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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第3章 最優秀ギルドアワー編
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15-C 続・接待される魔法使い

「で、次は何すんの?」


 一回の失敗程度では諦めないと言わんばかりに、無精髭のスカウトマンに連れて来られたのは、街の外。青空の下に広がる、思わず駆け出したくなるような広々とした草原だった。


 建物もなく、人もおらず、草原には私たち三人しかいない。街からも近いからか、人を襲うようなモンスターは掃討されており、小動物が歩いているくらい。


 こんな草原で、いったいどんな接待をしようというのか。


「ふっふっふ。さっきは少し想定外になってしまいましたーが、何も豪華絢爛だけが、ヒトを喜ばせるものではないのでーす。どうやらミスター・リンドーは重度の本の虫と見ましーた。そういう人物程、ぴったりな持て成しがありまーす。きっと、満足して頂けるでしょーう」


 そう言いながら無精髭の男が取り出したのは、一本の棒と球。

 そのままリンドーが手に持っていた本を取り上げ、私に渡すと、リンドーには棒を手渡した。


「今からミスター・リンドーにやっていただくのは、ワターシが投げるボールを、その(バット)で打ち返すという遊びでーす。ボールを上手く打ち返す事が出来れば、きっと最大限の爽快感を得る事が出来るでしょーう」


 無精髭の男は、私たちから少し離れながら説明をしてきた。


「野球じゃん」


 なんの変哲も無い、有名なスポーツ。詳しい訳ではないが、ボールをバットで打つという事くらいは知っている。


 ただ、なんだろう、これ接待……?


