13-A 辻斬り(格闘家)ケンザブロー=マサヨシ=ベルナデッタ
時刻は夜。
白髪の宝箱娘ミークはウルメラのギルド『果て無き大釜』の依頼を受け、泊まり掛けでおらず。
金髪のオラオラ娘ストーナも騎士団の仕事が夜勤の為、いない。
家にいたのは、朝から永遠と本の虫をやっている濃紺ローブの男リンドーと、同じくゴロゴロとダラダラとウダウダを満喫している慈悲の女神である私。
今日の晩飯当番はリンドーだったのだが、二人分だけ作るのは面倒だと言って調理を放棄し、簡単な物を食べに行こうと、麺屋へと赴いた。
本を買いすぎて金が無いからと、一つの料理を二人で分けたのだが、少し恥ずかしかった。
そもそもの量が多いので、それはそれでいいのだが、二人でお店に入ったのに一人前しか頼まないという事が、恥ずかしいのと申し訳ない気持ちになる。
かと言って、食べ切れない量を頼んで残すのも申し訳ない。
丁度いい塩梅の料理が無かった故、お金が無い故のジレンマを実感した。
その外食後の帰り道。
「貴君が、かの有名な変な魔法使い殿か」
白い胴着を着た男が道を塞ぐように、私達の前に現れた。
「ふふふふ、リンドー、アンタ、二つ名に『変な』って付いてるわよ。いい名前の売れ方したみたいね」
「あぁ、そうだな。『危険。赤と白を組み合わせた女、金欠により近寄るべからず』よりかはマシな通り名だ」
長い渾名。
時代が流れると二つ名までも説明文になるのか。
長くなっても格好良くは無いな、うん。
「ナニ〜? その変な二つ名〜、どこの誰がそんな風に呼ばれ……………………ちょっと待って、それ誰の事? もしかして私?!」
コクリと頷き返すリンドー。
「この慈悲の女神と崇められたクラリム様が、そんな金欠でカリカリしているから近寄ったら危険だよ。みたいな呼ばれ方しているなんて……誰よ! そんな呼び方してる奴、とっちめてやる」
「辞めておけ、通り名がもっと長くなるだけだ。それに事実なのだろう? 最近、公園で近所の子どもに色々な遊戯を教えては、情報料として小遣いを巻き上げる。そんな怪しい女を心配した母親達が遠ざけようと、通り名を広めているのは自然な事だ」
教えたのはメンコ、おはじき、独楽、けん玉。
この世界に無さそうな文化かつ、出来が悪くとも自分で作れそうなものをピックアップして、それの使い方を教えて売った。
概要を改めて聞くと、公園にいるちょっとヤバい奴感満載だけど、こうなった理由はちゃんとある。
「せっかく作ったギルドには依頼が来ない、パン屋のバイトは嫌、なのにストーナの鬼からは生活費カツアゲされる。お金が無いの! 仕方ないでしょ!」
「だから私は考えたの。子ども達に遊びを教えつつ、私達のギルドの名を売って、その親にギルドを認知させる。そうすれば、次第にギルドに依頼が集まる。そう、言わば私がやっているのは未来投資、広報活動なのよ!」
「その結果が、あの通り名のようだ。次の手を模索した方がいいだろうな」
「うっ……それは、そうね」
最初は遊びの神なんて呼ばれたから、調子に乗って異世界の遊びを広めていたのだが、欲が出てしまったようだ。
それに費用対効果に合ってないし、辞めよう。
木拾って独楽作った時なんか、1日掛かったのに、儲けが300マニエだったし……ミークは喜んで食べてたけど。
「……すみません、もう良いですか?」
月明かりに照らされて、ずっとファイティングポーズを取り続けていた胴着の男がそう声を掛けて来た。
私はそちらの方をチラリと見て、再度リンドーに向き合う。
「あんまり良く無いけど、いいわ。今度またじっくりと、不本意な二つ名を広めた者達に、私が神である事を分からせてあげるから」
「やめておけ、騎士団に訴えられるぞ」
「私、ホントに神様なのに?!」
「ごほん。変な魔法使いリンドーよ。一説では、魔王を一撃で屠れる実力者であるとか。その力と我が拳技、何方が上かを確かめるべく、参上した次第。この勝負、受けて貰うぞ!」
話が戻らないと思った胴着の男は無理矢理、私達の会話に割って入ってきた。
拳を構え、リンドーに向き合う。
「夜に通行人を襲うって……辻斬りの格闘版ね。もう、こっちは神の名が穢されてそれどころじゃないってのに。リンドー、一応言っとくけど決戦兵器は使っちゃダメだからね」
不意打ちをしてこなかった事からして、偶に湧く戦闘狂いなのだろう。
戦えれば、それで良しの乱暴者。
武器を持っていれば身構えるが、ステゴロなら、まだ命の危険は無いだろうと高を括る。
「分かっている」
リンドーはそう呟き、一歩前に出た。
やる気のようだ。
未だに、この男がマトモに戦っている所を見たことがないけど、明らかに戦闘慣れしている男に対し、どう立ち回るのか。
……不安だ。
私を突き出して、コッチの方が強いとか言い出したらどうしよう。それで戦闘狂いのターゲットが移ってボコられる。
うんそうなったら、全力で、逃げるしかないな。
「いざ尋常に! しょう……」
「——待て。ここでは全力を出すことは出来ない。着いてこい」
問答無用で襲い掛かろうとした胴着の男だったがピシャリと言葉に止められた。
了承した胴着の男と私を引き連れ、リンドーが案内したのは、騎士団屯所の前の広場。
「少し待ってろ」
「よかろう。魔法使いには杖が必要なものもいると聞く。準備が必要とあらば、致し方あるまい」
リンドーは胴着の男をその場に残し、騎士団屯所へと入って行ったので、とりあえず後に着いていくと、受付のソファで寝っ転がっているバンダナを巻いた男がいた。
「あっ、リンドーさんじゃ無いっすか〜。どうしたんすか? お迎えっすか? 団長なら今、公務中で手が離せないっすよ」
「ラクロット、最近、噂になっている辻斬りとかの話はないか?」
「んー、辻斬りっすか? あー、そういえば、剣士じゃないっすけど、ウルメラでも有名な道場に挑んでは、看板をひったくる泥棒の話は聞いたっすよ」
「……それって白い胴着の男?」
「そうっすね」
私とリンドーは顔を見合わせる。
何の為に騎士団屯所なんかに来たのかと思っていたが、そういうことか。
「「手柄がすぐ外に転がっているぞ」わよ」
リンドーならこう言うだろうなと思って、そのまま口に出したらドンピシャだった。
バンダナ騎士はその細い目を薄く開くと、屯所にいた騎士を動員し外に出た。
「なんだ貴君らは! このケンザブロー=マサヨシ=ベルナデッタに何のようだ! おとなしく投降しろ、だと? 断る! 今は変な魔法使い殿と手合わせの約束が!」
受付のヒトに出して貰った茶菓子を食後のおやつとばかりに楽しんで、屯所内で待っていると、程なくして、手錠を掛けられた胴着の男が連行されてきた。
「謀ったな貴君!」
額に怒り筋を浮かべ睨んだ男に、リンドーは一切視線を動かす事なく、
「謀もまた実力ということだ。それにまんまとハマったオマエが弱いだけの話だ」
喚いていた胴着の男はその言葉を聞くと、しゅんと静かになりそのまま牢にブチ込まれたので、私達は帰った。




