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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第2章 果汁100%! パン屋と四天王とワイバーン~至高の一品を求めて~編
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12-I 四天王とシェパナ

「レンブラン! レンブラン!」


 巻貝角女にして四天王シェパナは何やら箱のようなものに言葉を投げかける。

 携帯電話かと思ったが、そんなものはこの世界に無い。それは確認済み。

 ただ、様子から察するに部下か誰かとの連絡手段のようではあった。


「他のサブプランがあるなら、聞くが?」


 額に汗を浮かべ焦っている巻貝角女と対照的に静けさを纏っているリンドー。

 もう何も無いと確信しているのかは知らないが、他にプランが無ければ、まぁまぁな煽り方だな。


 シェパナは手に持っていた、その道具を放り投げ、こちらに向き直った。


「……ワタシがアナタを狙っていたことがバレていた、ワタシの魔法を無力化した、ワイバーンを餌で釣って街の外に出した、人質にとっていた街長も開放された」


 凄い言葉に出すと、何もかもを未然に防いでるな。


「だからなに? それがどうしたっての。ワタシは魔王様に認められた四天王が一人シェパナ=ヲーラ=ロマイア。ワイバーンなんて使わなくても、ワタシは強い。色々と邪魔をしてくれた、お礼にワタシがアナタ達を潰してあげるわ」

「へーん、貴方なんて、リンドーの決戦兵器で一撃なんだから。抵抗しても死ぬだけよ」


 どこからか取り出した剣の切先をこちらに向けてきたので、私は言葉で止めようとしたのだが、シェパナは笑い声を響かせた。


「あはははははは。あぁ、アレ。あんなの一度見たら躱せるわよ」


「そんな事、出来る訳ないでしょ。強がらないで!」

「……確かに、射程の範囲や威力は桁違いだけど、神使って砲撃手(ガンマン)じゃないでしょ。ただの素人が銃を撃っても敵には当たらないのと同じ。アナタの場合はただ範囲が広くて当たっただけ。精密さがあるわけでも、速射連射が出来る訳でもない」

「うっ、それは……」

「だから避けることは出来るし、避けた後に、二人を切り刻むことが出来る」


 あの決戦兵器を避けるなんて考えがまず無かった。

 言葉の強さから嘘だとは思えない。


「残念ね。せめてワタシと戦えるような戦士がいれば話は変わっていたんでしょうけど、無能の女神様じゃあ役不足」


 誰が無能じゃい、慈悲の女神だわ。

 と言いたいが、そういう空気じゃない。


「ワタシは四天王として魔王様の仇を取らなくちゃいけない。それが四天王であり続ける為の、ワタシがワタシである為に必要な事だから」


 肌がひりつくような緊張感の中、シェパナは小さく呟く。


「……リンドーさん、ああ言っていらっしゃるけど、もちろん何か策とかあるんでしょうね。こうなる未来もちゃんと予測してたんでしょうね」


 シェパナは一歩、また一歩とこちらへと歩を進めるが、リンドーは何も動かない。


「お前の言う通りだ。俺はお前を倒せない」


「あはははははは。そう、認めるのね。素直なヒトは好きだけど、ここまでバカにされて黙っていられる程、ワタシ、心広く無いの」

「……死んで」


 シェパナはそう呟いた後、一直線に駆け始めた。


 狙いは、リンドー。


「……嘘でしょ、リンドー!」


 なんとかしないと、死ぬ。だって、リンドーは変だけど不死身じゃない。


 備え付けてある盾を構え、庇おうとするが、反応が一瞬も二瞬も足りない。


 シェパナのグチャグチャの感情が籠った剣が、リンドーの首元へと。


「だが、倒すだけが勝利とは限らない」


 リンドーの呟き。

 その意味を理解するよりも先に、次に起こる景色を想像した私は、心臓を鷲掴みにされて、潰されたような感情が芽生える。


 息を飲み込み、言葉を……


「待って!」


 その言葉は、私ではなく、どこからともなく現れた。


 そして、それはシェパナの剣をリンドーの首元で止めた。


「てんちょ……ベルーニャ、どうして、ここに」


 パン屋ちゃん、ベルーニャの登場。

 顔を傾け、言葉の方へと向いたシェパナの剣を持つ手が震える。


「シェパナちゃん」

「こ、来ないで!」


「アレが援軍ってワケ? 知ってるんでしょう。この娘は、魔王と言っても、強くはない。魔族の街に住む一般人と同じ。ワタシを倒すことなんて出来ない!」


 リンドーの首に押し当てた剣に力が籠り、リンドーの首から血が溢れる。


 しかし、リンドーは何も言わず、ただベルーニャの言葉を待っているように思えた。


「違うよ、シェパナちゃん。私はシェパナちゃんを倒しに来たんじゃないよ」

「だったら……何を!」


「ねぇ、シェパナちゃん。パン屋だけじゃなくて、私の夢を手伝ってくれないかな?」


 それは張り詰めた緊張の空気を弛緩させるような明るい声だった。

 一瞬の沈黙の後、シェパナは怪訝な顔をベルーニャへと向ける。


「ハァ? 何を言って……あぁ、アナタ何も知らないのね。ワタシよ、ワタシなのよ。アナタが必死になってパン屋を成功させたいって想いを妨害して、あのショーもぶち壊そうとしたの!」


