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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第3章 最優秀ギルドアワー編
80/116

13-D 威心逸拳道場攻略法

 ウルメラの街から約二時間。

 自然豊かな山の中にそれはあった。


「帰ったか、ベルナデッタ」

「ははっ」


 大量の弟子達が壁際で控える中、中央で平伏する胴着の男ことケンザブロー。

 その真正面にいる白い髭面の男こそ、ここ威心逸拳道場の主にしてケンザブローを辻斬り格闘家に仕立て上げた張本人。


「ケンザブロー、ベルナデッタって呼ばれてるの……に、似合わわね」

「嫌なら名乗らないだろう。名乗っているという事は多少なりとも誇りに思っているのだろう。外野がとやかく言う事ではない。それとも何か、自分が慈悲の女神という自称が似合っているとでも?」

「失礼ね、似合ってるわよ! 後、自称じゃないわ!」


 おっと、変に付き合って声が大きくなってしまった。

 師と弟子の二人からは離れた位置に座っているのだが、威厳ある瞳から放たれた視線が私を捉える。


「して、其方達は?」

「あー、どうもー、慈悲の女神クラリムです! 無償の慈悲は現在品切れ、多額の報酬があって、楽そうだったら慈悲を恵んであげるからギルドまで連絡して」

「……リンドーだ」


「ベルナデッタ。この胡散臭い連中はなんだ!」

「師よ、そのことですが、実は拙者に課せられた試練について、一つ頼みがありまする」

「……ほう、試練を諦めた、ということか?」


 ケンザブローは顔を伏したまま、言葉を続ける。


「滅相もありませぬ。このケンザブロー=マサヨシ=ベルナデッタ。高みに手を届ける為なら、どんな試練をも達成する思いに変わりはありませぬ」

「ならば何故、戻ったのだ!」

「拙者が倒せしは十七もの猛者。しかし、百ともなると、到底足りませぬ。かと言って質が低い者を掻き集めたとて、意味がありませぬ。しからば!」


「残り八十三名分に匹敵する実力者を倒せば、良いと思った次第」

「面白い。だが、儂を納得させる程の猛者がどこにいる。後ろの二人か? 見た所、一人分にもなりそうにないが」

「おりまする。それは……」


 ケンザブローは顔を上げ、一点を見つめた。


「——師よ。貴君でございます。師よ、どうか拙者と看板を賭けて手合わせを」

「己が属する道場に道場破りを行おうなど、血迷ったか! ベルナデッタ!」


 道場の主は立ち上げると、ダンと床を鳴らし、ケンザブローを威圧する。

 しかしケンザブローは怯える事なく、視線を逸らさない。


「この神聖な威心逸拳道場で、放つ言葉、嘘偽りがあってはならぬ。取り消せぬぞ。ベルナデッタ」

「勝負は明晩。ここに来る道場破りとの勝負! 師よ、負けた時に備え、しかと看板を用意しておかれよ」

「よかろう。お主が勝てば、看板でも免許皆伝でも何でもくれてやる。但し負けたとなれば、破門だけでは済まぬぞ。道場の下働きとして一生こき使ってやるからな。覚悟しておけ」


 怒り筋を浮かべた道場の一門に見られる中、私達は道場を後にした。


「ほーら、とっ散らかってる。とっちらかってるよー。百人斬りの条件を緩和して下さいとか、良い相手を紹介して下さい、とか思うじゃん。なーんで、師匠を倒すって話に、道場破りするって話になってんのよ!」

