14-E ちょっと強めのスライムを倒す為の修行
「今じゃあ『騎士狩り』なんて物騒な二つ名を背負っているが、わたしもねぇ、昔は近所の男の子に思いを馳せ、クローバーで恋占いをするような、普通の女の子だったのさ」
「そんなある日、腐った騎士道を重んじる外道共の手によって、父が殺された。幼い頃のわたしはすぐに復讐を誓ったよ。なんやかんやあって、一国の騎士を全滅させる事になったが、そんな話はどうでもいい」
「肝心なのは、普通の女の子だった、わたしがどうやって復讐を果たしたのか。だ」
「騎士となったのさ。憎い憎い騎士の仲間になり、共に生活を行った。騎士を知り、騎士の在り方を学び、騎士を狩る為の腕を磨いたんだよ。そして、あの満月の夜に、復讐を果たした」
「つまりはだ。わたしと同じようにすれば、新入りもリベンジを果たせるって訳さ」
昨晩に行われた辻斬り同好会の会合が終わってすぐ、騎士狩り老婆ベローチェ首根っ子を押さられ連行された私は、彼女の過去と修行の方針を聞かされた。
同じように? と思った私は、今の話の騎士の箇所にスライムに置き換えてみたのだが、とてつもない嫌な予感が頭を過った。
翌日、その答えと言わんばかりに私はスライムが発生する沼地へと連れてこられ、修行が始まった。
「スライムに勝ちたければ、まずはスライムを理解しな。共に生き、観察し触れ合うんだよ。そうすれば、スライムの仕草や行動パターンから考えを読み取れるようになり、命までの最短距離を知れるさね」
スライムの大きさまで膝を曲げ、意味もなくヌメヌメと彷徨い、スライムと同じ物を食べ、スライムが動かなくなったら寝る、そんな修行。
そう、騎士狩り老婆が用意した修行とは、スライムとの共同生活だった。
沼地に来るまでは、もしかしたら辻斬り同好会の必殺技を教えてくれるのかと思っていたが、そんな事は微塵も無かった。
冗談でしょ、と思って逃走を試みたが、騎士狩り老婆は断固として私を逃さなかった。
◇
修行が始まって、翌日。
「ス、ライムゥ」
夜間の逃走も食い止められた私は、スライムのようにヌメヌメと沼地を歩き、鳴き声を真似ていた。
心の底からスライムになりきらないと、このトチ狂った修行が終わらないとの事なので、少し離れた岩場で監視している騎士狩り老婆に聞こえるよう、声を張り上げる。
どうしてこうなった。
すぐに強くなれる楽な修行を探したから? 辻斬り同好会なんて、ヤバいグループに参加してしまったから? 勘違いから、そのボスに舐めた態度を取ったから? そもそもリンドーを召喚してしまったから?
ありとあらゆる所に疑問を向けるが、誰も教えてくれない。
もしかしたら、スライム潰しなんて、ちょっと邪神的趣味をしていた事による天罰なのかもしれない……私、神様なのに。
あと、そもそもなんだけど、ここまで真剣に修行しなくても、あのスライムくらい倒せる気がする。当時の私が滅多刺しに出来るくらいノロかったし。なんだったら、三回くらい挑戦したら、一回くらい勝ってたと思う。
「ス、ライムゥぅぅぅぅ(これする意味あるーー?!)」
私の想いを乗せたスライム語の叫びを放った。
ただ、私の心情を読んだのか騎士狩り老婆の眉を顰めたので、もう無心で修行に励む事にした。
◇
そして時は過ぎていき、修行開始7日目。
ほぼ同じ見た目のスライムの区別が付くようになり、毎日同じ食べ物に飽き飽きした頃。
私のスライム成り切りに満足したのか、騎士狩り老婆は私を次のステップに進ませた。
「スライムと心を通わせた今、新入りに必要なのはスライムを倒す為の術さね」
「騎士が心臓を貫かれ絶命するように、スライムも体の何処かにある核を潰せば倒せる。これからやるのは、いついかなる時でも核を見つけ、破壊するという特訓さね」
「当時のわたしは想像上でしか練習出来なかったけど、スライムならここに腐るほどいるからね。練習し放題だよ。極めれば触れただけで敵を倒す事が出来るようになるから、頑張んな」
久しぶりに中腰から解放された私は、栄養不足で朦朧となる意識の中、何を言ってるんだろうと思っていたが、すぐさまその言葉の意味を理解させられた。
騎士狩り老婆が用意したのは少し長めの布。
それで私の目を塞ぐと、すぐにスライムがいる沼地へと戻した。
「この状態で、いったい何をしろって言うの?」
「ここにいるスライムを全て狩り尽くしてきな。一匹残らずね」
「は? 目隠しした状態でどうやって? 武器は? 素手で倒せっていうの?」
いくらスライムが弱いとは言っても、目を瞑ってても倒せるなんて思い上がりはない。
