14-D 辻斬り同好会
時刻は夜。
ウルメラの街から離れた場所にある木造の古びた小屋。
その中で私と四人の男が囲炉裏を囲むように座っていた。
そう今、正に『辻斬り同好会』の会合が行われようとしてたのだった。
「先んじてではあるが、拙者から紹介をさせて頂きたく。この方はクラリム殿。此度より、我らが辻斬り同好会に入会する運びになった」
「よ、よろしくお願いします」
胴着の男ケンザブローが、私を同好会の秘密の集会所に案内する条件として、同好会の参加を求めて来たので、承諾した。
とは言っても、あくまでも体裁。
本気でなった訳ではない。今回の例のスライムさえ倒せれば、すぐに退会するつもりだ。
私の挨拶に厳かな顔の男達は、ジロリと見つめ小さく会釈をした。
とりあえず新入部員うぇーい、みたいなノリでは無いようだ。辻斬りの腕前を見せてみろとか言われても困るし、これくらい距離感のある反応で良い。
「それでは恐れながら、拙者が右から順に紹介致す。まず『999本』のオニワカ殿。この方は、とある橋にて、通りがかった猛者相手に武器を賭けた勝負をしておられる辻斬りであられる」
坊主頭で袈裟服の男。
二つ名といい、経歴といい、如何にもな強者感が漂っている。
こんな男に橋を塞がれていては、そこの住人は嫌だろうなぁ。一応辻斬りということなので、夜限定かもしれないが、なんとも迷惑極まりない話である。
個人的には、一刻にも早く、騎士団みたいな治安部隊を派遣した方がいいと思う。
「二つ名の通り、999本の武器を集めた所までは良かったのだが、真隣に新しい橋が出来た為、身一つでは成果が挙げらず大台に乗せられなくなったとのこと」
「……橋に邪魔者がいるなら、別の橋を作ればいいじゃない。的な? それはまた、冗談みたいな解決法を取ったわね」
「何故、人は橋を作るのか」
「貴方が邪魔だからでしょうね。一度じっくり自分の胸に当てて、考えてみなさい」
私のツッコミに少しションボリする橋野郎。
初対面のツッコミにしては言葉が荒かったかったかな? 次からは気をつけよう。
「次。その隣におられるのが、『迷霧』サイツツ殿。この方は、辻斬りを始めて早四十年の大御所であられる。今までに斬った数は優に万を超えるとか」
「ほっほっほ、そんなになるかの。もう正確な数は思い出せんの」
朗らかに笑う老人。
皺の入った顔の奥にある瞳は鋭く、見つめられると自然に唾を飲んでしまった。
辻斬りのベテランの圧というものだろうか、こう向かい合って座っているだけで、いつ斬られてもおかしく無い気がする。
さっきの橋野郎に比べて、断然コッチのヒトの方がヤバい。
辻斬りとか、そんなレベルどころか大量殺人鬼じゃん。
騎士団とかを指揮している偉いヒトー、なんで野放しにしているの、早く捕まえて!
「お嬢さんも困った事があれば、いつでも儂に声を掛けなされ。儂に切れぬ、看板などないからの」
「はい……ん? えっ、なんて?」
「儂に切れぬ看板は無い」
「かん、ばん……さっき万は斬ったって」
私が恐怖で顔を青く染めフリーズしたが、想像外の単語で再起動。
理解が追いつかないので、目をケンザブローへと向ける。
「うむ。サイツツ殿は、辻に設置している看板を斬って道行く人を困らせる辻斬りであらせられる。それ故に人々は濃霧に入り込んだように迷ってしまうのだ」
なるほど大量殺人鬼ではなく、分かれ道とかに置いてある看板を切って回る、傍迷惑なクソジジイという事か。
さっきの橋を塞いでる橋野郎も大概だけど、こっちはスマホとか無い世界で道案内の看板を壊すとか、普通に困るから誰かなんとかした方が思う。
とりあえず、
「……辻斬りってそういう意味じゃないからね」
「ほっほっほ」
辻斬りの概念がおかしいのだけ指摘しておいた。
何やら『辻斬り同好会』の雲行きが怪しくなって来た。
これもしかして、ヤバいというより変なグループ?
「さて三人目であるが、この方は『不屈のナンパ師』ヒューチャ殿。各地の辻で老若男女構わず、引っ掛けるが、未だ全敗。しかし決して諦める事のない頑固な汚れのような男であらせられる」
「おーーい、辻斬り要素はどこ行ったー」
「よろチク〜。お姉さん、かわうぃいね? どうこの後、アバンチュールでも」
「ごめん、無理」
色々言いたいが、一つだけ。
辻斬りじゃなくて、振られてる側じゃないかい。
「なる、ほど。ねぇ、ケンザブロー、これなんの集まりだっけ?」
「辻斬り同好会だが……」
「そっか、そっか。うん、今日から、おバカさんサークルに改名した方がいいわよ。そっちの方が似合ってるし」
「いや、それは……」
ここに来るまで、名称にビビらされたのに少し腹が立つ。
ここにいる全員通報したらいくらぐらい報奨金入ってくるのだろうか。普通に迷惑な連中だし、次お金に困ったらやってもいいな。
「これで全員? もう私、帰って良い? なんの役にも立ちそうにないんだけど」
あのスライムを楽に倒せる必殺技の一つや二つ転がっているものだと思って来たけど、目論見が外れたようだ。
あの橋野郎がギリなんか凄い技、使えそうだけど、私の言葉にショックを受け立ち直れないのか、私の方を全然見ないしコミュニケーションが取れそうにない。
そんな酷い言葉だったかな?
