2-D 魔王面接後半
笑顔が似合う好青年が緑肌の老人に連れられ、入ってくると、素直に椅子に座った。
「よろしく頼む!」
「あー、第三の眼があるタイプね。額がベターだけど、腹にどデカい目があるタイプ。いや、さっきの引っ掛け的に、肩。そう肩に第三から第四くらいの邪眼が埋まっているわ」
私の勘がそう言っている。
私は面接ではなく、何の魔族でしょうクイズを楽しんでいた。
「こっちは気にせず、自己紹介を」
「ベードラック王国出身、ルクスだ」
ん? その国には聞き覚えがある。この世界のガイドブックに載っていた気がする。
「得意なのは、剣と攻撃系の魔法かな。自分で言うのもなんだが、結構なんでも出来ると思うぜ。例えばそうだな。彼処の山を見ててくれ」
彼が指で示したのは、魔王城から一番近い山。
腰に下げた剣に手を当てる。
「ベードラック王国剣技、不撓断斬」
そう呟くと、剣を下から上に斬り放った。
次の瞬間。
スパンと、捻りのない言葉通りに山が真っ二つに断ち切られた。
当たり前のように、斬撃を飛ばす好青年。どこかの誰かのレーザー兵器が異次元で、少し凄みに欠けるが、剣振っただけで、山が真っ二つというのは規格外ではないだろうか。
「おおー、すごーい」
「今のは斬撃を飛ばす俺の必殺技の一つさ。自慢じゃないが、ベードラック王国剣技は免許皆伝貰ってんだ。もちろん魔法も使えるぜ」
「ほう、魔法」
飛ぶ斬撃を見ても無反応だった、魔法使いの男の目が輝いた気がした。
「火水風土は基本として雷に木だろ。あとは短距離の連続転移も出来るぜ。昔は軍を仕切ってたこともあるし、自信もある。だから俺を魔王にしてくれ!」
「えっ、すご。マジでパーフェクト人材じゃん」
好青年は剣を納めながら、自慢げに語る。
最低限の礼儀、山を斬る程の強さ、魔法に長け、軍を指揮できる知性、そして何よりもやる気。四拍子揃った逸材だ。
これは三人目にして、決まったかな。
「……そうか」
なんで残念そうにする。アンタが聞いたんだろ。
魔法使いの男は、好青年が魔法を語り終えるとすぐに興味を失っているようだった。もっと凄い魔法を期待したのだろうか。
「最後、魔王になろうと思ったきっかけは?」
「それは……」
魔法使いの男からの問いかけに詰まる好青年。
すると、顔を下に向けるとカタカタと揺れ始めた。
準備していない質問に動揺するタイプかな?
「緊張しなくて大丈夫。何でもいいから理由言った方がいいわよ」
「オレは昔、勇者だったんだ」
んーーーー。ん?
好青年の声色が変わった。
「冒険者仲間から追い出され……勇者候補に祭り上げられ……元の肉体と名前を捨てさせられ、無理矢理王族の名前と容姿を与えられた。そして、王から与えられた仲間という名の目付役が四天王に負けたオレを……」
闇を吐いている、彼の目は三徹目のようにガンギまっていた。
「……復讐してやる。俺を墜れたあの悪魔共を! オレに天性の才能があるのを妬んだアイツらは、オレの寝込みを襲い全てを奪ったアイツらを。やるなら、徹底的にだ。だから過剰なまでの戦力が必要なんだ。だからオレにくれよ魔王軍をさぁ!」
「……………………あー、やっべぇのエントリーしてる」
あっ、私、知ってる。コレ復讐系ってやつだ。なんでそんな奴がエントリーしてんのよ。バカなんじゃないの? 言うならば、『最強の冒険者パーティから追放された俺は、転生し勇者となった後、裏切られ復讐する為に魔王になる』ってところの最中なのだろう。
「……そもそも魔族じゃないじゃん」
魔王の面接なのに、人族が応募しているのが、まず問題だということを理解して欲しい。
書類審査があったら、一発でアウトだよ。
「そうか……次」
この魔法使いの男、感情が搭載されていないのかな。
あまり良い反応が無かったからか、復讐系好青年は荒ぶる感情を飲み込み、大人しく出て行った。