「ワターシの投球技術は一級品。一度でも、打者のスイングを見れば、丁度良いタイミングにボールを投げ、気持ちの良いバッティングをさせる事が出来まーす」


 すっごく満面の笑みで無精髭の男は語っているが、これでいいのだろうか。

 接待感が無いし、今からでも野球からゴルフに変えた方がいいと思う。


 まぁ、ゴルフのルールも知らないけど。


「ルールは把握した。いいだろう」


 リンドーは棒を持って、無精髭の男に対面する。

 構えは普通、意外と乗り気なのだろうか。


「行きまーすよ、ミスター・リンドー。楽しく振っちゃってくださーい」


 無精髭の男は振りかぶり(ワインドアップ)から、小さな子どもでも当てれそうなくらい遅いボールが放った。

 ボールは山なりの放物線を描くとボールを待つリンドーの元へと辿り着き。


 コツン。


 と、心地の良い音が鳴り響き、コロコロとボールが転がる。


「ん? ミスター・リンドー、もう一球行きますよ」

「あぁ、来い」


 少し困惑が私と無精髭の男を包み込んだが、無精髭の男は再度気を取り直して、ボールを同じように放った。


 リンドーは縦に構えた(バット)を横に倒すと、山なりのボールに押すように当てた。


「……バントしてる」


 リンドーは(バット)を振るのではなく、横に構え絶妙な転がしぐあいで無精髭の男の足元へと返していた。


「ミスター・リンドー! バットを縦に構えて思い切り振ってくださーい!」

「断る」


 そう言うと、打つ素振りすら止め、(バット)を横に構え、ジッとボールが来るのを待つ。


「来い」


「なんか……楽しんでない?」


 いつもの通り表情筋は強張ってるし、声色も明るく無いが、心無しかウキウキしている気がする。


「ダメでーす! キチンとバットを構えて、思い切り振った方がもっと楽しいはずでーす」

「違いまーす。(バット)は立てて、体重を乗せて、思い切りスイング!」

「振って! 振って! 振って! ……ふって、くださーい」


 リンドーを自分の思い通りに楽しませないと納得がいかないのか、無精髭の男はアレコレと手を尽くしたが、その後、何度投げてもリンドーが振りかぶる事なかった。


「……接待なんだから、リンドーの好きな事をさせてあげたらいいのに」


 無精髭の男の野球に対する謎のプライドがあり、接待は失敗した。



 その後も、無精髭の男は持ちうる接待術を駆使してリンドーを説得しようとしたが、何一つ成果を上げられずにいた。


 最初に会った時に、早く帰らないと行けないみたいな事を言っていたが、こんなに時間を掛けている所を見ると、方便だったのだろう。


「で、最後がババ抜きと」


 一日を使い潰して、深夜。

 トランプを手に三人でテーブルを囲んでいた。


 接待とは何ぞや、という感じなのだが、無精髭の男は至って大真面目なので何も言えない。

 とりあえず、リンドーに清々しく勝ってもらいたいという事なのだろうか。


「これまた露骨な」


 三人共、トランプの残り手札は少なく、無精髭の男は一枚のカードを手札から突き出している。

 恐らくアレがババで、無精髭の男の心情を察するに、リンドーに引かせないよう警告をしているのだろう。


「そんな見え見えの手に乗る気はない」


 そう言いながら、リンドーは手札から突き出しているカードを、引き抜いた。


「……」

「なんで引いてんの! どこをどう見ても、ババに決まってるじゃない!」

「……俺はババなど引いてないが?」

「いや、もうこんなに手札ないのに、捨ててないって事はババじゃん! なに見栄張ってるのよ」


「もしそうだとすれば、オルツキーは俺の推測を上回る配置をしただけだ。よく練られた策だと褒めるべきだろう」

「そのヒト、そんな風には考えてないと思うわよ」


 そして数巡後。


「のーお……」

「まさか接待側のヒトが一抜けするなんてね」


 すっからかんになった手で頭を抱える無精髭の男。

 負ける気でやったババ抜きで一抜けすることあるんだ。


 ということで、私とリンドーの一騎打ち。


 これは私が代わりに接待して、リンドーに上がらせた方がいいのだろうか。

 ……いや、勝つ。

 ババ抜きだろうとなんだろうと、リンドーを真正面から倒せる機会を逃すわけにはいかない。


 勝って、煽りまくってやる! 今までの不満を解消してや


「こっちだ」

「グハッ……どうして、分かったの?」

「顔に描いてある」


 二人だけになって、一瞬で終わった。

 ババの押し付け合いなんてなく、私の敗北となった。


 夜も遅いのでトランプを片付け、解散しようと私とリンドーは立ち上がったが、一人その場で固まる者が。


「ミスター・リンドー。移籍金をどうにか安くしては頂けないでしょーか? 4000万……いえ、5000万用意しまーす。それで、どうか……」

「断る。移籍金は1億だ。1マニエ足りとも負ける気はない」


 凄いな、この男。

 押し付けの接待とはいえ、ここまで色々して貰って一切安くしないなんて、頑固というか感情がないというか。


「そう、でーすか。どうやら交渉は、ここまでのようでーすね」


 朝にあった元気は消え失せ、虚な瞳を浮かべながら無精髭の男は立ち上がった。

 ペコリとお辞儀をし、そのままフラフラと外へ歩みだした。


 が。


「待て。ここまで時間を掛けてクラリムに執着いている所を考えるに、他に当てがないのだろう。このまま帰って良いのか?」


 リンドーの言葉にピタッと止まる無精髭の男。


「……だとすれば。どうと言うのでーすか? 移籍金を安くする気はないのでしょーう?」

「あぁ」


 堂々巡り。

 法外な金額を吹っ掛ける男と、金を用意出来ない男。


 リンドーが折れるしかないのに、それもする気はないようだ。なのに、なんで引き留めたのだろう。


「1億だ。1億さえあれば、お前のスカウトマンとしての経歴に傷が付く事はなく、クラリムにも充分な金銭を得る事が出来る。用意さえすれば、誰も不幸にはならない」


 これ、裏を返せば、1億じゃなかったら、移籍される私自身の報酬が充分じゃないって事よね。私とリンドーのエージェント契約どうなってるんだろう。


 契約した記憶もないけど、詐欺紛いの契約書になってそう。


「しかーし、ワターシに与えられている権限では、1億なんて大金を約束することは出来ませーん。ギルドマスターに相談しなくては……」


 そりゃそうだ。

 リンドーはさっきから簡単に要求しているが、そんな大金、一人の裁量でどうこう出来る額じゃない。

 だから、無精髭の男は、困っていると言うのに。


「それならば、行けばいいだけの話だ」


 静けさを破ったのはリンドーの呟き。


「え、どこに?」

「無論、ギルド『試練に抗う者共グロリアス・トリックスター』にだ」


 私も無精髭の男も、キョトンとした顔でリンドーを見つめる。


「そのギルドマスターに直談判し、1億を勝ち取りに行く」


 リンドーは清々しい顔で、簡単な問題を解くように、軽やかに宣言した。


 終始意味不明なまま。そもそも、私は移籍する気は無くなっていると言うのに。

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