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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第3章 最優秀ギルドアワー編
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15-E ギルドマスターとの交渉

「ここがギルド『試練に抗う者共グロリアス・トリックスター』」


 あーだこーだ言いながらも、結局私も見知らぬ土地の観光を一通り楽しみ、本来の目的であるギルドに辿り着いた。


 その見た目はというと、この街の名所であるコロシアムと同じ色合い、薄く金色掛かった白のコンクリートで作られた、まるでどこぞの神殿のような荘厳な外観だった。

 大きさも、あの無精髭の男ののようなスカウト員を常駐させているだけあって、デカい。


 中からは人々の騒がしい声が漏れ出ており、いかにこのギルドが賑わっているかを思い知らせ、また、私が作った幽霊ギルドをギルドと呼ぶのも烏滸がましく思えてしまう。


 少し重たい扉を開け放ち、中に入ると大広間が広がっていた。

 一つの部屋を前後に区切り、前半を酒場、後半をギルド窓口としているようだった。酒場にいるのも、とても冒険者とは思えない少年少女からお年寄りまで年齢の垣根なく飲み食いしていていることから、ファミリーレストランのような機能も兼ね備えたオープンな施設なのだろう。


 ギルド=冒険者限定みたいな常識が頭にあったので、かなり新鮮な後継だった。


 酒場を避け、ギルド窓口へと歩を進めると待ちくたびれたと言わんばかりに、暇そうに座っている無精髭の男がいた。


「おおっ、皆々様、お待ちしておりまーした。ようこそ、『試練に抗う者共グロリアス・トリックスター』へ。歓迎致しまーす」


 スカウトマン、オッキー。私達をここへと導いた張本人である。

 無精髭の男は例文のような挨拶を終えた後、リンドーに近づき、耳に口を寄せた。


「言われた通り、ギルドマスターとの会談の席は取り付けまーしたが……ミスター・リンドー、本当に交渉されるのでーすか?」

「無論だ。その為にここに来た」


 ギルドの賑わいを見て交渉が上手くいくと確信したのか、リンドーは迷いなく言い放った。


 その言葉を聞いて、少し肩を落とした無精髭の男だったが、すぐに気を取り直して私達をギルドマスターがいる部屋へと案内しようとしたのだが、


「リンドー、お腹空いた」


 ミークが空腹を訴えながら、リンドーのローブの裾を引いていた。


「そうか」


 リンドーはそう呟くと、纏っていたローブの裾から、ズシリと重そうな巾着を取り出すとミークに手渡した。


 えっ、何それ、いいの。

 ミークめ、そんなオネダリで、金の亡者であるリンドーから小遣いをせしめるとは、やる。

 よし、私も今度ひもじくなったらやろう。


「ありがとう」

「そんじゃァ、アタシらはここの店でテキトーに食ってっからよォ。行くぞ、ミーク」

「うん」


 ストーナはミークの保護者とばかりにそう言ったが、ミークを心配したのではなく、交渉の場で行われるであろうリンドーの暴走から逃げる為であろう。

 1億という多額な移籍金を勝ち取る交渉。リンドーが行うであろう聞いているだけで頭痛がしそうな交渉から逃げるのは正しい判断だ。


 私もそうしたいけど、私の未来の行方が握られているので見届けざるを得ないし、なんだったら邪魔しないといけないし。


「それでーは、ギルドマスターの元まで案内しまーす」



「入れ」


 ミークとストーナと別れた私とリンドーは、無精髭の男に導かれ、許しの声と共に部屋に入った。


 黒革のソファと背の低い大理石の机が置かれ、数々のトロフィーやメダルが飾られた学校の校長室のような部屋だった。


 その部屋にいたのは、ただ一人。30代後半、大柄、鋭い目付きに獅子を思わせるようなフサフサの髭を生やした男。

 髭も凄いが、鎧のようにも思える筋肉の隆起が威圧感を与えてくる。


 そんな威厳のある男がゆったりと座っていた。


「『試練に抗う者共グロリアス・トリックスター』ギルドマスター、アウグストだ。テメェらがウチから金をふんだくろうとしている奴らか」


 私達が促されるまま、ソファに腰掛けるとそう言いながらギルドマスターは、そう凄みを利かせて言って来た。


 とりあえず、一纏めにしないで欲しい。リンドーの単独なので。


「まぁ、1億をくれてやっても良いがな」

「えっ、いいの?」


 なんて言い訳をして、怒りをリンドーだけに向かわせるかを考えていたが、ギルドマスターは軽く、そう言った。


「そこのオルツキーの交渉術は認めている。ソイツが説得しきれん野郎を説得させるなんざ、俺にゃ、無理な話だ」


 ギルドマスターは天を仰ぐように大袈裟に手を広げ、横に立って控えている無精髭の男に目配せする。


「ただ、条件はあるがな」


 右足を左足の上に乗せ組み、顎を触りながら突きつけて来た。


「テメェらも知ってると思うが、この街にはどデカい闘技場があってな。そこでよく催し物が行われてんだ。かく言う俺ら、『試練に抗う者共《グロリアス・トリックスター》』もな、時々、街の連中を楽しませる見せ物をやってんだ。んで、ちょうど一週間後、いつもの祭りをやる予定なんだが、そこで白黒付けようぜ」