「思ったよりガチ理由で私、引いちゃったんだけど。今の見ると、さっきの二人、志望理由もうちょっと考えてきてよってなるわね。どうすんの? もうなんか可哀想だし、今の子でいいんじゃない?」
「……」
無視。
これ、今更だけど、私に決定権あるのだろうか。
まぁ、とりあえず五人見終わってから聞こう。
四人目。
「我こそは! 音に聞こえし大英雄にして、世界を千度救った男! ブレメン=ローマイアラ=ベルド=ヲン…………」
「出来ること? もちろん、何でもだ。この我に出来ぬことなどない。神を愛し、愛された奇跡の我に不可能の文字は無い! 言うなればゴッデスオン……」
「そう、言うなれば運命だったのだ。我が魔王にな……」
二時間後。
「すみません。名前はジンペです。長所は……無いです。強いて言うなら、用事が無くても朝起きられます。魔王になろうと思ったのは、今まで働いたことがなくて、どうせなるなら一番自分から遠いものになろうと思ってみただけです、はい」
先程と打って変わったように必要最低限かつ事実のみを話す。
この蝙蝠翼を持つ青年の自慢に似た自分語りに付き合った、こっちもこっちだが、魔法使いの男の容赦無い無言が彼の殻を砕ききった。
「次」
「……可哀想かよ」
最初掛けていたサングラスをいつの間にか外していた、蝙蝠翼の青年は軽くお辞儀をして外に出て行った。
これまで通り、面接室までの案内役を務めていた元魔王の側近ベシュッドは、最後の一人を扉を半開きにし、体の半分だけ、部屋に入れた。
「最後の一人なのですが……」
モジモジと声色を変え、躊躇うベシュッド。
「さっきの四人以上に、躊躇う要素があるの?」
「構わない、通せ」
「……は、はい。では、次の方、どうぞ」
脳筋パワー男、財産目当て蛇女、復讐系元勇者、厨二自宅警備員。
マトモな奴を見た記憶が無いのに、これ以上となると、想像が付かない。
とりあえず、身を守ることを最優先に置きながら、待つ。
「こんにちわー!」
明るい声で入ってきたのは十二、三歳くらいの少女だった。
羊のような角をクルクルと頭に生やした可愛らしい印象の少女。
「マキシー村から来ました! ベルーニャ=ウッドバーグです! 得意な事はパンを作る事で、将来の夢はパン屋さんです!」
今までと違った静けさに包み込まれる青空面接室。
少女は新魔王の面接には相応しく無い笑顔を浮かべていた。
思わずベシュッドの方を見ると、ねっ、て顔をしていた。言いたいことは分かってしまった。
「ここパン屋さんの面接じゃ無くて、新魔王の面接会場だけど、場所間違ってない? 大丈夫?」
「いえいえ、合ってます! 合ってます! パン屋さんになる為に私、魔王になろうと思ったんです!」
どうしよう話が噛み合う気がしない。
「実はウチのお姉ちゃんが魔王軍で働いてるんですけど、毎日食べる配給が美味しく無いって愚痴ってたんです。それなら、私がなんとかしてやろう! って思ったんですけど、小さい時から夢だったパン屋さんの夢は捨てきれなくて……そんな風に悩んでいた時に、この募集を見て、あっ! それなら、魔王になって、魔王城でパン屋したらいいんだって思ったんです」
「おっ、おー」
「多分、魔王になったら、魔王城の営業場所の許可とか要らないですよね」
「……うん、それは、きっとそうだと思うけど」
すごい。点と点を一本の線で結ぶんじゃなく、間に星とか書いちゃう子だ。
校長先生なら食堂のメニューを好物だけにするとか、そういう話だろうか。出来るけど、やったら、猛反発を喰らうこと間違いなしだが。
「なるほど、本業はあくまでパン屋で副業に魔王ということか」
「そうですそうです! 最終的には全世界のヒトが喜んでくれるパン屋さんにしたいです!」
とりあえず、その目的は魔王になったら叶わないんじゃないかな。
「分かった。追って結果は報告する。戻ったら、他の連中にも暫く待っているよう伝えてくれ」
「はい、分かりました! よろしくお願いします!」
と、明るくハキハキした声で挨拶を残し、パン屋ちゃんは出て行った。




