2-E 魔王面接内定
志願者がいなくなった面接室。机を囲み、元魔王側近と私(神)の二者はプロフィールが書かれたメモを見ながら話し合っていた。
「それでこの中から、一人の魔王を選ぶということになるのですが……」
「無難で言っちゃあ、最初の脳筋が魔王っぽいわね。他は、ニートとパン屋ちゃんは論外として、自分都合で魔王になるってのが頂けないのよね」
なんで異世界に来てまで天界と同じような仕事をしてるんだろ。
しかも魔王城で。
と思うが、乗り掛かった船を投げ出すことも出来ないので仕事にキチンと向き合う。
「……ただ、脳筋のアホっぽいのがちょっと。実力はあるのに副官ポジに操られてピエロんように無様に負けて行く様が目に映るわね。そこんとこ、魔王の側近と何とか出来そう?」
「私めでは、オルドバラン殿を押さえつけることは出来ませぬ」
その状況を想像したのか、冷や汗を掻いた緑肌の老人は手に持っていたハンカチで汗を拭う。
「他となると蛇女と……復讐君か。私、復讐系勇者も少し導いた経験あるけど。あのレベルになると、自分以外は全部、盤面の駒と思っちゃうタイプだから、変に魔王にまで祭り上げると、一周回って世界滅ぼしちゃうのよねぇー」
「流石、神様は様々な知見があって参考になりますな」
「えへへ、それほどでもー……んじゃ、蛇女?」
「シエラ殿、ですか。カナラワヘビ族は魔族の中でも忌み嫌われている一族でして……」
「なんで?」
「奴らには、他者の肉体を乗っ取り、寄生するという習性がありまして」
「それはまた、嫌われそうな要素ね」
五人五色。全員が違いすぎる上に長所より短所の方が目立っている。
正直言って、この中から魔王を選ぶというのは無理があるとは思う。
「……でアイツはどこに行ったのよ」
「神使様ですか? それが『少し、散歩をする』と出て行かれました」
いつの間に魔法使いは神使と呼ばれるようになっていたのだろうか。
なんか、あの魔法使い、神の私より厳かな扱いを受けていそうだ。
「自由が過ぎる。面接やるだけやって放置って……何がしたいのよ、アイツ」
「うーむ、それでは少し反発もあるでしょうが、カナラワヘビ族のシエラ殿に致しますかな。この五人の中では真っ当ですし」
「そうねー。変な方向にはならないんじゃない?」
正直よっぽど変なことにならないなら、誰でも良い。
今回新しく魔王になった奴が、何かの拍子で天界から討伐対象になるとしても、それの対処に当たるのは、私以外の誰か。
何の責任も、苦労も背負わないから気楽だ。
椅子を後ろに引き、ゆったりと立ち上がると扉に向かって歩く緑肌の老人。
私はぼうっと、その姿を目で追いながら、体を伸ばす。
「よぉーし、これで帰れ……」
ない!
唯一の帰還魔法の道具は使えないので捨てたし、天界から迎えは来ないし。
腕組みをしながら、今の状況を整理する。
ここで、ゆっくり出来たのは、リンドーの決戦兵器が魔王軍への抑止力になっていただけで、私自身は何も出来ない。
このまま新魔王が決まって、魔王の仇討ちをするぞって言い始めて、私を攻撃しろとか命令が出たら……ヤバい。神で不死身だから、よっぽどのことがない限り消滅しないけど……拷問とかされたら……しんどい。
「あー、ちょっと待って。よくよく考えたら、あの自宅警備員君、意外と見込みがあるかも。この私の神様レーダーがビンビンにときめいてるわ!」
「はい?」
私は出ようとした緑肌の老人を引き留め、体を引っ張り、椅子に力尽くで座らせる。
魔法使い! 早く帰ってきてーー!
私は思いっきり心の中で叫び声を上げたのが聞こえたのか、魔法使いの男が扉を開け放ち入ってきた。
「おお、これはこれは神使様、お戻りになられましたか」
「あぁ」
魔法使いの男は、椅子に座るのではなく、入ってきた扉にもたれかかる。
椅子が空いているのに座る気配もない。
「新魔王は、いかがいたしましょうか? 一応、クラリム様と二人で、こちらで選定を進めており、簡単な評価点を書いたリストを……」
「必要ない」
緑肌の老人が近づく前にピシャリと拒絶する魔法使いの男。
「新魔王は既に決めてきた」
私と緑肌の老人は顔を見合わせる。
一つだけ言うとすれば。
「面接官三人なのに、実質的な権力者は一人だったなんて……アンタが帰って来るまでに話し合った時間はなんだったのよ」
最初からそう言ってくれていたら、私も神として気を遣って、それっぽい意見を考えることも無かったのに。
「それで? 誰を魔王にするの? 蛇女? 復讐系勇者君? まさか筋肉巨漢じゃないでしょうね」
魔法使いの男は、ゆったりと口を開いた。
「全員だ」
「へ?」
「オルドバラン、シエラ、ルクス、ジンペ、ベルーニャの五人で決定だ。異論は認めない」
再度、顔を見合わせる私と緑肌の老人。
緑肌の老人に至っては、乾燥したコンタクトレンズを嵌めているみたいに、何度も目をパチクリさせて言葉を失っている。
「待て待て待て、なんで一つしかない椅子に、複数人座らせる考え方をするのよ。魔王を誰にするか決めるって面接なんだから、ちゃんと一人に絞りなさいよ」
「そんなルールを定めた覚えはない」
「そ、そりゃあそうだけど。合同面接で、志願者全員気に入ったからって、人事に無理を言う社長か何かか、アンタは。何事にも定員ってものがあるでしょ。それに、ご、五人、全員って」
私の真っ当な意見に返す言葉もないのか、無言。
いや、この場合は、暖簾に腕押しの方か。
常識で、この変な魔法使いに太刀打ちが出来ないのは、もう分かっている。
「……よぉーし、じゃあワケを……理由を聞かせてくれるかしら」
説得する理由も無いっちゃ無いのだが、もう気になった物は仕方ない。
「面接が終わってすぐ、俺は、魔王城の宝物庫を探し彷徨っていた」
この男は、他所様のお城で一体、何を当たり前にコソ泥のようなことをしているんだろうか。




