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極限報道#20 全員が病院送り 暴力団にやられる

舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。

 3人はプレハブ小屋まで歩いて行き、階段を上がりドアを開けた。中には5人の男が座っていて、テレビを見ていた。工事現場の事務所という感じではない。だらけた空気が漂っていた。

 

 「栃野さんはおられますか? 朝夕デジタル新聞の大神です」

 「俺だ」。タバコを吸いながらテレビを見ていた男が振り返った。角刈りで太った大男だった。けんかでできた傷跡なのか、頬のあたりが陥没していた。近づいてくるだけで威圧感があり、言い知れぬ恐怖を感じた。「金を出せ」とすごまれれば、「はいっ」と言って渡してしまうかもしれない。


 「なんだ、女が1人で来るもんだとばかり思っていた。みんなで楽しみにしていたんだぞ。3人で来るとは聞いていなかった」

「取材は複数でと決まっていますので」と大神。

「俺は聞いていないと言ってるんだよ」。突然、栃野が大声を出した。

「事前に言わなかったのは申し訳ありませんでした」。理不尽な話だと思いながらここは謝るしかなかった。

 

 「俺から何を聞き出したいんだ」。最初から雰囲気が最悪だった。

 「港区赤坂周辺再開発の用地買収をめぐる取材です。竹内興業が契約交渉にあたってから傷害事案が起きたり、1億円の恐喝があったりという情報をつかんで取材しました。事実関係について当事者から話を伺っています」。大神は気丈に取材の意図を説明した。いつの間にか、栃野の横に背広姿の男が立っていた。


 「我々の行動はすべて法律にのっとってやってきた。三友不動産開発社長からの依頼で、交渉について一任を受けた。もちろん正式な契約を交わしています」。弁護士なのだろうか。感情的な栃野とは違って、論理的な説明だった。

 「相手が我々と交渉することを無視したり、無礼な態度をとったりしたので担当者が少し大声を出した。その点は反省しなければならないと思っています。警察も動いておらず、決して事件ではない」と続けて言った。


 「話し合いが進まないと態度が一変し、暴言を吐かれたと相手側企業は言っています。さらに暴力も振るわれてけが人がでたと訴えています」と大神が聞いたが、「あり得ない。誠実に交渉にあたっていた。応じなかったのは相手の方だ」と答えた。


 「違約金名目で1億円を三友不動産開発から受け取りましたね。脅されて支払ってしまったと三友不動産開発側は言っています」という質問には、栃野が「こちらに落ち度がないのに、三友不動産開発が突然契約を打ち切ると言ってきた。そりゃねえだろう。正当な違約金を受け取っただけだ」と言った。

 

 「それにしても1億円は高いのでは?」と橋詰が聞くと、「お前、国税の回し者か? それとも裁判官か? 金額は取引上の秘密だ。その額が多いとか少ないとか、マスコミに言われる筋合いではない」。栃野の機嫌は相当悪くなってきた。


 「黒ずくめの男たちが現れ、乱闘になったようですが、相手はだれだったのですか」と村岸が続いて聞いた。「黒ずくめ」という言葉を出した途端に、栃野の表情が険しくなった。


 「お前らはあの男たちのことを知っているのか」。乱暴で大雑把なものの言い方だった栃野が、一転して凄みの利いた低い声で聞いてきた。弁護士風の男がすぐに引き取った。「『黒ずくめの男たち』はどこの組織の者たちなのでしょうか。教えてもらえればありがたい」


 「それがわからないのです。私たちも正体を突き止めたいと思っています。栃野さんならご存じかと思って伺いました」。大神が答えると、「なんだ、知らんのか、つまらん」と栃野が吐き捨てるように言った。拍子抜けしたかのようだった。栃野が大神の取材申し込みをあっさりと受けたのは、黒ずくめの男たちの正体を知りたかったからかもしれない。


 「竹内興業を暴力で黙らせるとは、よほどの勢力ですね」。しばらくの沈黙の後に村岸がふと言ったこの言葉に栃野が鋭く反応した。

 「あの時は意表を突かれただけだ。どこのどいつかわかれば今すぐに落とし前をつけにいったるわ」。栃野の怒りに火が付いたようだった。


 「黒ずくめの男たちと乱闘になった時は、竹内興業側が退散したと聞いています。間違いありませんね」と村岸が確認しようとすると、「うるせい、ふざけるな、事実無根だ」とどなると、栃野は近くにあったガラス製の大きな灰皿を手に取っていきなり投げつけた。


 村岸の顔の額にガツンとまともに当たり、村岸は椅子から転げ落ちて両手で顔を抱え込んだ。指の間から血が流れ出た。「何をするんですか」。大神が大声をあげた。「暴力はやめてください」。「なんだと、このアマ」というなり、大神にとびかかり髪の毛をわしづかみにして引っ張りまわした。

 大神は悲鳴をあげ、床に倒れこんだ。助けようとした橋詰に対して、別の男が近づいてきて腹部にけりをいれた。「ギクッ」という鈍い音が響いた。


 栃野は興奮してもはや止めようがなかった。「てめいらこそ、言葉の暴力をふるっているじゃないか。ふざけるな」


 「警察に連絡します」。ようやく立ち上がった大神が言った。「しろよ、してみろよ。どうせ、事前に連絡しているんだろ。おめえらはいつも警察が頼りだ。自分たちではなにもできない。ばかやろう」

 大神は恐怖でそれ以上何も言えなかった。「逃げなければ」。顔面が血だらけになった村岸と、腰に手をやってうめいている橋詰を立たせて出口ドアの方に向かった。別の組員が村岸の尻にけりをいれた。村岸は前のめりになって大神と橋詰と共に倒れこんだ。


 笑い声が事務所中に渦巻いた。

 「やめてください」。大神が叫んだ。

 3人はドアに向かって床を這いながら歩いた。「がちゃん」という金属音がしたので振り返ると、積み重なっていた鉄パイプの中から、別の男が一番太いものを選んで取り出して振り上げ、3人に近づいてきた。


 「殺される」と大神は思った。3人は床にうつ伏せた。しかし、鉄パイプは振り下ろされることはなかった。弁護士風の男が直前で止めた。代わりに嘲るような笑い声が響いた。

 3人はドアを開けて階段を下りた。栃野らは追ってこなかった。


 帰りのハイヤーの中で、大神は大声で泣いた。「すみません。私が無理言って取材しようなどと言って。通常の話し合いができる相手ではなかった」

 

 村岸も橋詰も黙ったままだった。ただ、痛みに耐えていた。村岸の額からは血が流れ出ていた。ハイヤーは一番近くの病院に向かった。連絡を受けて社会部遊軍キャップの井上が病院にやってきた。


 「一体どうしたんだ。なんでこんなことになった」。村岸と橋詰が治療中だったため、大神を問い詰めた。

 「竹内興業と衝突した黒ずくめの男たちの集団について聞き始めると、いきなり怒り出して。竹内興業はやられっぱなしだったようで、触れられたくなかったのかもしれません。後はもう手がつけられませんでした」

 

 連絡を受けて駆けつけた警察官による事情聴取が続いた。竹内興業の栃野は間もなく傷害容疑で逮捕された。

 取り調べに対して栃野は「押しかけてきて訳のわからんことを言うから、出て行ってもらっただけだ。少し小突いただけで大騒ぎしやがって。言葉の暴力にさらされた我々こそ、被害者だ。俺は正直、めちゃくちゃ怖かった。正当防衛だ」とせせら笑うように話した。


(次回は、■編集局長からの呼び出し)



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