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極限報道#18 戦闘正面に「黒ずくめ」  竹内組と乱闘で修羅場に

舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。

 港区赤坂周辺再開発に絡む暴力団竹内組のフロント企業、竹内興業による土地買収関与の取材は、大詰めを迎えていた。

 

 もともとの土地所有者は、タクシー会社など複数の企業の経営に携わる資産家・林一族。当初は取材を拒否していたが、大神は顧問弁護士を調べて、質問状を書いて郵送した。



「港区赤坂周辺再開発をめぐる用地買収交渉に暴力団が関与した件についてのご質問」

朝夕デジタル新聞社会部記者 大神由希


 林様一族が港区赤坂周辺再開発地内に所有する土地について、三友不動産の関連会社との間で進んでいた買収交渉について質問させていただきます。

 三友不動産側は、最初の交渉が決裂したのは、林様一族側内部の意見対立、内紛があったからだと指摘しております。1か月が無駄に経過した後、暴力団山手組系竹内組の関係者が林様一族の前に現れ、威圧行為をした。相当な嫌がらせがあり、傷害事件も起きた。暴力団関係者の交渉参加は三友不動産側が依頼したものである。

 この交渉の経過について取材を進め、近々、記事にする予定であります。林様一族には、メールと電話で何度か事案の詳細と質問内容についてご説明してきたところでありますが、取材に応じていただけませんでした。再度、質問状をお送りいたします。なにとぞ、以下の点についてお答えいただけるようにお願いします。


① これまでご説明した事実関係に相違ないか

② 当初、なぜ三友不動産との交渉に応じなかったのか。内紛が理由という 指摘について

③ 港区赤坂周辺再開発の全体構想についてどのように考えているのか。反 対しているのであればその理由をお聞かせください

④ 暴力団山手組系の関係者が来た時にどのような対応をとったのか

⑤ 傷害事件が発生した際、なぜ警察に届けなかったのか

⑥ 買収交渉の現状について



 質問状の内容には、林一族からすれば納得がいかないだろう項目も入れた。「取材拒否」が続いていたこともあって、あえて刺激的な文面にしてみた。案の定、すぐに顧問弁護士から大神の携帯に電話がかかってきた。


 「事実認定が間違っている。暴力団による傷害事件が林一族の内紛が遠因のような文面になっているではないか。内紛などなかった」

 「もっとも痛手を被る三友不動産は誠意をもって対応してくれています。事実関係の確認もできています」

 「一方的すぎる。これで記事にするつもりか」

 「記事にします。より事実関係を詰めたいので取材に応じていただけるとありがたいのですが」


 「ふざけるな! こんな間違った事実認定のままで記事にしたら、名誉毀損で訴えるぞ!」。そう言って顧問弁護士は一方的に電話を切った。

 しかし、その2時間後、今度はメールが届いた。林タクシー会社専務・林正一が一族を代表して会うという内容だった。だが、取材ではなく、会って抗議するという文面になっていた。林専務は林タクシー東京支社の業務全般を担当しており、大阪と東京を行き来していた。


 顧問弁護士も立ち会うという条件だった。大神はそれでも構わないと思った。抗議だけですべての質問に対してノーコメントであったとしても取材したという実績を残すことが大事なのだ。あるいは直接会うことでうまく話が進めば、新たな情報を聞き出すことができるかもしれない。

 

 林正一専務の指定は次の日曜日だった。

 大神は橋詰に日曜日の予定を尋ね、取材に同行できるか確認した。だが、橋詰はデートの予定を入れていた。「デートならいつでもできるでしょ」といつものように言ったが、「日曜日は彼女の誕生日で普段予約が取れないイタリア料理店をようやく押さえたんです。その場で、プロポーズするつもりです。つまり、人生で最も大事な一日ということです」と言って取材に同行することを渋った。

 強引に言ってキャンセルさせることもできたが、「結婚の邪魔をした」と後々言われかねないので、今回はやめた。


 日曜日。大神は1人で林正一の東京の家を訪ねた。だが、1人というのが相手の緊張を和らげることにつながり、かえってよかったようだ。


 池袋の大豪邸に住む林専務は「大神さん1人ですか。大人数で来て、カメラマンにあちこち撮影されるのかと思いました」と少しほっとしたように言った。取材に慣れていない様子が見てとれた。顧問弁護士は「今日は取材ではない。抗議の場だ」と冒頭に言ったが、感情的になっているのは弁護士の方で、林専務はむしろ冷静で落ち着いていた。取材を受ける決断をしたのは林専務のようだ。