「簡単な話だ。どんな試練でも、試練を課した者を倒せば試練が無くなり、実質試練を達成したことになる」

「ならないわよ!」


 そんな無茶苦茶な理論、どこの神話でも聞いたことが無い。

 大体試練を出すのは神なので、それを倒すとなったら神殺しだ。

 わけがわからない。


「しかし、ああも啖呵を切ったものの、師は難敵。拙者程度の腕では逆立ちしたって勝てますまい」

「うん、そうね。教えを乞う側だもんね。勝てたら、下剋上とかそういう話だからね、これ」

「安心しろ。策は練ってある。何も問題が無ければ、赤ん坊だろうと、あの老人を倒せるだろう」

「そうですな。あの策ならば、負けるはずがない」


 相手の実力も見ずによくそんな余裕を持てるわ。

 と思いながら、私達は山を降り、近くの民宿に泊まり豪遊した。

 これは経費なので、後でケンザブローに請求する予定である。



「まったく、ベルナデッタめ、何を考えておるのだ」


 道場破り宣言から約半日。もう日も暮れかかり、腹が鳴く頃合い。


 威心逸拳道場の主は自室で、拳を柱に叩きつける。

 道場全体を揺らす程の剛拳。

 何度も何度も打ち付けたい気持ちだったが、道場を壊してしまいそうだと我に返り、拳を治める。

 しかし、頭の中は怒りが渦巻いている。


 そんな中、


「師匠。お休みのところ失礼致します」

「なんだ!」


 大きな駆け足と共に入って来たのは、弟子の一人。


「それが、その……」

「なんだ、ハッキリ言わんか! 今、儂は苛立っておるのだ! 見てわからぬのか」


 左手に右拳を当て、大きな音を轟かせる。

 それが自分に当たったら、という妄想を抱かされた弟子は顔を真っ青にしながら、理由を話した。


「はっ、はい。それが道場破りをしたいという方がいらしてまして、どうしたものかと……」

「ベルナデッタか? 明晩と言っておきながら、すぐに来るとは巫山戯ておるのか! よいわ、この苛立ちをぶつけてやろうぞ。直々に手を下してやるから、稽古場で待たせておけ!」

「……ですが」

「何度も言わせるな! お主にも我が魔拳喰らわしてやろうか!」

「はっ、はいーー」


 一目散に駆けた弟子の一人を見送り、道場の主は胴着を纏い直すとドスドスと怒りを足音に変えながら稽古場へと戻った。


「ベルナデッタァァァ! 覚悟しろぉぉぉ、道場破りめ、この儂が相手だ……お?」


 稽古場に入った道場の主の目に映ったのは、大量の弟子……をも超えるヒトの群れ。

 百人は雑魚寝出来そうなくらい広い稽古場をギュウギュウにする程であり、溢れたヒトは外で屯っている。


「来たぞ! 威心逸拳道場の師匠だ!!」


 その全員が道場の主の到来に騒ぎ始める。


「……これは、いったい? 何事だ」

「それが、こんな物がこの辺りの街で出回っているようでして」


 近くにいた弟子から渡されたのは一枚のチラシ。


「威心逸拳道場の主を倒した者に五百万マニエ……だとぉぉぉぉ! なんだ、コレは!」


 弟子達がボーディーガードのように抑える群衆の中、一歩前に出て、姿を現す人物が。

 現れたのは、濃紺のローブを身に纏った男。

 その人物を道場の主は知っていた。何故なら、先ほど、弟子の一人が連れて来た人物であったのだ。


「道場破りとの勝負。まさか、この神聖な威心逸拳道場で放った言葉。嘘偽りがあるわけないだろうな?」

「む、むぅ」

「相手をしてもらぞ。ここに来る道場破り、その全員と」


 ギュウギュウ詰めのヒト、外にも並んでいるヒト、遠くに見える山を登って道場に向かってくるヒト。

 その全てが道場破りであることを知った道場の主は、先程の弟子よりも更に顔を青く染めるのだった。



 エンドレス道場破りが始まったのは夕方、そこから丸一日後。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」


