12-H ツワモノとヨワモノ
「テメェは包囲されてる! 大人しく出てきやがれェェ!」
金髪の荒々しいポニーテールの女は一点を見上げ、がなり立てる。
視線の先にあるのは、ウルメラの街を治めている街長の部屋。
声は届いているはずなのに、誰一人として姿を現さない。
彼女を取り囲む騎士団員が今にも突撃を仕掛けようとする中、一方、街長の執務室はというと。
机の中からドロっと出てきた皺だらけの老人レンブランは、窓から増えていく騎士団員を見下ろしていた。
「アンクーラは逃げ、騎士団に包囲された……シェパナめ、いったい何をしておるのだ」
上司であり尊敬すべき四天王に対し恨みを吐くレンブラン。
それを楽しそうに見ていたのは手足を縛られた人質の男。
「どうやら、キミたちの計画は失敗したようだね〜」
「貴様! 何をした!!」
煽られたレンブランは手に持ったナイフで街長の顔を切り付ける。
街長の顔に流れる赤い血。
薄皮一枚程度の傷だが、街長は切られた事に動じる事なく、笑みを浮かべ続けた。
「何も。ボクはキミたちの要請通り、あの魔王のパン屋を陥れるのに加担した。その上、誰にも助けを求める事なく、この部屋で仕事をし続け、キミが考える偽装もこなした。ボクの身が清廉潔白なのはキミが一番よく知っていることじゃないか」
「なら、いったい何故こんなことになっているのだ!」
レンブランは机に拳を叩きつけ吠える。
レンブランの計画は完璧だった。
体を液状に変える事が出来る体質を活かし、街長を机の中から終始見張る事で、街長に不穏な動きを許さず。少しでも従順を解けば即座に殺せるようにしていた。
この計画が始まってから、街長は何一つ問題を起こす事が無かった。
なのに、騎士団にバレている。
この矛盾にレンブランは頭を悩ませた。
「うーんそうだね。一つ、言える事とすれば、キミ、ボクに仕事させすぎ」
「なん、だと」
街長は確固たる自信を持って推理を披露する。
「ボクね、基本サボり魔なの。日中の仕事なんて、街の見回りしてくるって言って部下に全部押し付けるから、この部屋にいる事は殆ど無い。だからさ、この部屋にボクを軟禁してる時点で、ボクを知る皆んなは、なんで街長が部屋にいるの! やったー普段、全然捕まえられないのに! でも変じゃ無い? って思うワケ」
「普通である事が、普通で無かった……と?」
「ま、そういうことだね。キミが思う普通はボクに取っては普通じゃなかった。もー、ボクも一年間分くらい仕事させられたからクタクタだよ〜」
「ならば、貴様を人質にするまでだ。立て、付いてこい」
「それはオススメしないかな。ボクってば、街長って言っても、いくらでも替えが効く普通のヒトだからさ。街の平和の為なら、騎士団の皆んなもボクごとキミを屠るだろうね」
紛う事なきピンチ。
街長の部屋の外、大量の騎士団員に包囲されている状況。
一介の魔王軍兵であるレンブランにはどうすることも出来ず、最後の綱とばかりに騎士団を脅して逃亡を図ろうとしたが、それすらも意味がない事を理解させられた。
「ッチ」
レンブランはニヘラ笑いを止めない街長を殴り飛ばし、部屋の出口へと向かう。
「いててて、そうだ出ていく前に一つだけ……ありがとう」
「キミ達のお陰で、この街のパン屋は一段階進歩したよ。半額キャンペーンを行った事で、普段パンを買わないヒトがパンを買うようになり、それに影響されたように店ごとの競争意欲が高まり、各店舗、看板メニューを開発するようになった」
レンブランが振り返り、街長の顔を見ると、今までのニヤケ顔は消えていた。
あったのは似つかわしくない真面目な声とその表情。
「いやぁ。偶には脅されてみるものだね。ボクが思いつかないような施策で、街が潤うんだから」
圧倒的強者であるはずのレンブランは、その街長の温度差に恐怖を覚えたのだった。
「そうそう、お礼と言ってはなんだけど、この部屋の外にプレゼントを用意しておいたよ。ボクの友達からの贈り物で、是非、キミにと頼まれてた物でね。それを持って右手三番目の窓から飛び降りれば、きっと、騎士団の包囲網を突破できるはずさ」
何も言えず、再度立ち去ろうとしたレンブランはその言葉を背に背負い、部屋を出た。
ポケットに入った通信道具からシェパナの声が鳴っているのに、気付かない程、頭を真っ白にして。




