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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第3章 最優秀ギルドアワー編
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15-B スカウトマンの秘策


「百歩譲って、ミス・クラリムが名も知れないギルドの一員だとしても、移籍金はワターシが提示する額で了承していただきまーす。そうですね……100万マニ……」

「——1億だ。1億ならば、クラリムの移籍を認めても良い」


「そ、そんなバカな話がありますか! 冒険者ギルドの移籍金は通常300万マニエでーす。一流の冒険者といえど、1000万マニエ貰えたら良い方でーす」

「1億だ」


「あの、話聞いてまーすか?」


 私そっちのけの言葉の応酬。

 お客さん用だから飲んじゃダメだとストーナから念押しされていた紅茶を嗜みながら、その様子を静かに見守る。


 冒険者として他ギルドに移籍するという件だが、さっきは契約書にサインしかけたけど、今は萎えた。

 よくよく考えてみれば、その最優秀ギルドアワーなるものが日取りも分からないし、もしかしたら、その受賞が出来るまでギルドを辞める事が出来ないみたいな条項が契約書に小さく書かれているかもしれない。

 断れるものなら断りたい気分だ。この吹っ掛け合いに割ってまで言う元気はない。


「分かりまーした。今回は特別に1000万用意させて頂きまーす。ただ、今は持ち合わせがないので、ギルドに帰ってからになりまーす」

「1億だ」

「……………………」


 譲歩に譲歩を重ねる無精髭のスカウトマンと、譲歩の『じ』の字も知らない魔法使い(エージェント)。

 無精髭の男が助けを求めるように、私を見てくる。


 こっちを見るな。

 その男が私の思い通りになるなら、今こんな状況に陥ってないわ。


「…………ふっふっふ。それならば、こちらにも考えがありまーす。スカウトマン歴15年の腕の見せ所でーす」


 それから提示額を三倍まで上げたものの、リンドーが一切応じる事はなく、目をグルグルと回した無精髭の男は、気が狂った笑いを発し、何やら不敵な笑みを浮かべるのだった。



「うふふ」

「はぁ〜い」

「チュッ」


 一泊いくらするんだろうと思える豪華な部屋の中心で、色っぽい服に艶やかな声を上げたお姉さん達に囲まれていたのは、濃紺ローブの男リンドー。

 お膳に乗った一つ一つ丁寧に作り込まれた食事を前にして座っていた。


「これは……なに?」

「見ての通り接待でーす」

「せっ、たい」


 私と無精髭の男は部屋の端でリンドーを遠目に見ていた。


「美味しい食事に、綺麗な女性、そして金銀財宝。これで鼻を伸ばさない男はおりませーん。夢のようなひとときで気分を向上してもらいまーす」


 交渉に手を上げた無精髭の男が用意したのがこれだった。

 どうやらこの状況が、スカウトマンの秘策らしい。


 艶やかなお姉さん達はベタベタとリンドーに触れているが、リンドーはどう思っているのか顔色変えず固まっている。


「あれ? 接待する相手、リンドーなの? 私の契約事なのに!」


 したことも、されたこともない接待がどんなものだと思っていたが、ふと、そもそもの対象がおかしいことに気付いた。


「ミス・クラリムをどんなに持て囃しても、ミスター・リンドーの首は縦に振らないでしょう。無駄に費やす時間はありませーん」

「無駄って……私を蔑ろにして、私が契約しないって言ったらどうするの」

「ミスター・リンドーさえイエスと言えば、ミス・クラリムは後でどうとでもなりまーす」


 真隣に私がいる事が分かっているのか分かっていないのか、メチャクチャな事を口走る無精髭の男。


「ポケットマネーをふんだんに使いまーした。これで移籍金を1000万いえ、100万まで落としてみせまーす! あはははははははは」


 ダメだ。この男、リンドーの変人行為に当てられて、おかしくなってしまってる。


 けたたましい笑い声に耳を塞ぎながら、この接待の行き先を見る為に、視線をリンドーに戻した。


「リンドー様、イイコトしませんか? 私達、なんでもしますよ」

「ほう」


 一番近くにいた胸の大きな女性は、そう甘い声で囁くとリンドーを抱き寄せる。


 なんで私、横でリンドーが接待されているのを見ないといけないんだろう。私だって、美味しい食事も欲しいし、お姉さん達に思いっきり甘やかして欲しいんだけど。

 羨ま悔しい。毒味と称して、あの食事平らげてやろうかしら。


「なんでも?」

「えぇ。な、ん、で、も、言ってください」

「二言は無いな?」


 リンドーは静かに問いかける。

 お姉さん達は優しい笑みで頷く。


 リンドーは、手に持っていた箸を置き、順にお姉さん達の顔を見た後、


「では、オマエはウェラントラン山に出向き数多の魔力が篭っているという魔石を発掘、そこの猫耳のオマエは王城に蔵書されているワンダーラ魔導書を、青い瞳のオマエは三百年前に魔王軍に所属していたという魔法使いの魔法陣を模写してこい」


 テキパキと指示を飛ばした。

 リンドーの口から発せられた呪文のような謎単語に首を傾げる、お姉さん達。


「えっ、と、そういう事じゃないんですけど……」

「なんでもと言っただろう? 嘘だったのか?」

「いや、嘘でも無いんですけど……」


 お姉さん達は、互いに顔を見合わせながら、今まで遭遇した事ないような客の対応を三人で話し合い始めた。


「……ぶ、ブレないわね」


 リンドーに色仕掛けが効くとはそんなに思っていなかったが、一応男なので本能に身を任せた行動をしたら、止めようと身構えていたが、何の事は無い。


 いつも通り、変だ。


「ミスター・リンドーはいったい何を言ってるんですかー?」


 全くの想定外に、困惑を浮かべる無精髭の男。


 気持ちは分かる。私も最初の方は、そうだった。

 

 もう、お気づきになられたかもしれませんが、このリンドーという男はこういう男なんですよ。と懇切丁寧に教えてあげてもいいのだが、きっと納得はしないだろう。


 奇声を発しながらリンドーに接待の趣旨を説明しに行く無精髭の男、本当に一生を費やす程の無理難題の旅に出そうになっている三人娘、黙々と食事を取るリンドー。

 この状況を対処する前に、とりあえず、一言。


「かぐや姫かよ」


 結局、無意味に時間が過ぎ、接待は失敗した。

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