 傷だらけの拳をダランと垂らし、体の至る所に傷を負い、目にクマを付けた男が喉を枯らし立っていた。

 一日前の威厳ある白い髭面の男は、救助を待つ無人島の孤独な老人の様に疲弊していた。


「流石は由緒名高い威心逸拳道場の主。千人を相手に飲まず食わず、寝もしないで戦い続けるとは……だが、時間だ」


 道場の外に山のように積まれた挑戦者。

 それをチラリと見つつ、道場の壁際に立っていたリンドーは道場の外から来る次なる道場破りに目を向けた。


「師よ、よもや卑怯とは言われませぬな。このケンザブロー=マサヨシ=ベルナデッタ。両親の恩に報いる為、悪魔にも鬼にもなりましょうぞ」


 登ったばかりの月を背に快眠、満腹、準備万端の胴着の人物が姿を見せた。


「ふつーに、卑怯だけどね」


 私も民宿でのんびりした後、夕方始まりくらいから一部始終を見ていたが、もうこれしか感想が無い。

 というか、五百万に釣られたミーハーな武闘家から、高名な武闘家まで揃ったオールスターを相手に永遠と戦い続けてた、この道場の主が怖い。


「ぐぬぬぬ……」


 熊の呻き声のように、腹の底から恨めしそうな音が響く。

 一睡もせず徹夜した次の夜とか、もはや何もせずとも気絶しそうなシチュエーション。


「よかろう。この道場で、迂闊な事を口走った儂が未熟だったというもの。認めよう、儂の負けだ。その免許皆伝を持って、どこへとなりとも行くがいい」


 先に拳を下ろしたのは道場の主だった。

 自分が育てた弟子の実力を分かった上での決断だったのだろう。


「師よ。お世話になりました」


 ケンザブローは少し後ろめたさが残っている感じだった。

 いくらなんでも卑怯過ぎた、とでも後悔しているのだろうか。

 

 長い時を一緒に過ごして来た思い出等があるのだろう。

 二人を包み込む感情は私には理解することが出来ない。


 そうだ、今は実力が足りなくてこんな事になってしまったけど、またいつの日か強くなって戻ってくればいいのだ。

 納得するまで挑戦し続ければいい。それだけの時間がケンザブローにはあるのだから。


 こんな風に私は私でまとめに入っていると、リンドーは道場に架かっていた荘厳な木の板を外し始めた。


「待て、待て、待て! おい濃紺の! その看板をどうするつもりだ」


 力尽きて、突っ伏しそうになっていた道場の主は飛び起き、リンドーに掴み掛かった。


「売る。ウルメラの道場破りサークルがここの看板を欲しがっていたからな。七百五十万で買い取ってくれるそうだ」

「はぁぁぁ? お主に何の権利があって、そのような事を!」

「ケンザブローは道場破りだと言っていただろう。それにお前も負けたら看板を持って帰っても良いとも言っていた。俺にはケンザブローの依頼の対価として、これを受け取る権利がある」

「どうか、どうかそれだけは」

「ならば、取引だ。この道場に保管されているルクメリア永世王国の国宝の本があると聞いた。それと交換なら、看板は返しても良い」


 道場の主を徹底的に潰す、ド畜生がそこにはいた。


◇エピローグ


 道場での一悶着が終わり、ウルメラの街に戻って来た私達は馴染みの大衆食堂で打ち上げをしていた。


「お二方、ありがとうございました。この免許皆伝の証さえあれば、両親も喜んでくれるはずです。このご恩は、いつか必ず」

「あはは〜、うん、まぁ、両親に経緯は説明しない方がいいわよ」


 あんまり詳しくは聞いてないが、あんな卑怯な手で免許皆伝を勝ち取ったとならば、ケンザブローの両親はおったまげるに違いない。


 胴着の男は礼を言い、私にそこそこの報酬を払うと去っていった。


 結局私がした事と言えば、色んな街に向かう馬車に乗り込み、ビラをばら撒いた事くらい。

 今回の作戦の功労者は、懸賞金に釣られた武闘家達なのだが、勝てなかった彼らには一銭も入って来ない。


 免許皆伝をゲットしたケンザブロー、金を得た私、そしてリンドーはと言うと、看板と引き換えに国宝の本を手に入れたのだった。


「アンタ、最初からその古本が目当てだったんじゃないでしょうね?」


 ペラペラと古びた本を捲りながら、優雅に紅茶を啜るリンドー。

 口を開いたのはデザートが運ばれた時だった。


「ケンザブローと出会う前、とある古本屋に立ち寄ったのだが、店長は盗まれた古本が何故か威心逸拳道場にあると言っていた。あの道場の主が盗んだのか、回りに回って偶々流れ着いたのか、詳細は知らないが、最初から、あの道場に目をつけていたのは確かだ」

「なるほどね。その古本屋さんの為に、人肌脱いだって訳ね。もう、慈悲の女神より、慈悲を与えたらダメじゃないのよ〜」


 私が戯けて、つっつくと心底不思議そうな顔をリンドーは浮かべた。


「いや、返さないが」

「えっ?」

「本屋で買えないと分かったから、道場から正当に買っただけだ。店主とは関係がない」


 そう、さも平然とそう語る、この男はやはり変わっているようだ。

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