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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第3章 最優秀ギルドアワー編
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13-C 辻斬り格闘家の憂鬱

 結局、急な襲撃もあり行きつけの大衆食堂で食事を取ることにした。

 いつもなら四人での食事なのだが、今日はもう一人。


「介抱して頂いたばかりか食事まで……この恩はケンザブロー=マサヨシ=ベルナデッタ、決して忘れませぬ」


 口元に食べかすを付けながら、涙を溢す胴着の男。

 なんでも、金欠で牢屋で過ごしていた日以外は食事を抜いていたらしい。


「あー、はいはい。分かったから。で、貴方、一体何がしたいのよ」

「むぅ、それは……」


 気難しそうに顔を顰める胴着の男。

 言いたくないというより、言っても仕方ないと言った顔。


 正直、私には何の被害も訪れてないから勝手にしてくれと言う気持ちなのだが、やはり慈悲の女神としては、こう言ってあげるのがいいだろう。


「悪い事言わないから、リンドーを付け狙うのは辞めておきなさい。下手に関わると碌でもないから」

「それは、本人がいる前で放つ言葉かァ?」

「事実なんだから仕方ないでしょ。ストーナ、貴方も思い当たる事くらいあるでしょ」

「まァなァ」

「ミークは、たのしいよ」

「……何事にも例外は付き物。大体は碌でも無いと思ったらいいわ」


「うぅむ確かに、恩を受けた以上、変な魔法使い……いやリンドー殿を狙うのは辞めにせねばならんな。となれば、話をしても良いか」


 胴着の男は何か独りで納得し、大きく頷くと、経緯を話し始めた。


「実は拙者、とある道場で高みに至る為、修行をしているのだ」

「へぇ、どこ?」

「威心逸拳道場という古くから伝わる由緒ある道場だ」

「ふーん」


 聞いておいて何だが、この街の道場とか一つたりとも知らないので、何を挙げられてもこの反応しか出来ない。


「あァ、街の外にある山にあるトコだよなァ。毎年何十人も弟子入りしてるとかいう」

「うむ。我が道場では、ある一定の実力に至ると試練が与えられるのですが、達成出来なければ破門。この六年余りを無に帰す事となる」


「なんか、その道場にしか無い凄い技を覚えたら、免許皆伝! みたいな感じじゃ無いんだ」

「……その試練とは何だ」


「拙者が師匠から出された試練は、高名な実力者を100人倒すこと」


 百人斬りするまでは帰ってくるな、という感じか。


「うーん、傍迷惑が過ぎるでしょ。貴方っていうより師匠が問題児ね」

「うむ。だから、逆恨みを避けるよう、拙者が倒すかもしれない者にはこの事実を知らせぬよう口止めさせられていたのだ」


「この試練、何が大変かというと百人の実力者を見つけ出すことが困難なのだ。師匠が納得するような実績がある強者などそう多く無い」

「所属している辻斬り同好会や道場破りサークルの情報を持ってしても、倒した実力者は十数名。通報され、道場破りも出来ず、困り果てていた時」

「寄ったパン屋の店員から貴君の噂を聞いてな。魔王を倒した高名な魔法使いを倒せば、五十人分くらいになるのではないかと思ったのだ」


 なんか、一部聞き慣れない単語があったけど置いておこう。関わり合いたくないし。


 リンドーが前魔王を倒したなんてコアな情報がもう出回ったのかと思ってたけど、噂の出どころは薄紫巻角女か。アイツ、パン屋ちゃんに絆されて改心したと思ってたけど、懲りて無さそうだな。後でパン屋ちゃんに手紙でチクっとこ。


 それはそうと、


「何堂々と楽しようとしてるのよ。試練ってそういうものじゃないでしょ。私、全然こういう強さの高み? みたいなのがどうって分かんないけど、それに至るには、こうなんというかこう、あーしてみたいな……」

「何言ってんだァ……まぁ精神的にも強くならないとならないから、楽に逃げているようじゃダメじゃねェのか?」

「そう、それ! ナイス通訳、ストーナ」


「正直に言うと、拙者、高みに至りたいという気持ちなど一切ないのだ」

「は?」


 胴着の男は、あっけらかんとそう呟いた。

 思わず、一文字漏らしてしまったが仕方ないだろう。


 さっきと言っている事、違うじゃん。


「我がベルナデッタ一族は、代々威心逸拳道場で武芸を磨いてきた。ベルナデッタ一族の男児たるもの、威心逸拳の奥義を使えなければならぬというのもあるが、ここまで大きく育ててくれた両親の為にも、諦めるわけにはいかんのだ。その為なら、師匠にバレぬ限りは何をしても良いと考えている」

「目的さえ達成できれば、経緯などは気にしないという考えか。実に共感に値する考え方だ。その心を忘れずに励むといい」

「アンタは何目線なのよ」


 ミークとデザートを選んでいたリンドーが食い付いてきた。

 リンドーは、どこかシンパシーでも感じたとばかりに、胴着の男を見つめる。


「その試練、どうしても成し遂げたいのか?」

「無論。それが拙者唯一の望みであるからして」


 五人が囲む机に静寂が訪れ、私とストーナのジト目がリンドーに向けられる。


「ならば、その願い手伝ってやる」

「誠か! お頼み申す!」


 ガッチリと握手を交わす二人。


「あー、そういや、これから騎士団で会議があるの忘れてたわァ。んじャ、金はここに置いておくから」

「そうね、急ぎましょ。今日の会議は大事な奴だもんね!」

「……いや、クラリムは呼んでねェから」

「話合わせてよ〜! 道場とか、絶対、肉体労働系じゃん! シンドイ! 死ぬ! メンドイ!」


「クラリム、報酬金は全部やるが、どうする?」

「ふっふっふ。私を誰だと思っているの? 慈悲の女神クラリム! 困っているヒトに助けの手を授けるのは当たり前なの! ドンと豪華客船に乗ったつもりで任せなさい!」

「……現金な奴だなァ」


「おかわり。苺卵無花果アイス、ひゃっこ」

「……ミーク、お腹壊すから、一桁減らしなさい」


 これが、四回目の注文であった事を知ったのは、無限ループのように置かれていくアイスの群れを見続けて五分が経った時だった。

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