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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第3章 最優秀ギルドアワー編
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16-E 拳と剣

「はぁはぁはぁ……ふぅぅーー」


 先に膝を突いたのはケンザブローだった。

 ケンザブローの拳は数えきれない程の切り傷が生まれ、その他にも捌ききれなかった攻撃によって出来た傷が体の至る所に出来ていた。


 一瞬の休息の間に息を整えるケンザブローに対し、フルムヘンは始まった時と変わらない余裕の笑みを浮かべていた。


 どちらも武闘の才あれど、こうも差が出た原因があるとすれば、フルムヘンの技の多彩さだった。

 剣技のデパートとでも称するべきか、剣筋の角度、剣速の緩急、踏み込みの深さに至るまで変幻自在の技とそれに呼応して変化する回避術が、ケンザブローを上回ったのだった。


「良い加減諦めたら、どうですか? このままでは腕の一本を落としかねませんよ」


 膝を突いた隙にトドメの一撃でも浴びせれば良い物を、フルムヘンは余裕からか、攻撃の変わりに言葉を投げかける。


「断る」


 明確な拒絶を示しながら、ケンザブローは立ち上がり拳を固めた。


「仔細は聞いておらぬが、他ならぬクラリム殿の頼み。道場に泥を塗らぬ為にも、負ける訳にもいかぬ」

「……ボクだって同じです。『黄金の誓い』が最強であり続ける為にも、ボクが負けてはいけないんです」


 初めてフルムヘンの顔から笑みが消えた。

 心の奥底から誓うように、冷たく低い声と共に殺気満ちた想いがケンザブローへと向けられる。


「どうやら貴君にはプライド以上に背負っている物があるようだ。しかし、ははは、最強とは大きくでた物だ」

「……何がおかしいんですか?」

「いや、なに、免許皆伝の為に奇策を使った者が語るべきではないのだろうが……その程度の腕で、最強を名乗るとは片腹が痛いと思ってな」


 ケンザブローの挑発染みた発言にピクリと眉を動かすフルムヘン。


「世界を見渡せば、ボクが敵わないヒトもいるのでしょう。そうだとしても、満身創痍の貴方に言われる筋合いはありません」

「よかろう。ならば、想いだけでは越えられぬ壁という物を見せてやる」


 見た目の美しさと裏腹にドス黒い殺気を放つフルムヘン。

 ケンザブローの攻撃に必殺のカウンターを合わせる為に剣を構える。


 しかし、ケンザブローの取った行動は逆に遠ざかるというものだった。


「助走の為? 他に武器を隠し持っている?」


 フルムヘンは呟きと共に最悪の事態を想定する。

 石畳の舞台の端までゆったり歩いたケンザブローは振り向くと、


「威心逸拳の技をとくと見よ。岩盤烈波ァ!!」


 鍛え抜かれた拳を石畳へと放った。

 衝撃と共に揺れる会場。石畳は石礫と化し、マシンガンのようにフルムヘンへと襲いかかった。

 しかし、高速で放たれる剛拳をも回避し続けたフルムヘンにとっては脅威でもなく、剣の技で石礫を更に小さく砂粒に変え攻撃を無効化した。


 が、終わらない。


「大地即大飛礫!!」


 続けてケンザブローから放たれたのは二の手。

 舞台の石畳を拳でくり抜き、巨岩の如き塊を生み出すとそれをフルムヘンへと投げ付けた。


「これは、受け切れないっ」


 防御か回避か。刹那の選択でフルムヘンが取ったのは後者。

 石礫を切り刻める剣技はあっても、天をも覆う程の岩を切れる技は持ち合わせていなかった。


 巨塊から目を切り、落下地点から逃げるように舞台の端へと走る。

 岩に挟まれない寸での所で前転し、すぐに次の攻撃に備え剣を構えるが、


「いない?」


 訪れるはずの攻撃も襲いかかる道着の男の姿は無かった。

 フルムヘンは警戒しながら辺りを見回すがいない。


 一瞬の間、フルムヘンが警戒の糸を緩め思考に移った、一瞬の隙。


 スタッと何かから飛び降りる音が聞こえ、フルムヘンは背後を振り返る。


「遅いッ」


 瞬きをする間もない一瞬、ケンザブローの拳が連続で放たれ、フルムヘンの体はバットに当たったボールのように一直線に闘技場の壁へと打ち付けられた。


「これなるは、威心逸拳が奥義。殴砲門(オウホウモン)也」



 フルムヘンの体を中心に闘技場の壁に大きな凹みが出来ており、フルムヘンはピクリとも動かなくなった。


「よっしゃあぁぁぁぁ!!!! 勝ったぁぁ!!ケンザブロー、ナイス!」


 フルムヘンの圧勝を見に来たであろう観客達はシンと静まり返る闘技場の中、私は一人で拍手をしながらケンザブローに駆け寄る。


「何も見えませんでーした。いったい、何が起こったのでーすか。ミスター・ケンザブローが舞台を殴った所までは見えていたのですが、気付いたら大きな塊が舞台に落ちていて……」

「そして、一瞬に五度、拳を打ち込んだ。額、首、両胸、腹と同時に訪れた衝撃により、フルムヘンが壁に叩きつけられた。舞台床を叩き割ったのも、礫を飛ばしたのも、あの巨塊も、全ては、この五連撃の為の布石。恐らく、ケンザブローはトドメの一撃の為に小技を撒いたのだろう」


 ちゃんと解説っぽい事してるなと思いつつ、ケンザブローに近寄ったが、ケンザブローは何故か右手を握ったり閉じたりしていた。


「どうしたの?」

「おお、クラリム殿。いや、なに、少し違和感が……」

「痛いなら、治療出来るヒト読んでこよっか?」

「いや、痛くはない。だが、この決して慣れぬ事のない手触りは、もしや」

「ま、勝ったんだから何でもいいわ!」


 まずは一勝。

 あんまり期待して無かったから、『黄金の誓い』で一番強そうなリーダーにマッチさせたけど、意外と相性が良かったようだ。


「いや、まだだ」


 顔にも心の中でも満面の笑みを浮かべていた私に冷や水をぶっかけるように、馴染みある冷静な言葉が耳に入った。


「はい? えっ、アレって場外じゃないの?」

「今回の試合の規定では、審判が10数えて戦闘不能と判断すれば決着とある。つまり、まだ決着が付いていない」

「そんなルールあったんかい! ならさっさと審判カウントしに行きなさいよ」


 どこをどう見ても勝ち確なのに、つくづく普通に喜ばせてくれない男だ。

 真面目なのはいいが、アンタどっち側なのよ。


「うぉっ、おー、そーでした、そーでした」


 予想打にしない事態に惚けていた審判のオッキーを急かすと、オッキーは小走りで壁にめり込んでいるフルムヘンへと駆け寄った。


「カウントに入りまーす。テン、ナイン、エイト……」

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