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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第3章 最優秀ギルドアワー編
98/116

16-D 祭りが始まる。先鋒はこの男

「あのクラリム殿? 臨時の辻斬り同好会の会合があると聞いて付いてきたんだが、ここはいったい?」

「いやぁー助かったわー。まさかベルナデッタの実家が、この街だったなんて、ホントラッキー。やっぱ、日頃の行いなわけよ」


「うむ。分からぬ。とりあえず、ケンザブローと呼んでくだされ……」


 困惑の表情を浮かべる少し古風な胴着の男、ケンザブロー。

 リンドーへの辻斬り(格闘)で知り合った辻斬り同好会の友を連れ、薄暗い通路をぐんぐんと進んで行く。


「それでは皆様、お待たせ致しまーした! これより、『試練に抗う者共グロリアス・トリックスター』主催の武闘試合を開始致しまーす!」


 聞き覚えのある声と共に大勢の人々の歓声が聞こえてくると、程なくして薄暗い通路の先から光が差し込み、その先の景色が見えてきた。


 目の前には、石畳を敷いた広々とした舞台。そして上方には埋め尽くされた観客席。


 ベーベーガーヤの観光地である円形の闘技場。

 その入場口からアリーナへと足を踏み入れる。


「第一試合! かの威心逸拳道場の免許皆伝を掴みし男、ケンザブロー=マサヨシ=ベルナデッタ!!」


 舞台の中央にいた無精髭の男、オッキーが私とケンザブローを指し示すと歓声は更に膨れ上がった。


「それじゃ、そういうことでよろしく」

「クラリム殿、クラリム殿ーーーーーー!」


 私は何の説明もせず、闘技場の舞台にケンザブローを放り込み、走って逃げた。


「対するは! 『試練に抗う者共グロリアス・トリックスター』が誇る最強パーティ、『黄金の誓い』リーダー、『天珠』フルムヘン!!」


 名を呼ばれ入場口から姿を見せたのは、中性的な顔立ちの美少年。

 フルムヘンは黄色い声の観客に手を振りがら舞台へと上がった。


 向かい合う胴着の男と美少年。

 ここだけを見ると、胴着の男が闘技場の常連のように思えるが、余裕の笑みを浮かべているのは美少年の方。

 ケンザブローはずっと首を傾げていた。


「しばし待たれよ。まだこの状況が理解しておらん故、仔細を聞きたいのだが」

「え、ちゃんと話聞いていないんですか? これから始まるのは武闘試合。簡単に言えば、僕と貴方、どっちが強いのかを決めるんですよ」


 やれやれと肩を竦めるフルムヘンと、浮かんでくる疑問を呑み込むように頷くケンザブロー。


「詰まるところ決闘……辻斬りか」

「それは、違うと思いますけど」


「オッホン、用意はいいでーすか? えー、それでーは! 試合開始!」


 オッキーの開始の合図と共に、私は舞台横に設置してある椅子と長机のブースに腰を下ろした。


「よし、とりあえず、1試合目はケンザブローに賭けるとして、残り4試合……リンドー、対戦表見せてくれる?」

「……あぁ」

「聞いてる?」


 生半可な相槌だけが返ってきて、伸ばした腕には何のアクションも起きなかった。

 横の席に座っていた濃紺ローブの男をジトリと見つめる。


 リンドーは闘技場内に音を届けるマイクのような魔法道具を分解していた。

 そしてその下に敷いていたのは、私が欲しい対戦表の紙。


 分解に集中しているリンドーは動かないだろうなと思った私はテーブルクロス引きのようにサッと抜き取り、対戦表を机に広げた。


 第1試合、『天珠』フルムヘン vs ケンザブロー(緊急参戦)

 第2試合、『雷』シャーロット vs ミーク(予定)

 第3試合、『聖女一等星』アリステラ vs ロミオ(強制連行)

 第4試合、『元ベラエランデ騎士団長』ロットン vs ストーナ(不在)

 第5試合、不明 vs 不明


「こんなドタバタしてる対戦表で満席とか、『黄金の誓い』の人気の凄さが窺えるわね」


 街で配られたチラシに私が私サイドのメンバーを書き加えた手作りの対戦表である。

 チラシの下の方には目玉試合のコラムが載っていた。


『第4試合は因縁の対決! 闘技試合前に乱闘か?』


 ギルドで起こったストーナとロットンの決闘の事を書いているのだが、ストーナは不在。

 本当にウルメラの街に帰ったようで、今日になっても姿は見ていない。


 あと、大トリがシークレット対決って……盛り上がるのだろうか? いや、そもそも、最終戦まで、もつれ込めるかどうか。ストーナ不在の今、一戦落とすのですら負けに直結する。


