16-C 打倒・最強 候補者探し
「これで良しと。ロットンのアホが悪かったわね。普段からどうしようもない奴だったけど、わざわざ、人の目に付く所で殺ろうとするなんて……ゴホン、まだ少し痛みは残ると思うけど、武闘試合当日には元通りのはずよ」
「おゥ、あんがとなァ」
「それじゃあクラリム。お祭りが済んだら、また会いましょう。それと、ロミオ……パーティを辞めたのを後悔しても、もう遅いわよ」
聖女アリステラは、そう言い残すとそそくさと帰って行った。
「え、アレ、なに? なんか、さっとストーナを治療して帰ったんですけど」
「大方、フルムヘンに言われて来たのでしょう。ストーナさんが怪我を負った理由がメンバーによるものであるなら、その後始末をするのが役目みたいに思っていますから」
神のご主人様になると不届な宣言をした女性との言い合いをするつもりだったが、そんなことにならず、終わった。
「クラリム。ちっと体を動かしてくるァ」
「うん、わかった。お大事にね」
アリステラの手で切り傷や折れた骨まで完治し、急激な回復によるものからか体の動きを確かめるようにストレッチをしていたストーナは部屋を出て行った。
あの全身鎧への再戦に勝つ為に少しでも鍛えておこうという考えなのだろうか。ずっと何か悩んでいるようだったけど、体を動かして解消されるなら良い事だ。私の未来の為にも、是非頑張ってほしい。
「それで、さっきの、武闘試合の話だけど……参戦してくれない?」
急な来訪者等で完全に脱線した話題を元に戻す。どんな話よりも、これが今一番大事なのだ。
「無理ですね」
申し訳なさそうに、ただ、からっとした表情だった。
「そもそも僕に戦闘能力はありません」
「えっ、でも、貴方も元とは言え最強パーティの一人だったんでしょ?」
「敵の探知や罠の解除や鍵開けといったダンジョンに潜る上で斥候に必要な技能は一通り習得していますが、戦闘は全て他のメンバーに任せていましたから、戦闘という能力を身につける必要が無かったんです」
「そんなぁ」
勝手に期待して勝手に落胆。
ロミオは悪く無いが、棚から牡丹餅のような幸運で見つけた有力候補だったので余計に残念な気持ちになる。
「まぁ、アリステラ様に関しては戦闘力以前の問題で敵いませんが」
「そういえば、他のメンバーは呼び捨てなのに、アリステラだけは様付けなのね」
「僕は幼い頃、彼女に救われたんです。早くして両親を亡くし食べるものに困って、路傍で腹を空かした僕に彼女はパンを恵んでくれたんです。何日も何日も、雨だろうが雪だろうが、彼女は何も言わず僕に食事を運んでくれたんです」
「物欲しそうに食べ物を見る僕を哀れに思ったのか、小動物への餌付けの気持ちなのかは分かりませんが、僕が彼女に仕えたいと思ったのは自然な事でした」
「彼女に救ってもらった恩があったから、彼女の言うことはなんでも聞きました。彼女に仕える従者……いえ、どんな無理難題な命令も従順に従って来ましたから、差し詰め聖女の犬と言ってもいいでしょうね」
「よくそんなので『黄金の誓い』を辞めれたわね」
「命令されたら、辞めれなかったんでしょうが。アリステラ様は、僕がパーティを抜けると言った時、何も言わなかったんです。彼女はプルプルと体を震わせ、怒っているようでした」
そう言えば、さっきストーナの治療をしながら、アリステラは何度もロミオの方を見つめていた。
「僕がパーティを辞めてからもう数日経ちますが、毎日何かと理由を付けては僕を怒りに来るんです。やれ野菜を食べろだの、引き篭もってないで体を動かせだの、貯金があっても次の仕事をさっさと見つけた方がいいだの、酷いですよね」
「……ん?」
なーんか、淡い恋の香りがするんですけど。
いやいや全然勘違いかもしれないし、片方からしか話を聞いていないから断言は出来ないけど、辞めた仕事仲間に対して熱心すぎやしないか。親か、って感じだし。
そう、まるで、自分を主人と思い込んでいるせいでアプローチに悉く失敗している片思いの女性のような。
もし万が一にも武闘大会に負けちゃったら、このネタ使って聖女と良いコミュニケーションを取るか。
「それに、あのダンジョンでの出来事は、どうしても譲れないものだったんです。最初に、あの封印が施された箱を見た時、体が震えました。危険をいち早く察知する斥候として、あのモンスターだけはあのダンジョン内で始末しなければ大変な事になると直感で感じたのです。持ち帰って、売るなんて正気の沙汰じゃありません」
「一応聞いとくけど、そのモンスターって、その後どうなったの?」
「知りません。帰ってすぐギルドを辞めましたから」
「……そう」
そんなバケモノが潜んでいるとか大丈夫か、この街。
聞かなかった事にしよう。ちゃんと封印されてるとか言ってたし、どこぞのバカが封印を解かない限りは大丈夫。
どこぞのバカ……とある顔がチラつく。
「……リンドーが用意する闘技試合メンバーが、それだったらどうしよう」
封印された凶悪なモンスターとか、魔王と同じくらい禁止カード過ぎるし。
◇
「ほう、そんなモンスターがいるのか。後で調べておこう」
ベーベーガーヤの街、2日目。
結局誰一人として武闘大会の参加者を集める事が出来なかった私は、ミークと帰って来たリンドーに昨日の出来事を報告をしていたのだが。
墓穴を掘ってしまった。
リンドーは興味津々とばかりに、手帳にスラスラと『怪血王の遺児』というモンスターの情報を書いている。
「で、そっちはどうなのよ。目的は達成したの?」
「問題ない。交渉は全て済んだ」
絶対に勝てる武闘試合の候補者を見つけ参加を取り付けさせたという事なのだろうが、よくもまぁそんな伝手があるものだ。
相手は最強を冠するパーティだというのに。
まぁ、いいや。とりあえず一人は見つかったという事にしておこう。
ストーナ、ミーク、リンドーが用意した人物。
これで三人。後、二人。
「そういえばストーナ知らない? 昨日から見かけないんだけど……」
昨日、ロミオの部屋を出て行ったきり会っていない。
リベンジを果たす為の修行かな? と思って放置していたけど、流石に不安になってくる。
リンドーはチラッと私の目を見た後、サラッと事実を告げた。
「帰った」
「……………………はい?」
自身の耳を疑い、動揺しカタカタと歯が揺れる。
「聞き間違いよね? ウルメラに帰っちゃったら、闘技大会に間に合わないんだけど」
ウルメラからここベーベーヤーガまで馬車で3日。
それと同じように闘技大会も3日後。
つまり、帰ってしまったら物理的に武闘大会の参加は不可能。
「伝言を預かってる。『すまん』と」
「終わったああああああああああああああああ」
武闘試合メンバー、残り三人。
伝手無し、見知らぬ土地での打倒最強の候補者探しの限界を悟った瞬間だった。




