14-B スライム・リベンジ
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
私の1日は心地の良い鐘の音と共に目を覚ます。
「今日は良い1日が過ごせそうね」
いつになく目覚めはスッキリで気分が良い。
ふかふかの毛布の中から体を起こし、壁に架けられた時計を見る。
それもそのはず、時刻はお昼過ぎ。
どうやら私は今日の朝を生贄に捧げ、快眠を手に入れたようで、朝ご飯を食べ損ねたようだ。
「もう、お昼ご飯食べ始めちゃってるかな?」
食事時に食卓に座っていなかったら、その人物の食事は全てミークの胃袋に直行するのが、ヴァルデエランデ家のルール。
「流石に朝昼と食事を抜くのは辛いわね。このままじゃ、お腹ペコペコのまま1日を過ごすハメになっちゃう」
服を着替えたり等の身支度をしている時間が無いと思い、大慌ててでダイニングルームへと向かった。
「いやぁ、寝過ごした、寝過ごした! 今日の当番はストーナね。いやぁ、相変わらず美味しそうな香りが……」
寝坊助と怒られる前に料理を褒めるという高等テクニックを用いて、席に座ろうとしたのだが……座れなかった。
「ぇ?」
席が無い。
以前あった椅子が無いという物理的な消失ではない。
私の椅子に座っている誰かがいた。
その人物はそこが自身の定位置と言わんばかりに、食事を進めていたのだった。
「ちょっと待ってええええええい!」
私を取り除いた日常の風景に思わず大声を上げる。
「えぇぇぇぇ、誰! というか、何!?」
「むしゃむしゃむしゃ」
「貴方、手を止めなさい。その料理は私の食事よ! なぁに、ヒトの物勝手に盗ってるのよ! こんな堂々とした泥棒初めて見たわ!」
「むしゃむしゃむしゃ」
「ちょっと食べてないで、聞きなさいよっ!」
私の椅子に座っていた何者かの肩を掴み、こちらに向かせた。
「えっ……私?」
早くも3度目の驚きだった。
私の椅子に座っていたのは私と瓜二つの何者か。
ドッペルゲンガーでも見ているのかと思ったが、少し違う。
色。そう、この私の偽物は色が違う。
私の赤と白を独占したような色合いが、真逆の青緑と黒を独占した色合いに変わっていた。
「って、ゲームの2Pカラーじゃあるまいし……」
髪、服、靴等々、全ての配色が反転した存在に少し恐怖を覚えつつも、この異常事態をスルーしている者達に目を向ける。
「みんな、なんで平然と食事してるわけ! まさか気付いてないって言うんじゃ無いでしょうね! 大体似てるようだけど、どう考えても私じゃないでしょ!」
「いやァ、ま、なんか違ェとは思ったんだがよォ……」
「好き嫌いで料理にケチ付けねェし」
「噛んでも、怒らないし」
「静かだ」
「当分、こっちでも良いかなって」
「おい」
仮にも家族だと言うのに、この言い分である。
まるで普段の私が問題児のように言っているが、全員が全員問題あると思うので棚に上げないで欲しい。
「ダメだ。私がなんとかしないと……貴方、無視するのも良いけど、この家に侵入した目的でも話したらどうなの!」
「スラ、いむぅ?」
「……自己主張が強そうな鳴き声ね」
「『ニセモノ、デテイケ』って、言ってる」
「ミーク、今の言葉分かったの? ていうか言語なんだ」
コクリと頷くミーク。
「偽物? 誰が……私? いやいやいや、貴方でしょうーが! どんな嘘吐いてんのよ! いいから、私の昼食代置いて出て行きなさい!」
椅子から引き剥がそうとするが、机にしがみついて離れようとしない私の偽物。
「この! サッサっと出て行ってっよ!」
「スライ、ムュュゥ!!」
「ミーク、通訳!」
「『スベテニ、オイテ、カツ』って、言ってる」
「意味、分か、らん!」