「……勝てる気がしない」


 結局、今日という日まで碌にメンバー探しが上手くいかなかったので、仕方ないのだが、いざもう数時間後に冒険者クラリムの人生が迫っているかと思うと背筋が凍る。


「俺が全財産クラリムの勝ちにベットした。つまり、負けるはずがない」


 私の不安を払拭するような一言が右手から聞こえてきた。


 なんだその根拠の無いコメントは。全く賭けに強く無いギャンブラーでも、もうちょっと屁理屈を付けるってのに。アンタは神かなんかか……私は神だけど。


「おふたーりとも、実況席で何を雑談してるのでーすか? 全部聞こえてまーすよ」


 試合の合図を終え、舞台から離れたオッキーが私達のいるブースへと近づてきた。


 そう、この数脚の椅子と長机が置かれたブースとは実況席。

 私とリンドーは実況解説のバイトをすることになったのだった。理由は簡単、私はお金に、リンドーはこのマイク型魔法道具に釣られた。


 そもそもなんでスカウトマンのオッキーが実況や試合審判のような事をしているのかと尋ねたが、それは単に人手不足らしい。


「ぐぬ……でも貴方も余所見してていいのー? 油断してると負けちゃうんじゃない?」

「何を言っているのでーすか。我々のギルドの最強格であるフルムヘンが相手では、そう時間が掛からない内に決着が着きまー……ん?」


 ドゴンと物凄い轟音が耳に入ってきた。

 何やら闘技場の壁の一部から煙が巻き起こっており、そこに人影が見られた。


 舞台に残っていたのはただ一人。

 拳を前に突き出している胴着の男、ケンザブローだった。


「な、な、なんと、フルムヘンが、『天珠』が、吹き飛ばされていまーす!」


 闘技場の壁から見えた人影がフルムヘンだと分かると、オッキーはサッと思考を切り替え、リンドーが分解しているのとは別の魔法道具を片手に実況を開始した。


「いったい何が起こったーのでしょう! 速すぎて見えませんでーした!」


「ケンザブローがやったのは単なる突きだ」

「ワッツ!? ミスター・リンドー、ヒトを遠くへまで吹き飛ばしたのが単なる突きだと言うのでーすか?」

「威心逸拳の教えには、鍛え抜かれた拳とは鋼に繰り抜くことが出来、寸分違わす同じ箇所に打ち込む事が出来、マグマの熱さに溶かされない物の事を言う。そんな拳で突きを放てば、ああなるのも不思議では無い」

「……どんな修行したら、そんな拳が出来上がるのよ」


「ただ、最強パーティのリーダーという肩書きに偽りはないようだ」


 リンドーの言葉に対する疑問が浮かび上がったが、すぐに解消された。


「ぐぬぅ」


 ケンザブローが呻き声が上げたと思うと、肩から血を吹き出しながら膝を付いた。


「ふふっ、なんだ。数合わせのヒトだと思ってましたが、それなりに強いじゃないですか」

「貴君もな」


 闘技場の壁から体を起こし、スタスタと軽やかに舞台に戻ったフルムヘンは帰ってきた言葉に剣を振り応えた。


「吹き飛んだフルムヘンが無傷で、攻撃を喰らわしたケンザブローが大怪我? これってどういう事?」


 私も実況としてそれっぽいコメントを差し込む。

 応えたのはすっかり解説役として馴染んだリンドー。


「寸での所で躱したのだろう。そして躱したと同時に剣を入れた」

「カウンターってこと? でもそれなら、なんでフルムヘンは闘技場の壁なんかに……」

「恐らくは突きで発生した風圧で吹き飛んだのだろう」

「躱したのに、躱せてない。とんでもない威力ね」


 コメントの間も戦いは継続しており、太い幹をも両断しそうな力の籠った剣を、生身の拳でいなす胴衣の男。


 拳を刃に耐え得るだけの硬さまで鍛え上げたケンザブローも常人を逸しているが、対するフルムヘンも人間離れしていた。


 ケンザブローが防御から攻撃に移ろうと突きを放とうとした瞬間。間合いを広げ、骨をも砕きそうな一撃を悠々と回避し、剣の長さを活かし着実にダメージを与えていた。


 言うなれば剛と柔の戦い。

 ケンザブローの渾身の拳がフルムヘンを捉えれば、ケンザブローの勝ち。逆に躱され続け、積み重なったダメージで力尽きればフルムヘンの勝ち。


「素晴らしいでーす。こんな逸材を……いったいどこから?」

「それは……秘密」


 辻斬り同好会なんて名前から犯罪者集団感満載の組織を教える訳にはいかない。

 私も巻き込まれて共犯として捕まったら大変だ。


「それにしても、ケンザブローこんなに強かったんだ」

「あの威心逸拳道場の主が、降参する程の男だ。こうなることは自然なことだ」


「その道場主が膝を付いた原因のほとんどはアンタだけどね」


 道場主を疲労困憊にして免許皆伝をもぎ取った出来事を思い出す。

 今から思うと、ケンザブローが普通に戦っても勝てたのではないのかと思えてくる。


 だが、一進一退の激闘はそう長くは続かなかった。

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