「そんなワタシをスカウト? バカじゃないの。ワタシはアナタ達を!」


「——でも、実際には何もやってないよね」


 ベルーニャは、シェパナを見つめる。


「本当に何もかも滅茶苦茶にしたいなら、本当にパンに毒を入れるだけで良かった。私のパン屋の店員を名乗って、街を歩く人を殺したら良かった」

「そもそもシェパナちゃんなら、クラリム様や神使様を見つけた時点で倒すことだって出来た。アンクーラの卵をわざわざ用意する必要なんてない」


 推測というより、願望のように思えた。


「確かに、それにいくら計画の為にパン屋ちゃんの信頼を手に入れないといけないにしても、そんな前からパン屋の店員になる必要なんてないし、パンの勉強とかしないわよね」


 私は、ベルーニャの想いに添う様に言葉を選ぶ。


「ねぇ、貴方、本当はパン屋楽しかったんじゃないの?」


 この言葉は、私にとってはいつもの様に巻貝角女に対する煽りも籠っていた。

 だが、この言葉は明らかにシェパナを動揺させた。


「違う……たまたまよ。たまたま、それが最も効率が良いと思って計画した。だから、四天王として」

「さっきから、四天王、四天王って、貴方、役職しか仇を討つ理由ないの? 四天王じゃない、シェパナ個人は、どうしたいのよ」

「……ワタシ、個人?」


 シェパナはリンドーから剣を引き、私やベルーニャへと剣を向ける。

 だが、その剣を持つ手は震えていた。


 言葉を詰まらせるシェパナ。

 誰もが次の言葉を待った中、それを許さない者が現れた。


「ふざけるなぁぁぁぁ!」


「キャッ!」

「パン屋ちゃん!」


 絶叫と共にドスンと箱が地面に落ちた音が聞こえ。

 どこからともなく現れた老人は、ベルーニャを抱き、その喉元へナイフを突き付けた。


「何がパン屋だ! シェパナ様、貴方は魔王軍四天王だ! それ以外には何でも無い!だから、貴方には前魔王を殺した奴を、王位を簒奪した奴らに復讐する義務がある!」


「……レンブラン」


 シェパナの瞳が揺れ、その男を見つめる。


「貴方の元で今まで働いてきた俺はどうなる! 貴方が魔王の信頼を得ているからこそ、貴方を選んだのだ。魔王が死んだのなら貴方が新たな魔王になるべきで、この俺が、そのナンバー2になるのだ! さぁ、さっさと四天王として復讐を果たし、王位を戴け!」


 唾を吐き散らし、怒鳴る老人。

 シェパナは剣を持つ手を更に震わせ、苦悶の顔を見せる。


「さぁ、殺せ!」


 老人はベルーニャの首を締め、シェパナへと催促する。


 そこにいるのは四天王であるシェパナか、それとも。


「出来ない」

「はぁ?」


「ごほっごほ……シェパナちゃん」


 老人の腕から力が抜け、咳き込みながらベルーニャは己が店の店員の名を呼んだ。


「ワタシは生まれた時から強かった。お父様もお母様も、ワタシの強さを褒め称え、それに応えて更に強くなった。人族と戦い、数多の戦果を上げ魔王様に認められて四天王になった」


「ワタシに宿る強さこそ、ワタシの存在の証だと思ってた。違う、ワタシには、ソレしかなかった。だから四天王という強さの称号が失われるのを恐れた」


「でも今は違う。ベルーニャは、店長は、ワタシが四天王であるかどうかに関係なく、接してくれた。店長のお店は、お客さんも店員も皆んな笑って、温かくて、ワタシが生きた世界とは別の世界だった。そこで、ワタシは初めて強さ以外のワタシを知った」


 言葉に詰まりながらも、芯のある声が響く。


 この話を聞いて、私は巻貝角女に対して苦手意識を持っている理由に気付いた。

 どこか似ているのだ。この女性と私は。私が神という立場に振り回されるように、彼女も四天王という立場に振り回される。

 それで、自分が何者かであるかが分からなくなる。


 そんな似ているような雰囲気を感じ取って、互いに互いに歯に衣着せないような言葉を吐くのだろう。


「だから、ワタシは四天王を辞めてでも、店長の夢を手助けしたい!」

「シェパナちゃん!!」


 似ているからこそ分かる。

 今のシェパナの言葉が本心であることを。


「クソ! 四天王だって言うから散々従ってきたっていうのに、最後の最後に日和りやがって! 所詮ガキだな。強いだけが取り柄のガキ。ほんちょっと優しくされたらコロってか!」


 ベルーニャを抱えながら、フラつく老人。

 その瞳は定まっておらず、今にも何か突飛な行動をしそうな状態だった。


 シェパナもベルーニャを救おうと、隙を伺うが老人は警戒を解かない。


「リンドー」


 小声で隣にいる男に話しかける。

 いつ爆発するか分からない、この膠着した状況を打開出来るのは、この男しかいない。


「今回の出来事は全て、始まる前から終わっている。だから、俺が追加で何かをする必要はない」

「そんな呑気な事を言っている場合じゃ」

「アイツがさっき床に落とした箱。見覚えはないか?」


 その言葉に釣られ、視線を滑らせる。


 そういえば、箱が落ちたような音はしてたけど、その箱がなんだって……


「あっ、アレは!」


 両手で抱えられる程の大きな箱。

 その中心にある鍵穴は、それがどういう箱なのかを理解させる。


 そして、私はその箱を毎日見るくらい知っている。


「もういい、このまま俺が代わり全部殺して、四天王の座も貰ってやるよ!」


 老人の目が血走り、そのナイフをベルーニャの胸元へと刺そうとした瞬間、足元の宝箱が独りでに開いた。


「ぱくっ」


 飛び跳ねた宝箱は口を開くと、老人の顔面へと齧り付いた。


「へ? ぎゃあああああああああああ」


 老人から発せられる痛々しい絶叫。

 これは私の口からも何度も出た物だなぁと感慨に耽らせるものだった。


「……まず」


 急に現れた白い短髪の少女は、そう呟いてヌメっとした唾液と共に気絶した老人を吐き出すのだった。

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