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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第3章 最優秀ギルドアワー編
78/116

13-B 辻斬りの対処法

 数日後、晩。

 急に呼び出されたパン屋で働かされた帰り道。

 普通に客としてミークの好物を買いに来たと言うリンドーと帰っていると、


「変な魔法使い殿、また会ったな」


 住宅が密集しているエリアで、例の胴着の男が仁王立ちしていた。


「この前のようにはいかん。この場で正々堂々勝負しろ」

「いいだろう。相手になってやる」


 リンドーは一歩前に出て、拳を固める。


「やるなら本気だ。心の底から気合いを入れて掛かって来い」

「あぁ! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「そうだ、その意気だ。もっと腹から声を出せ」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「お前の限界はそんなものか、死ぬ気で叫べ」

「ぐぅぅぅぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 ガラガラガラ、バンッ。


「ウルセェぞ! 今何時だと思ってるんだ!!」


 気合いを入れて、大声と共にリンドーへと襲い掛かろうとした胴着の男に雷が落ちた。


「けほっ、けほっ。いや、拙者はただ武人として気合いを入れて」

「あぁん、だからって夜中に大声出して良い訳がないよなぁ! ふざけてんのか、テメェ」

「普段はこんなに五月蝿くはないのだが、この男が…………いない」


 胴着の男が騒音でキレられて、意識が逸れた隙にコッソリと私達は家に帰った。



 またまた数日後、昼。

 いざ昼飯を作ろうと、台所に立って気付いた。

 そこにあるはずのものが、ない事に。

 家に買い置きしておいた食材、その全てが寝惚けたミークの腹の中へと収められていたのだ。


 ということで、ミークもストーナも揃って四人での買い出し中。


「おなか、すいた」

「……食べたばっかじゃん。私達の方がぺこぺこよ」


 進んでいたのは、細い路地。

 如何にも、辻斬りが出そうな雰囲気の場所。


 ただ夜じゃないしなぁ、と思っていたが、


「変な魔法使い!」


 やっぱりと言うべきか、いた。

 目にクマが出来、毎度見るその胴着はズタボロで、痩せ細った男。


「……出た」


「あんまり、おいしくなさそう。28点」

「うん、ミーク、まずヒトを食べちゃダメだからね。点数も付けちゃダメだからね……因みに私は何点?」

「50点」


 点数はミミックから見た目の美味しさなのだろう。

 100点とか言われたら、毎夜襲われるかビクビクしないといけないと思ってしまうが、50点は50点で、もう一声と思ってしまう。


「なんだ、クラリム。知り合いかァ?」

「私ってか、リンドーの……」


 ストーナから向けられた視線をそのまま、リンドーへと流す。

 リンドーはチラッと胴着の男を見た後、まるで自分は関係ないですよっと言うみたいに、外方を向いた。


「良い加減にちゃんと勝負をしないか! 何度も何度も計りおって。拙者は貴君に相対する度に牢に入り、心も体もボロボロになってしまったではないか!」


「じゃあ、辞めたらいいじゃない」

「やらねばならぬ、理由があるのだ。辞められん」


「なるほど、コイツが前言ってた辻斬り格闘家ってやつか。ラクロットの野郎が、毎度毎度牢屋に引っ張ってってる間抜けはよぉ。いいぜぇ、その辻斬りアタシが買ってやんよォ」

「なんでそんな楽しげなのよ」

「最近、書類仕事が多くて肩凝ってるんだァ。ここいらでガッツリ運動しときてぇだろ?」


 邪険にされ憤る胴着の男の前に出たのは、その言葉遣いと同様荒々しい金髪のストーナ。


 胴着の男は、ストーナを頭から足の爪先まで見て、一言。


「断る!」


 と叫んだ。


「なんで?」

「それは出来ん…………テガハダニフレタラドウスル」


「えっ、なんて聞こえなかったんだけど」


「手が肌に触れてしまったら、互いに良い気はしないだろう、と言ったのだ」


 意外と紳士的な発言。

 脳味噌空っぽの戦闘狂いかと思ってたが、そういう気遣いが出来るヒトなんだ。

 ちょっとウブな感じなのも、ヒトによっては好感度高そう。


 やる気満々だったストーナは嫌みたいだけど。


「であるからして、女子の肌に触れるのは、まず手を繋ぐ所から。出会って数年は必要だろう。次は仲睦まじくなった後、互いを知り合って十数年立てば、海へ赴き肌を見せ合う。そしてもう二十年程してから寝床へとだな」

「なんなのよ、その将来設計、もはや怖いわ! 一工程にそんなに時間掛けてたら、すぐにお爺ちゃんになっちゃうわよ」


 前言撤回。

 何事もやり過ぎはよくない。この男、お爺さんになってから若い女に手を出してやらかすタイプではないだろうか。

 もじもじと体を揺らしているのが、もはや気持ち悪い。


 まぁ、そういう事で結局この辻斬り格闘家を満足させるにはリンドーしかおらず、一同の目はリンドーへと向けられた。


「こう何度も付き纏われても面倒だ。いいだろう、ケリを付けよう」

「二言は無いな」

「あぁ、俺の魔法を見せてやる」


 胴着の男がファイティングポーズを取り、リンドーは詠唱を始めた。


「終わった星の下、嗤う破壊者はもういない。忘れ物は無くとも、幼き日の切望は去る。ならば永遠に続く夢の続きを見せよう。トロマ・イポスブリオス。現出せよ」

「『最強騎士物語』『第四章、冥王爆誕』」


 リンドーの手がストーナの背を捉え、一冊の本を取り出した。

 その本はリンドーの言葉と共に輝くと、黒い糸でストーナを繭のように包み込んだ。


 街行く大衆が何事かと見守る中、繭はゆっくりと開き、中身を見せた。


 普段着のパンクな服装は、踊り子のように肩、ヘソ、胸元、太ももと露出度が上がった、ドレスのような服に変わり、背からは蝶々の羽を生やし、手には薔薇の飾りが付いたレイピアが握られていた。


 正に絵本に書かれているようなファンシーな妖精の姿をしたストーナが現れた。


 そして、同時に轟くのは黄色い叫び。


「ぎぃやぁぁぁぁあ」


 過度に露出した肌を両腕を使って隠すストーナ。


 うん、まぁそうだよね。街中だもんね、ここ。普通に恥ずかしいよね。


「このヒト、女性とは戦わないと宣言しているのに、ストーナを変身させてどうするつもりなのよ」


 と思ったが、この魔法は胴着の男の戦意を削るには最適な魔法だったようだ。


 と言うのも、


「女子の服を剥ぐ魔法だと、は、はれんちな」


 膝を突き、右手で鼻下を覆う男。

 その指の隙間からはポタポタと鼻血が溢れている。


「卑怯……な……ぁ……」


 バタリと鼻血を吹き出しながら、バタリと倒れる胴着の男。


「これまた古典的な」


 胴着の男は自身が出した鼻血に溺れ、気を失ったのだった。


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