表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第3章 最優秀ギルドアワー編
86/116

14-F スライムリベンジリベンジ

 あれから何日が過ぎただろうか。

 このよく分からない修行に対する文句は疾っくの昔に消え失せ、意識のある限りスライムを狩る。ただ狩るのではなくスライムの動きをシュミレートし、最短最速で潰す事を心掛け続けた。


 時間と共に初見のスライムが湧くが、スライムの行動パターンをいくつかの種類に分類し当て嵌める事で、即座に対処が可能になった。


 そして、


「成ったようだね。新入り」


 久しぶりに聞こえた騎士狩り老婆の声。


「目隠しを外しな」


 言われるがままに目を覆っていた布を外し、ゆっくりと目を開く。

 入って来たのは、いつぶりかの明るい陽と青い空、そして沼地に散らばる何百ものスライムの破片。


 それはスライムの全滅を示し、同時に修行の終わりを告げるものだった。


 様々な感情の波が私を包み込むが、何よりも早く私の足はとある一点に向かって歩き始めた。


内蔵助(クラノスケ)、貴方に変わって上野介(コウズケノスケ)も幕府も潰したわ」


 目の前にある赤いスライムの残骸。

 私が成長するキッカケの同胞に略式の祈りを捧げる。


 再度立ち上がると、背後に騎士狩り老婆が立っていた。

 後ろを振り返る事なく、足は自然と、街へと向き進み始める。


「行くのかい」


 足を止め、コクリと頷き返す。


「そうかい。今の新入りなら、大丈夫さね。自信を持ちな」


「「良きリベンジを」」


 互いの心が通じ合ったように、声を合わさり、私は私のリベンジを果たす為に街へと向かった。



 時刻は夜。

 ウルメラに戻った私は私に擬態しているスライムを探すべく、完全に寝静まった街を歩いていた。


 何日も目隠しをしていた影響か、夜目が強化されており、程なくして見つけた。

 青緑と黒を独占した色合いをした、私と瓜二つの存在。

 正に私の2Pカラー。


 その擬態スライムは、深夜だと言うのに、月明かりしかない夜道を一人で歩いていた。


 昂るリベンジ心を落ちつかせ、私はすぐさま暗闇に紛れ、標的へと歩みを進める。


 バレないように、擬態スライムと同じタイミングに足を下ろし、足音を隠す。

 修行中に倒したスライムと少し違うが、スライムという括りは変わらない。スライムである以上、一挙手一投足、どう動くかが考えなくても分かる。

 ヒト型に化け、服や肌で核が隠れていても、歩法や息遣いからどこに核があるのかが手に取るように分かるのだ。


 つまり、倒せる。

 前回戦った時、手当たり次第に滅多刺ししても倒せなかったのは、このスライム独特の核を隠し移動させるという性質があったから。

 滅多刺しの攻撃を避ける。それは一見、不死身のような能力にも思えるが倒す方法は思いついていた。


 一歩、一歩と歩幅を広げ、スライムに近づき、背後にピッタリと張り付く。


 そして、リベンジの時が訪れた。

 スライムの心臓たる核の位置を脳で再確認し、そこへとゆったりと手を伸ばす。


 核のある左肩に手が触れたのは一瞬。

 私は手応えを感じ、足を止めた。


「攻撃を避けるなら、攻撃を気づかせなければいい」


 誰にも聞こえないくらい小さな言葉を呟く。

 私の手の感触も今の声も気づいていない擬態スライムは、何事もないように歩みを進める。

 が、一歩進むごとにスライムの体液が飛び散り、体の形を崩し始めた。そして、最後には元のゼリー状に戻り、倒れた。


 擬態スライムの核は真っ二つに両断されており、程なくして核も砂粒になって体液と共に風に吹かれ消えていった。


 まるで、月明かりに照らされる夜半、武士が刀を試すように、歩いていたヒトを斬るが如き一幕。


「……辻斬りにて御免候」


 血を払うように振り払った私の手からは、スライムの破片が飛び散った。


 左肩にあったスライムの核、それを手が触れた瞬間と同時に切り裂いて付着したもので。

 つまり私が放ったのは、死角からの一撃だった。


 『貫斬手・露先』

 スライムの体を貫通し、核だけを一瞬の間に切り裂く秘技。

 武器が使えない条件下、修行で編み出した必殺の一撃であった。


「ふふふ、ふふふ、ふふふふふふ! やったわ、やったわ!