ましてや無手だとすると、スライムの体に手を突っ込んで直接核を叩かなければいけないのに。
「目が使えなくなるかもしれない。音が聞こえなくなるかもしれない。武器が使えない状況に陥るかもしれない。様々な可能性を考え、それに対処出来るようにする。全ては復讐を成し遂げる為、わたしはどんな僅かな可能性にも対策を講じたものさね」
いやまぁ、うん、そりゃあ貴方はそうなんだろうけど。
そもそも私は全然復讐とかじゃないからね。あのスライムにされたのだって、私の食事を取られたことぐらいだし。リベンジしたいってのも、私のちょっとしたエゴで、覚悟の差が有り過ぎる気がするんだけど。
もちろん反論したが、通らず。
暗闇の中、スイカ割りのようにフラフラとスライムを探し始めた。
「ダメだ」
「見えないと思うな」
「音で接近を察知するんじゃない」
視覚の無い戦闘訓練。
間違いの指摘が雨のように浴びせられる。
そんな事を言われたって、神だけど普通のヒトと変わらない身体能力の私が、目隠しでモンスターを倒すなんて出来る訳が無い。
沼地で目隠しで歩くのだって難しいのに、ホント何をやらせてるんだ。
「使うのは頭だよ。スライムならばどう動くかを頭で描き、それに合わせ動くのさ。スライムと共に生活した日々を思い出しな!」
私の思考を読んだように言葉を投げつける騎士狩り老婆。
このヒト、私と同じように食事マトモに取ってないんだけど、なんでこんなに元気なんだろう。人間辞めてない?
悪魔! 人でなし! スカポンタン!
騎士狩り老婆への文句が頭の中を渦巻くが、無意味だと悟ったので途中で切り上げ、再度スライムに向き合う。
「スライムの動きを頭の中で描く……描く……描く……どうやって? 痛っ」
頑張ろうと思って早々、いきなり手詰まりに陥ったと思った瞬間、突然痛みが訪れた。
腰に現れる鈍痛。小さな子どもが走って突撃してきたような感覚。恐らくはスライムの突進。
その衝撃に膝を突いて顔面から水溜りのような泥に顔から突っ込む。
口に泥を入れまいと息を止めた、その瞬間、急速に私の脳は活発に動き始めた。
駆け巡ったのは、ずっと様々なスライムを観察し、触れ合った事で手に入れた経験という名のデータ。
脳裏に走った情報を掴んだ私は、ガバッと立ち上がり私に衝撃を与えた主に言葉を投げた。
「今のタックル、もしかして、内蔵助? 内蔵助なんでしょ?」
スラ石内蔵助(私命名)。
ここ数日行動を一緒にしていた赤スライム達のドンで、吉良スラ上野介(私命名)率いる緑スライムと血で血を洗う抗争を繰り広げていた。
スライムになり切っていた私は内蔵助が率いる藩に浪人として迎えられ、赤スライム達と寝食を共にしていた。
「スラァスラ?」
「やっぱり内蔵助なのね。どうして私を攻撃するの、さっきまで仲間だったじゃない。明日一緒に上野介を討つって言ってたじゃない!」
「スラァスラスススス!!!!」
「上野介が逃げた? 違うわ! 私じゃない! 私が情報を漏らす訳じゃない!」
「スラスラスラス!」
内蔵助は問答無用とばかりに鳴き声を上げると、私にタックルを繰り出した。
一度、二度、三度。
何一つ見えない暗闇の中、何度も何度も内蔵助のタックルが私を襲う。
衝撃と共に一緒に暮らした日々がフラッシュバックするが、もうきっと内蔵助は私を裏切り者だと思い込んで攻撃を辞めないのだろう。
この攻撃を止めるには、やるしかない。
スライム、内蔵助の動きを頭の中でシュミレートする。
内蔵助は義に厚く、血の気の多いスライムで、他のスライムと比べてよく食べ、重量感があるから、鈍い。
そして、内蔵助にはタックルの後、三歩ほど後退するという癖がある。
プロファイリングのように分析し、タイミングを見計らい、腕を振り抜いた。
「……やっぱり、内蔵助だったのね」
伸ばした腕が、スライムの体を貫き、内蔵助の核を寸分違わずを掴んでいた。
腕を引き抜くと、核と思しき塊はパラパラと砂粒に変わり、風に吹かれて消えた。
「……倒した」
目隠しでスライムを倒したという喜びと、見知ったスライムを倒したという切なさが混じり合い複雑な感情になる。
なんにせよ、たかだか一体。
後百回くらいは同じ事をしなければ、スライムを狩り尽くせない。
でもちょっとハードだが、やるしかない。
騎士狩り老婆から解放される為に、内蔵助の無念を肩代わりし沼のどこかにいる上野介を討つ為に。
何か目的が変わってしまっているような気がしたが、私は余計な感情を取り除き沼地を駆け出した。