「いや、今日はもうお一方……いつも会合の時刻丁度に姿を見せられるので、もうすぐ……」
「いいわよ。どうせ、そのヒトも、なんちゃって辻斬りでしょ? 私、今日の宿も確保出来てないし、さっさと街に戻らないと野宿になるのよ!」
ケンザブローの静止を振り切って、私が立ち上がり出ていこうとした、その時。
ガラガラと扉が開いた。
「なんだい、今日は皆んな早いじゃないか。ん? そいつは、新入りかい?」
「おおっ、ベローチェ殿。待っておりましたぞ」
そう言いながら姿を現したのは、鼻の尖った老婆だった。
老婆といってもヨボヨボではない。健康的な凛とした立ち姿に、長い白髪を後頭部で纏め、その上重そうな金属鎧を纏っている。
恐らく、この人物がケンザブローが言っていた最後の辻斬り。
その鎧には、何やら血のような赤いものが付着しているので、さっき人を斬って来ましたよ感は満載。
だけど、この辻斬り同好会、名前負けしたおバカさんサークルなので、きっとこのノリで行くなら……そう、あの赤いのはトマトの残骸で、辻で調理して販売する料理人といった所かな。
「偉く派手にやったじゃない。貴方、(料理)下手くそなのね、今度刃物の使い方を教えてあげましょうか?」
私は少し小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、推定料理人に近づく。
「……ほう、アンタがあたしにかい?」
「えぇ。私も自慢できる方じゃ無いけど、貴方よりかはマシだろうしね。こんなに鎧を汚しちゃって、まぁ」
私は軽口を叩きながら、老婆の鎧に付いた赤い液体を指でなぞる。
掃除をしてない部屋の埃を取ったように、鎧本来の色である銀が顔を見せる。
「それで貴方が、このおバカさんサークルのトップとか? なら貴方にも言っておかなくっちゃね。さっき皆んなの話を聞いて思ったんだけど、辻斬り同好会じゃなくて、おバカさんサークルに名称チェンジした方がいいと思うのよ。ほら、この名前に勘違いするヒトもいるだろうし」
「…………」
老婆の威圧的な赤い瞳が私を捉えるが動じる事は無い。
どうせ、なんちゃって辻斬りなのだ。ビビるのも馬鹿らしい。
「く、クラリム殿ォッッッッ!」
「なに? 皆んな、そんな顔して、皆んなも本当はそう思ってるでしょ? ハッキリ言わないと分からないわよ。それにほら、ケンザブローだって、夜間に襲いかかって来たけど、剣使ってないし『辻斬り』ではないでしょ?」
私が口を開くごとに顔を青ざめる同好会メンバー達。
ケンザブローはスッと立ち上がると、震えた手で私を引き寄せ、耳打ちで話しかけて来た。
「この方は『騎士狩り』ベローチェ殿。とある騎士の国を一晩で滅ぼした伝説の辻斬りで、今でも騎士道に反する騎士を見かければ、その場で首を落とし回っている故、懸賞金長者番付でも上位に名を連ねていらっしゃられるのだ」
「……………………………………………………はい? 国を滅ぼした? いや、えっ、料理人じゃなくて?」
額に汗を浮かべた胴着の男の頭がカクカクと上下に揺れる。
なるほど、モノホンかー。
「じゃあ、この赤いの……もしかしなくても」
自分の指に誰のものかもしれない血が付いている事に気付いたので、コッソリとケンザブローの胴着に擦り付けた。
あの老婆の赤い目が私を永遠と見つめているのはなんでだろう。
あっ、そっか、私、色々言っちゃったからかー。
あー、私、死んじゃう。神で不死身だから、死なないけど。
「それで……ケンザブロー、この新入りは何をしに来たんだい?」
死を悟って硬直した私に代わってケンザブローが一通り説明した。
すると、
「いいねぇ、いいねぇ。やり返しはあたしの領分さね。ちょっと待っておき、この会合が終わったら、面倒見てやる」
老婆に肩をバンバンと叩かれても私の硬直は解ける事は無く。
ヤバいのに目を付けられたぁぁぁぁ。
と少し前に放った言葉を後悔する思考の海に旅立つのであった。
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週3更新となっております。次回は金曜を予定しております。
更新をお待ち頂けますと幸いです。