 リベンジを果たし、爆発する感情。

 

「色々あったけど、これで大手を振って帰れるってものよ。」


 自分の手でスライムに奪われた居場所を取り返したという満足感が胸を満たす。

 背後からの奇襲がリベンジ的にどうなのかという気持ちも無くは無いが、正直どうでもいい。結局のところ勝てばいいのだ、勝てば。


 イカれた修行からも解放され、リベンジも果たし文句なし。

 充実した平穏な日々が帰ってくる。


 私がストーナの家へと向かう為に振り返ると、少し先にある男が立っていた。


「見つけたぞ」

「……リンドー」


 濃紺のローブの男は、静かに私を見つめていた。


 心配して迎えに来てくれた?

 私がリベンジを果たすのを信じて待っていてくれていた?


 様々な感情が頭を駆け巡り、感極まってリンドーへと駆け寄る。

 抱き着こうとした時、冷徹を込めた声色が私を包んだ。


「ほう。観念したか。クラリム」

「…………へ?」


 自分の名称の背後にある聞き慣れぬ称号。

 それを大真面目に言うリンドーの顔は心無しか、怒りが篭っている。


「俺の保管していた書物を濡らし、ミークのお菓子を盗み食い、ストーナの仕事の書類を燃やした。忘れたとは言わせない。責任は取って貰う」

「ぇ゛、いやそれ私じゃ無い……もしかして、あのスライムが? 待って、私は正真正銘、本物の慈悲の女神クラリムよ! 分かるでしょ!」


「違うというなら、偽物はどこへ行った?」

「それは……私が今、倒しちゃった、けど」


「そうか」

「うん」


 夜の静けさと、ちょっぴり冷たい夜風が私とリンドーの間に吹き荒ぶ。


「ならば、代わりに責任を果たしてもらおうか」

「な、な、なんですってー!! 私じゃないって言っているでしょーが!!」

「妹の不始末は姉がとるものだ。逆もまた然りだが」

「いや、そもそも、妹でもない! あれ、スライムー!」


 こちとら、訳の分からない修行に付き合わされて疲れに疲れまくってるってるのに、あのスライムの尻拭いをさせられるなんて理不尽にも程がある。


「あったまきた」

「……なんだと?」

「頭に来たって言ったのよ! いいわ。丁度いい機会だしやってやろうじゃない」


 私は大きく距離を取り、拳を固める。


「勝負よリンドー! 過酷な修行を乗り越え、リベンジを果たした私が神の強さを教えてあげるわ」

「力で解決しようとは、慈悲の女神はもう諦めたのか」

「煩い! これも愚かな考えを持つヒトへの慈悲よ。神に平伏するのもヒト本来の定めなのよ」


 自分でもちょっと邪神気味だと思うが、気にしない。ここ数日の憂さ晴らしを兼ねて、強くなった私をリンドーに思い知らせてやるのだ。


 リンドーはやれやれと肩を動かすと、右手で手招きをした。

 余裕ぶっているが、リンドーの何者をも一撃で屠る決戦兵器は私の体から生み出している。

 ここにはミークもストーナもいない、つまりリンドーは丸腰。


 まともに戦っている所も見たことがないから、リンドーは間違いなく弱い。

 イカれた特訓を熟した最強無敵の戦士である私が負ける道理がない。

 勝利を確信し笑みを浮かべながら、拳を構えた私はリンドーへと駆け始めた。



 同時刻、クラリムがリベンジを果たす為に去っていた後。

 スライムの沼地にて。


「よもや、手で触れただけで、スライムが弾け飛ばす事ができようとは。あのクラリム殿がそこまで強くなられるとは、思いませんでした。さすがはベローチェ殿ですな」

「私が教えたのは心構えだけさね。あの新入りには天性の性能があっただけだよ」