「ぜぇぜぇぜぇぜぇ……リンドー、この偽物どうにかして」
普通に力負けして諦め、黙々と食事を進める男に助けを求める事にした。
「偽物? 何がだ」
「アンタの目は節穴かっ! この色違いどこをどう見ても、私じゃないでしょ!」
「色の違いなど些細な問題だ。単にクラリムが髪を染め変え、服のセンスを変えただけかもしれない。魔法で鳴き声しか出せなくなってしまっているかもしれない……それにオマエが本物だという証拠もない」
「スライ、ムすらいむ!」
庇われたのが嬉しかったのかリンドーに抱きつく、偽物の私。
「め、面倒くせぇ」
こんなにも一目瞭然なのに疑り深い。
これは林檎ですって言っても、梨を赤く塗ったんじゃないか? と言うんじゃないだろうか。
あと、恥ずかしいから私の姿形でリンドーに抱きつくな。
「ならば、どちらが本物か力を持って示せば良い。そうだろう破壊神?」
どうやら泣きつく相手を間違えたようだ。
誰が破壊神じゃ、誰が。
◇
そうして、奪われた食事をストーナから分けて貰い、身支度を整え庭に出た。
既に準備を整えていた私と瓜二つの顔で、意味不明な擬音を発する偽物。
準備運動をしているのかクネクネとあり得ない程、体を曲げては粘液を撒き散らしている。
うん、今更だけどスライムだ、アレ。
私が殲滅したスライム湧き場の怨念が、私の居場所を奪いに来たとでもいうだろうか。
そもそも、スライムって擬態とか出来るの?
「まぁいいわ。私に似た姿とはいえ、所詮偽物。この慈悲の女神である私との、格の違いを思い知らせてやるわ!」
相手がモンスターと分かれば手加減は必要ない。
剣を引き抜き構える。
「がんばれー、すらいむー」
「あのー、ミーク先生、間違ってますよ。スライムじゃなくて、私の応援しないと」
「でも、クラリムは、食べさせてくれないし」
ダメだ。このミミック、終始食べる事しか頭に無い。
ミークに変なものを食べさせない為にも、勝たなくちゃ。
「んじゃ、始めんぞォ〜。始め!」
審判役を買って出たストーナが、持っていた旗を振り下ろした。
「はぁぁ! 先手必勝!!」
私はクネクネと体を動かしていた偽物に切り掛かった。
武器が無いとか、準備中だとか関係がない。
倒せる時に倒す。それが戦士としての常識。
偽物は何をする訳でもなく、私の剣は肩から一直線に切れ込みを入れ、そして切り裂いた。
バックリと割れる私と瓜二つの体。普通のヒトならば内臓などが見えるようなエグい傷なのだが、偽物の内部は青の液状で、血も出ていないからそこまで悲惨ではない。
何にせよ致命傷。
勝利を確信し、剣を鞘へと収めようとしたのだが……偽物は倒れず、そのまま体を元に戻した。
「再生した? そっか、スライムなら核を潰さないと、いけないんだった」
スライムの核。
要はスライムにおける心臓のようなもの。趣味で狩りまくっているのに忘れていたのは、見た目が人型だからか。
剣に再度力を込め、核に狙いを定めようとしたのだが。
「あれ……どこに核があるんだろ」
普段のスライムなら、粘体がある程度透明なので核が見える。
しかし、この偽物は見た目がヒト。つまり、服や肌の色がスライムの内部を隠しており、核の場所が分からない。
「えーと、ここ?」
勘で取り敢えず左胸へと剣を突き立てたが、変化なし。
「じゃあ、ここ?」
引き抜いて右胸を貫くが、変化なし。
もはや、あるヒゲのオジサンの玩具で遊んでいる気持ちだった。
だが、それはあくまでも私の気持ち。
「スラ、イムゅ」
私にこれが命を賭けた勝負であると思い出ささせたのは、偽物は物悲しい笑みだった。
鳴き声と共に両腕が伸び、私を引っ張るとそのまま、
「いや、ちょ、待っ……がぽぽぽぽぽ」
偽物に抱きつかれ、粘液の中で溺れ勝負が付いた。




