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極限報道#14 ニセ警官現れる 黒ずくめの男たちは走り去った

舞台は近未来。世界で戦争、紛争が頻発し、東アジアも国家間の緊張が高まる中、日本国内では、著名人が相次いで殺されたり、不審な死を遂げたりしていた。社会部調査報道班のエース記者大神由希は、背後に政治的陰謀があり、謎の組織が暗躍しているとみて、真相究明に走り回る。

 新宿・歌舞伎町一番街の劇場通り北側の一角に非常線が張られていた。新宿署刑事課長による記者向けのレクチャーが終わったところだった。大神は朝夕デジタル新聞社会部の記者で新宿署を担当する春山剛の姿を見つけた。すぐに声をかけて、課長レクの中身を聞いた。


 事件が起きたのは、レストランや焼肉店、多国籍料理店や風俗店が立ち並ぶ繁華街だった。午前零時を回っても客引きや通行人の数は多く、賑わっていた。中層のビル2階のキャバクラ店から、岩城を含む3人の男たちが酔っぱらって談笑しながら出てきた時だった。いきなり黒ずくめの男たち数人が取り囲んだ。そこで小競り合いとなった。


 「何をするんだ、やめろ」。岩城が叫んだ。直後、腹を押さえて路上に倒れ込んだ。「キャー」という近くで客引きをしていた女の甲高い声が響き渡った。黒ずくめの男たちは走り去った。


 岩城は血まみれになって倒れた。岩城と一緒だった労働組合幹部は「店を出たとたんに男たちに囲まれ、『肩がぶつかった』と因縁をつけられた。言い返した直後に後ろにいた岩城さんが倒れこんだ」と警察の調べに対して供述した。

 

 大神は現場を確認して、近くの店の従業員らに聞き込みをした後、春山と再び合流した。

 「警察の見方はどうなの?」

 「けんかで間違いないだろうって。酔っぱらったグループ同士で肩があたったとかあたらないとかで言い争いになったらしい」

 

 「犯人は?」

 「ついさっき新宿署に名乗り出てきて逮捕された。空手の有段者。暴力団員ではない。凶器は果物ナイフ。偶発的な事件だったと言っているらしい。あとは完全黙秘を貫いているようです」


 「けんかねー」。大神が首を傾げると、春山が「大神さんって、調査報道班ですよね。なんでこんな事件に関心があるんですか」と不思議そうに尋ねた。

 「うん。20日前に岩城さんを取材したのよ。防衛産業がかかわる不正の情報をつかんでいて独自に調べていた。ただ、命を狙われているようなことも話していて相当切羽詰まった感じだった」。大神は岩城とのやりとりを手短に説明した。


 「今から岩城さんの労働相談所に行こうと思うけど、付き合ってくれない」

 「いいですけど」

 2人は台東区の岩城労働相談所に移動した。女性事務員の鳩山裕子が1人でポツンと椅子に座っていた。「岩城さんがまさか死んでしまうなんて」。目を真っ赤にはらしていた。さんざん泣いた後のようだった。


 「信じられないことが起きてしまいました。何と言っていいのか」と大神。

 「昨日は昔からの労働組合の仲間と久々に会うと言って午後4時ごろには相談所を出ました。大神さんにも話した疑惑の調査についての打ち合わせをした後、飲みにいったようです。とにかくお酒が強くて好きでした。興に乗ると2、3軒はしごすることもしょっちゅうありました」

 

 「昨日一緒に飲んだ仲間という人に会えますか」

 「名前までは聞いていません。警察は把握しているはずです」。幾つかやりとりをしていた時、大神はふと気が付いたことがあった。片隅に置かれていた金庫がないのだ。


 「金庫は? あそこにあった大きな金庫がないですね」

 「さっき、警察の人が持っていきました。『押収していく』と言って」

 「警察? どこの署でしたか」

 「新宿署と言っていましたけど」

 「令状は提示されましたか?」

 「いえ。男性2人が来て。金庫と机の中の資料を持っていきました。それと、岩城さんがつけていた日記も」


 「どんな感じの男でしたか」

 「1人は制服を着ていました。もう1人は私服でした。2人とも急いでいるようで、てきぱきと仕事をこなしていました」

 「警察手帳は確認しましたか?」

 「いいえ」


 「ニセの刑事だ」。大神は直観的にそう思った。「なぜ警察手帳とか令状を確認しなかったの」。責めるような厳しい口調になった。

 「岩城さんが亡くなってしまったことで、動揺していて。全く余裕がなかったです」。鳩山は泣き出してしまった。「無理もないことだ」と大神はきつめに当たってしまったことを反省した。

 

 鳩山によると、警察官を名乗る人物から電話があり、岩城が殺されたことを伝えられた。そして、捜査のために必要な書類を押収するので相談所は現状のままにしておくようにと言われ待機していると、間もなく2人の男がやってきたという。

 

 大神は岩城とのやり取りを思い出した。金庫から持ち出してきた書類のタイトルは、「防衛産業の水増し請求疑惑とシンクタンクへの資金流出について」だった。そして、このシンクタンクとは、「防衛戦略研」の可能性が高いと言っていた。さらに、殺害された伊藤社長が「防衛戦略研」の顧問であることを知った途端に、怯えた様子に変わったことが強く印象に残っている。


 あの時は岩城の態度が豹変し、話の途中で事務所を追い出されるような形になった。その後、岩城からは連絡がなく、大神も忙しくはしていたが、近々、岩城に会おうと思っていたところだった。なんでもっと早く岩城に会いに行かなかったのか。改めて岩城の話を聞いていれば、別の道が拓けたかもしれないし、岩城が死ななくて済んだかもしれない。大神は自分を責めた。


 春山は、金庫を持っていったのが本物の警察官かどうかを確認するために新宿署に向かった。その結果、新宿署員は岩城の相談所には行っていないことがわかった。ニセの警察官が金庫を持っていったことで間違いなかった。春山は新宿署の取調室に呼ばれ、詳しい事情を聴かれているようだ。


 「けんかでは決してない。これは計画的な殺人だ」。大神は確信して相談所を出た。 


(次回は、警部補、大神を叱る)




お読みいただきありがとうございました。

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