16-A 最優秀ギルドアワーへの道
前回のあらすじ。
『アナータの才能に惚れまーした。是非、私のギルドで最強パーティの斥候として活躍してください』
『タダと言うわけにはいかない。1億だ。1億出すなら移籍を認めよう』
『その金、出してやってもいい。但し、これから開催する武闘試合で、テメェらが勝ったらな』
おしまい。
こうして、慈悲の女神こと私、クラリムの『試練に抗う者共』における、最優秀ギルドアワーへの道が開かれることになったのだった。
◇
「終わった……私の楽々生活が」
無精髭のスカウトマン、オッキーの紹介で案内された宿の一室で、私は体を伸ばしベッドの上で項垂れていた。
「5対5の武闘試合……相手はメチャ強の最強パーティ……そもそもメンバー不足」
どこを取っても致命的な問題。
勝てる見込みがない。
武闘試合が終われば、私の身柄は無償で相手ギルドに引き渡され、最優秀なんたらの為にダンジョンに永遠と潜らされたりと、労働を余すところ無く享受するという未来が待っている。
「終わるぅぅ、終わっちゃうよぉぉ」
悠々自適な生活の強制終了を告げるカウントタイマーの音の幻聴が、チクタクと聞こえてくる。
いや、待て。
まだ諦めるんじゃない、クラリム。
ストーナよりも強い人物を三人さえ集めればいいだけの話だ。
そうすれば、眠くなったら昼寝も目的のない散歩も手放さなくて済む。
「勝てる……勝てるー?」
枕に顔を埋めて、声を漏らす。
どこにいるんだ、ストーナより強いヒトなんて。仮にも一国の騎士団長を務めている程の実力者。そう易々と倒されていい人物ではない。
それも三人。
元々戦力外の私はともかく、一撃必殺があるリンドーも参加できないという条件がキツイ。
「ベローチェ師匠に出てもらう? あーダメだ。師匠、なんか用事があるから当分、辻斬りサークルには顔出せないって言ってたっけ……オルドバランは魔族で魔王だし、呼んだら祭りが争いに変わっちゃうし……」
国中の騎士相手に無双した女傑と、筋肉ゴリゴリの脳筋魔王。
とりあえず強者というワードで頭の中で検索を掛けた人物を思案するが、ダメ。
ふと思ったが、私の交友関係、変人ばっかりで、まともに頼れるヒトがいない。
これが普段、家でゴロゴロしている弊害か。いざという時に使える人脈がないと、本当にどうしようもない。
基本的に働いていないので、お金もなく、傭兵を雇ったり、八百長を仕組んだりも出来ない。
「リンドーはミークを連れて『一人と一勝は俺の方で手配する。残りは任せた』って言って、どっか行っちゃうし……任せるなぁぁ、アンタが始めた交渉だろうがぁぁ。全勝する気持ちで策練らんかーい」
一人と一勝。言い方が少し気になるが、リンドーを当てにしてはいけない。
十中八九、碌でも無い事になる。今までの経験が、私にそう囁く。
「あーあ、こんな事になるんだったら、スライムにリベンジしたいなんて、思わなかったら良かった……ねぇ聞いてる? ストーナ」
私は少し体を起こし、窓際の椅子に座っているストーナに声を掛けた。
「ん? あぁ、そうだなァ」
気のない返事。
今の殆どが愚痴なので、こんな程度の返事をされても仕方ないのだが、もうちょっと励ましてほしい。
ストーナは、体中に包帯を巻いた痛々しい姿で、静かに窓の外を眺めていた。
つい数時間前、全身鎧の人物に完膚なきまでにボッコボコにされ気を失ったので、そのままこの宿にまで運んだ。
ミークはミミックだが、治療系の神聖魔法が少し使えるので介抱していたのだが、全身鎧の人物に付けられた傷は酷く、ミークの腕では完治にまで至らなかった。
気を取り戻しても、ストーナは終始、意識をどこかへ置いてきたような感じだった。
「そんな状態で本当に試合出られるの? 危ないんじゃない? 確かに、最初は出て欲しいって思ってたけど、その怪我じゃ、やっぱり……」
「この程度、問題ねェ。『白き星を望む鳥』の騎士団長の名に掛けて、クラリムを奪わせはしねェ。それに」
「奴に借りを返さなくちゃなんねぇからよォ」
思わず惚れてしまいそうなセリフだが、どちらかと言えば、リベンジの方が重要そうだなと思えるくらい、メラメラと燃える火のような闘志が、ストーナの目に映っていた。
全てが上手く行き、リンドーが一勝の策を成功させ、ストーナがリベンジを果たしたとしても、あと一勝を掴める強者を引き入れないといけない。
もちろん、このまま宿に篭っていても、そんな都合の良い人物が現れる事もないので、私はストーナを連れ外へと繰り出そうと、出口へ向かった。
宿の店主がカウンターに座っていたので軽く挨拶した、その時だった。
「お客さん、お客さん。出かけ際に申し訳ないんだが、一つ頼み事を聞いてくれるかい?」
「ん? いいけど、届け物とか?」
「いや、違う違う。外じゃなくて……」
宿の店主は天井に指を向けた。
「アンタらが降りてくる前、上でドスンて音が聞こえてきてねぇ。恐らく通路奥の角部屋のお客さんだと思うんだけど、様子を見てきてくれないかい?」
「別にいいけど……そんなの貴方が見てきたらいいじゃないの?」
「いえね、その通路奥の部屋のお客さん。10日程前から連泊なされてるんだけど、ずっと部屋に篭っていてね」
「掃除はいらない、食事もいらない。挙げ句の果てには、部屋には近づくなと言われてて、30日分の宿代を貰った私はね、干渉できないんだよ。とは言っても、今の物音は何かあった時の音だ。体調を壊して死体にでもなられたら困る、と思ってた所にアンタらが降りてきたって訳だ」
「わかった、わかった。行ってくるから、待ってて」
宿の店主からすれば、タイミングが合っただけの話だが、こちらとしては出鼻を挫かれた感じ。その上、死体のチェックとは……ちょっとした不幸だなと思いながら、件の部屋を訪れた。
「まぁ、泊まっている宿で人死にが出たら、普通に嫌だしね……おーい、なんか音したみたいだけど大丈夫ー?」
「……返事がねェな」
その後も、バンバンと大きな音を立てノックするが、無音は変わらなかった。
私とストーナは顔を見合わせる。
宿の店主の不安は的中したようだ。
「せーのっ」
万が一の事を考え、扉を無理矢理、押し開け入った。
バタンと倒れる扉。
部屋の中が目に入る。
そこには、真っ赤な血を吐いた長い髪の男が倒れていた。