「祭りで白黒つける? なに? 射的とかヨーヨー釣りで勝負するって話?」


「何トンチンカンな事を言ってやがんだ。闘技場でやる祭りと言や、力と力をぶつける喧嘩に決まってんだろ。俺のギルドと、テメェらのギルドから5人ずつ選んで戦って、先に三勝した方の言い分に従うって話さ」


「俺達が勝てば、1億の移籍金を手に入れる。逆に、そっちのギルドが勝てば、言い値でクラリムを引き渡すと」

「そういうこと。どうだ? 面白れぇだろ?」


 冷静に言葉を飲み込むように整理するリンドーと、ニヤニヤと笑いながら此方の反応を伺うギルドマスター。


 見た目でこう思っちゃうのも悪いが、この世界の筋肉質の男達は武力を交渉のカードに入れているんだ。


 一瞬の間を置き、リンドーは、


「断る」


 と、意外な返答を返した。

 リンドーから提案しそうな突飛なアイデアなので、食いつくと思った。


「なんだ怖気付いたのか?」

「闘技大会をやるというなら、何処かで賭場が立つだろう。俺はそこで、俺達の側に全資金を投入する。そうすれば、目標額である1億は簡単に手に入る。つまり、闘技大会を行った時点で、そちらのギルドからの移籍金は必要なくなる。よって、その取引では俺に得はない」


「ほー、勝つ前提で話すんだな。ッチ、じゃあ、この提案はオジャンか……街の連中も喜ぶと思ったんだけどな」

「いや、闘技大会は受ける。その上で、俺達が勝利条件を満たした場合、クラリムの引き抜きは無し、且つ、そちらの『黄金の誓い』をパーティごと、無償で移籍させるというなら」


 この返しは意外ではない。

 何一つ言っている事を理解出来ないが、意外ではない。少なくとも、こんな提案で怖気付くなら、異世界に降りたって、すぐに魔王に挑む肝はない。


「ワッーツ! 何を言っているのですーか。『黄金の誓い』は我らがギルドの稼ぎ頭にして最強のパーティ、どんな理由であれ手放しませーん」


 事前にギルドマスターと、ある程度の打ち合わせをしていたのであろう、無精髭の男もリンドーの発言には目を見開く。


「まぁ、待てよ。オルツキー。いいぜ、その条件乗った」

「ギルドマスター! ほ、本当によろしいのでーすか!」

「オルツキー、テメェ。ウチの連中が、この名前も知らねぇ弱小ギルドの連中に負けると、本気で思ってるのか?」

「それは、そーですが……」


 納得いかないとばかりに、続けて反論を上げようとした無精髭の男だったが、ギルドマスターの一睨みで言葉を飲み込んだ。


「だが、まぁ、こっちも大きな代償を払うことになるんだ。最後に一つ条件を出させてもらうぜ。テメェら2人の参加は無しだ。それでもいいなら、だがな」

「あぁ……」

「待って待って、私とリンドーが不参加? 5対5の戦いで、ミーク先生とストーナに手伝ってもらったとして……」


 リンドーの即答を遮り、計算する。


 残り3。

 数が合わない。レジでお会計する時に、握っていた小銭では足りなくて、どんなに財布をひっくり返しても小銭一つ出てこないのと同じ感覚。


「分かった。それで行こう」

「決まりだ。テメェの名は?」

「リンドーだ」

「リンドー、これはきっとド派手な祭りになるぜ。楽しみだなぁ、おい」

「あぁ、そうだな」


 ガッシリと手を握り合う男達。


「いやいやいやいや、いやいやいや……」


 トントン拍子で進んだ交渉は、武闘試合という新たなイベントを呼び起こし幕を閉じた。


「色々、どうすんの」


 指定された人数がいない問題や、そもそも最優秀を目指しているギルドのパーティに勝てる道理があるのかと、疑問が絶えなかったが、それを答えてくれる優しい人物は誰一人としていなかった。


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