から私の方に抗議が来たんだ。社長とは経済団体の会合で会って以後、時々食事をしている仲なんだ。抗議の内容は、記事について社内調査委員会で調査しているので掲載をしばらく待ってくれと言ったにもかかわらず見切り発車した、記事内容に誤りが多い、十分な取材を尽くしていない、という3点だった」


 「三友不動産本社には2回取材しました。1回目は社長で、事実関係を認めています。2回目は都市開発本部長です。広報室長から『記事掲載を遅らせてくれ』という話は確かにありましたが、3か月待てというのです。当然のめないので断りました。誤りというのは具体的に指摘してもらわなければわかりません。再取材して誤りであれば訂正もしますが、取材した通りのことを書いただけで、もし違うようでしたら、三友不動産の責任者からなんらかのリアクションがあるはずですが、私の方にはまだきていません。記事が出た後も広報室長と話しましたが特段の抗議などはありませんでした。こちらは取材中テープを取っていますので、その点は自信があります」


 「そうか、わかった。突っぱねよう。社会部長には後で言っておく。気にしないで引き続き取材を続けてくれ」と言った後、「部長から聞いたんだが、暴力団同士の衝突があったようだな。竹内組ではない、もう1つの暴力グループについてはその後、新しい情報は入っているのか」


 「それがわからないのです。警察でも調べているようですが『はっきりしない』と言っていました」。編集局長なのに一線の記者を呼び込んで随分と細かい話について聞いてくるもんだ。「局長は政治部出身ですよね。暴力団に関心があるのですか」と聞いてみた。


 「初任地は神戸総局で、本拠地を置く山手組の取材もした。もともと社会部を希望したんだが、政治部に行くことになった。暴力団は『必要悪』だと言われた時期もあったが、暴力団対策法が成立してから様変わりした。社会学的な側面から興味があってね。社会部長から概略を聞いているが、特に闇の勢力については個人的に関心を持っているんだ」

 「そうでしたか」。よくわからない説明だったが相槌を打った。


 「取材の方は、これで一段落か」

 「土地買収にからんだ暴力団の関与については一区切りです。ただ、同時並行で取材しなければならないことがでてきています」。大神は「防衛戦略研」の疑惑について説明した。


 社会部に戻ると、すぐ西川社会部長が近づいてきた。「局長はなんて言っていた」

 「三友不動産から抗議があったようです」

 「抗議? 俺は聞いていないぞ。局長に直接抗議があったのか」

 「社長からのようです。私は取材の経過を説明した後、記事には自信があると言いました。社会部長には後で説明しておくと言っていました」

 「そうか、わかった。辞表を書けとは言われなかったんだな」 

 「そんな話はでませんでした」

 「それはよかった。とにかく、局長は三友不動産の土地買収の記事に関心を持っていて何度も取材の進捗状況を聞いてくるんだ。政治部の出身だが、もともと事件が好きなんだよ、あの人は」と、社会部長は言った。


(次回は、第4章 仮面舞踏会 ■協業の成果は?)



お読みいただきありがとうございました。

『面白い!』『続きが読みたい!』と思っていただけたら、星評価をよろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