 「これまで取材をお断りしていたのは、まだ用地買収交渉の途中だからです。偏ったことを書かれると、まとまることもまとまらない。でも大神さんの質問状を読むと、相当取材を積んでいる様子が窺えたし、近々に記事にするとも書かれていた。それならばこちらの言い分をしっかりと聞いてもらわなければと考えました」


 「ありがとうございます。抗議の場ということですが」と大神が聞くと、「質問状を読む限り、事実関係の誤認、誤解があるようです。正していただかなくてはならないのでそういう表現になりました」

 「それでは交渉の経過について伺います。用地買収交渉がまとまらなかったのは、林家一族の内紛が原因ですか」


 「全く違います。三友不動産との交渉では友好的に話し合っていました。ただ、ここは明治時代から先祖が所有していた土地であり、売ることは忍びないという両親の強い意志があった。独自でビルを建設するという構想もあったのです。グループ内の企業でもいろいろな意見を持つ人がいてまとめるのが難しかった。内紛ではなく、交渉にどのように臨むのかを決めるのに時間がかかった。だから一定期間、交渉を凍結してもらおうと提案したのです」


 「どうして傷害事件に発展したのですか」

 「交渉の凍結を提案した直後のことでした。うちのグループを統轄する管理会社の方に、竹内興業社員と名乗る男たちがやってきて『交渉の窓口役になった』と言うのです。突然、暴力団がやってきて暴力の世界に引き込まれた。面喰らいましたよ」


 「相手の名前を確認させてください」。林はあらかじめ用意していた名刺を取り出した。「竹内興業」とあり、住所は江東区になっていた。

 「ここが暴力団と関係しているというのはどうしてわかったのですか?」

 顧問弁護士が引き取った。

 「ここだけの話にして欲しいのだが、照会したのです。表玄関からではなく、捜査当局の知人に聞きました。広域暴力団竹内組のフロント企業である竹内興業で間違いない、ということだった」


 林専務の説明では、竹内興業側は最初は穏やかだったが、話し合いが進まないと急に態度が豹変した。「ハンコ押せ」「金額は提示以上は払わん」「とにかく出ていけ」というばっかりで全く話にならなかった。

 会社に現れては、1時間ほど大暴れして去る。翌日も突然やってきては大騒ぎした。暴力も振るわれ、けが人も出た。そんなことが何日も続いた。そんなある日、竹内興業の社員3人が来た時、玄関で5人ほどの男たちが待ち伏せしていてけんかが始まった。

 

 竹内興業側は予期していなかったようだった。待ち伏せした男たちは黒ずくめで、圧倒的に優勢だった。ボクシングとか空手とか格闘技に秀でた男がメンバーにいたようだし、こん棒のようなものも準備していた。

 竹内興業はいったんはその場は去った。翌日も同様の騒ぎが起こり、負傷者が続出した。現場は修羅場と化した。竹内興業の関係者は退散し、以後姿を見せなくなった。


 「待ち伏せグループは一体、どこの誰だったのですか」

 大神は、「黒ずくめの男たち」という表現が気になった。社会評論家の岩城を刺し殺した男たちも「黒ずくめ」だった。


 「三友不動産側からも聞かれたのですが、わからないのです」と林は言う。

 「誰が依頼したのですか。竹内興業に対抗して林さん側が雇ったように見えますよね」

 「私たちではありません。それは誓って言えます。正直に言うと、私たちもお金を持って行って依頼すれば動いてくれる人たちがいます。事業を広範にやっていると、いろいろとトラブルが起きますのでね。でも、相手が竹内組と聞くと、『あそこはやばい。やめとくわ。ほかをあたってくれ』と断られたのです」

 

 「三友不動産側はなんと言っているのですか?」

 「『知らない』の一点張りでした。確かに、竹内興業が三友不動産側からの依頼であれば、それを邪魔する勢力をまた、三友不動産が依頼するわけがないですよね。待ち伏せしていた男たちがどこの誰かは、いまだにわかりません。狐につままれたようでした」


 「その後は土地の交渉はどうなりました」

 「騒動後、交渉はしばらく凍結された。今は、三友不動産と話し合いを持っています。金額交渉にはいり、交渉は大詰めを迎えています」


 取材を終えて、大神は頭を抱えた。林専務は終始、紳士的に対応してくれた。うそをついている様子はなかった。三友不動産の取材では、黒ずくめの男たちの話は一切出てこなかった。


 一体何者なのか。誰からの指示で、凶暴で名の通った竹内組と対峙することになったのだろうか。

 新たな疑問点がでてきてしまった。


(次回は、■広域暴力団への取材)



お読みいただきありがとうございました。

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