 胴着の男ケンザブローは騎士狩り老婆ベローチェに呼び出され、食事を渡していた。


「ただ……」

「ん? どうかされたのですか?」

「自分が強くなったと思い上がってなければいいんだけどねぇ」

「それはいったい? 拙者も何度か遠目で見ただけでありますが、クラリム殿の貫手は間違いなく超一流。どんな猛者にも通用致しましょう」


 ケンザブローはクラリムにベローチェを紹介した事を気にして、度々このスライム沼地に足を運んでいた。

 そこで、彼が見たのは倒す為に洗練された技。

 名のある道場で修行を積んでいたケンザブローが見ても、感心するものだった。


 しかし、ベローチェは顔を顰める。


「確かに『技』はよく出来てるがねぇ。それを放つ拳は鍛えていないだろう? スライムという生物を見切った以上、スライムなら硬かろうが柔らかろうが、見抜いた弱点から技を捩じ込めるんだろうけど……他の生物には効かんだろうね」

「なるほど。大きな槌を生まれたての赤ん坊が振るうのと同じことですな」


「……クラリム殿、良くも悪くも感情豊かでありますからなぁ」

「まぁ、またリベンジしたくなったら修行は付けてやるさね」



 私のスライムをも瞬殺する手刀がリンドーの腹に炸裂した。


 ぺち。

 可愛らしい効果音。


 ぺち、ぺち、ぺち。

 必殺の一撃を何度も放つが、音は変わらない。


「てい、てい、てい……あれ? おかしいなぁ、スライムと同じ要領で倒せると思ったんだけど……」

「俺はスライムではないから、効かないのだろう」

「……それは、そうね」


「では次はこちらの番だ」

「えっ?」


 当たり前の事を当たり前に言われた私は、拳を下ろすと、そんな不穏な言葉が聞こえた。


 そして、リンドーは私の肩を掴むと半回転させ、私の背中に手を当てた。


「終わった星の下、嗤う破壊者はもういない。救いは一度。絶望は光の中。二度訪れることは無い。トロマ・イポスブリオス。現出せよ『決戦兵器ヴィナッシュ』」

「あば、あばばばばばばばばばばばばば……」


 何度目か分からない、内臓を掻き回したような嫌悪感が脳に伝達すると、リンドーの手には巨大な機械仕掛けの大砲が握られていた。


 この世界の魔王をもワンパンした決戦兵器が私に握られている。


「決着を着ける前に一つ。ミークを介して分かった事だが、あのスライムが家を訪れたのは、クラリムの趣味が原因のようだが……これでも、無関係だと言い張るか?」


 無機質な顔に、無感情な声色は私の心の奥に眠る大量の白旗を持って来させた。


「よし、帰るわよ! 本とお菓子と書類の弁償? なんだってやってやるわよ。この私は慈悲の女神クラリム、困った人々に慈悲を授けるのが役目。戦士なんて、もう懲り懲り。全部終わったら、私には快適な布団に包まるという重大な任務があるんだから、さっさと行くわよ」


 新たなリベンジは生まれる事は無かった。



 クラリムのスライムに対するリベンジ。

 誰しもが寝静まった夜、人気の無い場所で行われたものだった。

 しかし、その一部始終を見ている者がいた。


「……見つけた。見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた!! あのヒートこそワターシが求めたピース。これで、最優秀ギルドアワーは頂きでーす」


 無精髭を生やした男は、月明かりに照らされながら高らかに笑い走っていった。

 スライムへのリベンジは、新たなトラブルの種を芽吹かせるものになる、そんな気配を残して。


次話は番外編です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